部活の名前が決まらないんだが!?
「──猛省しているわ。だからこの張り紙やめてくれないかしら」
苦い顔を浮かべる湊の首には『私はスケジュール管理もまともにできない無能です』と書かれた張り紙がぶら下がっている。正確にはぶら下げさせている。
「だめだ、せめてこの部屋ではつけておけ。もう少しお前は自分がダメ人間なんだってことを自覚すべきだ」
俺は少し腹が立っている。なぜなら先ほどの言い訳でジリジリと俺まで責任があるようにしていったからだ。しかも普通に考えればこいつが部長だ。こんな状態で部長になるとか、部長連とかあったら流石にポンコツを隠せなくなる。最低限これくらいはやらないとこいつは成長しない。
「八重洲も少しは言ってやれ。こいつこのままじゃいつまで立っても無能だぞ」
「う〜ん、そうだよねぇ。ねぇみれちゃん、なんでこんな簡単なこともできなかったの?」
「……八重洲さん、貴方結構きついわね。もろに入ったわ」
うん、今のはひどいな。俺だったら泣いてるかもしれん。湊のいう通りみぞおちにメリケンサックつけた拳で殴られていた。
俺は呆れながらも流石にみていられなくなったので、話題を戻してやった。
「で、結局部活名はどうすんだ? もしかして案の1つもない感じ?」
湊は徐に首を縦に振った。ほんとに俺たちが知っている情報以外は何もないらしい。
「はぁ、もう適当に幽霊部とかでいいんじゃねぇか?」
「別にそんなにおかしくはないのに、貴方がいうと何もしない部活感がすごいわね。もしかしてそれが貴方の才能?」
やめろよその才能。人間何かしらの才能があるとはいうが、こんなのが俺の才能だった場合、俺は神を一生恨むぞ。
「じゃあオカルト部とかでいいだろ。幽霊だし普通にあるし」
その言葉を放った瞬間、湊は水を得た魚のように勢いよく俺に視線を向け、饒舌に語り始めた。
「貴方バカなの? 幽霊がオカルトな訳ないじゃない」
「復活早々辛辣だなおい。幽霊はオカルトだろ? だよな八重洲」
俺の問いかけに対し、指先を顎に当てながら考える八重洲。
「う〜ん、私も幽霊はオカルトだと思ってるんだけど……違うん?」
「八重洲さん、貴方それでも幽霊なの? そんな考えだから体は透けないし浮けないのよ」
よくわからんダメ出しを送った湊は、まるで「しょうがない、教えてやるか」みたいな表情になり、腕を組み始めた。そのせいで張り紙が『私は無能です』となっていることは黙っておこう。
「では聞くけど、オカルトとはそもそもなんだと考えているの? 黒薙君にとってのオカルトって何?」
なんであ「貴方にとっての仕事とは?」みたいなことを聞かれにゃならんのか。ぶっちゃけどうでもいいが一応言ってやろう。
「そうだな、幽霊、宇宙人、UMAとかじゃないか? 世界三大Uだ」
「そう、一般的にはそう言われているわね。でも考えてみなさい。それらが何故オカルトと言われているのか? 何故三大Uと呼ばれているのか」
三代Uは俺の造語ですよ湊さん。多分こいつ学がないからほんとにそう呼ばれてると思っているんだろう。
「で、そのサンダユウがどうしたの?」
「八重洲ちょっと違う、それは毒蝮。こっちは三大Uだ」
「そうよ八重洲さん。そんなことも知らないの? 三大Uくらい常識じゃない」
うすら笑いを浮かべ、勝ち誇った表情で八重洲を見つめる湊は、『私は無能です』にぴったりだなと思いました。であと八重洲、お前は悔しがんな。それも恥ずかしいぞ。
「そんなことはどうでもいいんだ。結局お前は何が言いたいんだ?」
「そうね、話が逸れてしまったわね。何故三大Uがオカルトと呼ばれているのか、それらは基本見たり触ったりできないとされているものでしょう? そして存在しているか100%は証明できないものよ。だけど私たちは幽霊を見れている。八重洲さんに至っては本人よ」
なるほど、こいつの言いたいことはなんとなくわかった。
「つまり、存在していると確信できているものをオカルトとは呼ぶな、ってことか」
「そういうこと。幽霊が見えている私たちがオカルト認定するというのは、チンパンジーを見て『あ、新人類』と言っているようなものなのよ。いかに愚かしいことを言っていたのか、分かったかしら?」
なるほど分かった。こいつが国語だけは得意なんだろうな、というのはすごい分かった。
などと半ば呆れていると、八重洲がとんでもないことを口走りやがる。
「なっ君とみれちゃんってさ、なんか似てるよね!」
「は? 俺がこいつと似てる? それはサンタとサタンが似てるよねって言ってるようなものだぞ」
「八重洲さん、世の中には言っていいこととだめなことがあるの。今の発言世が世なら打首よ」
全く、八重洲の節穴加減には呆れて物が言えない。俺はここまで高圧的じゃないし捻くれていない。さらにここまでだめなやつじゃない。本気で言っているのなら名誉毀損だ。
「ご、ごめんごめん。取り消すから〜(似てるけどなぁ)」
そんなくだらない話をしている最中、ふと壁にかかっている時計を見ると、時刻はすでに16:30を指していた。HRが終わったのが15:30。つまりなんの進展もないまま1時間も立ってしまったのだ。
「こりゃ今日中に提出は無理だろ……」
そう思った矢先、部屋の扉がガラガラと音を立てた。音の発生先に立っていた人物、それは我らが部活の顧問、城端先生だった。
「お〜い湊、まだ創部申請書出していないようだが、今すぐ出せるか? 出せるなら持っていってあげるが」
本来であればものすごく嬉しいイケメンムーブ。しかし今回に限っては首を絞める行為に他ならない。俺たちは湊に黙って視線を向けた。「原因であるお前が説明しろ」という無言の圧である。
「創部申請書ですよね、大丈夫ですよ、すぐ出せます」
辿々しく答えた湊の様子に、なんの事情も知らない城端先生も理解したようだ。そんな湊に先生は意地悪く詰め寄る。
「湊、すぐ出せるなら持っていってやるぞ。あ、前に聞いた時は部名が決まっていないと言っていたが、結局何にしたんだ? 私も顧問だからな、知る権利くらいあるよな?」
湊はしばらくの沈黙の後、目を逸らしながらこう答えた。
「…………オカルト部」
「おい! お前それはないだろ!」
「みれちゃんさっき幽霊にオカルトっていうのは愚かしいって言ってたよね?! 前言撤回どころか前言にあたりに行ってるよ!」
湊は俯き萎れている。八重洲ですら流石にキレていたが、他のことならまだしも今回はフォローしない。自業自得とはこのことである。
「黒薙、どこまで決まっているんだ?」
城端先生は呆れながら腰に手を当て、俺に進捗状況を尋ねてきた。
「そうですね、オカルト部はないって湊に論破されたくらいですね。湊に論破されました。それ以外はマジで進んでないです」
「湊、自分でないと言ったものを口にしたのか? それはないぞお前。あと首に下げているそれはなんだ?」
「…………すいません」
部長であるはずの湊は目がくたばり、顧問は頭を掻きながらため息、幽霊は苦笑いを浮かべ、俺は目を細めながらため息をついた。
「この部活大丈夫かよ?」
──そう一言呟きながら。
✳︎
しばらく無意味な静寂が流れ、刻々と進んでいく時計の針だけが部屋中に鳴り響いた。
「結局どうすんだこれ? とっ散らかったまま終われないんだろ?」
期限が明日までとかであればまだなんとかなったかもしれんが、今日までと言われて仕舞えばしょうがない、積極的にアイディアを捻出するしかあるまい。
「お前さっきメモ代わりだとかいう紙屑あったろ? それ貸せ。とりあえず思いついたもの書き連ねるから」
「え、えぇ。分かったわ」
湊は再びぐしゃぐしゃのカバンを掻き出し、机に並べ始めた。先ほどはいなかった城端先生は愕然として声も出ないようだ。
「あったわ。どうぞ」
どうぞいう言葉に一瞬めくじらを立てつつも、いちいち突っ込んでいては話が進まないので素直に紙を受け取った。
受け取った紙を裏にして広げると、先ほどは見当たらなかった赤いマーカー線が透けて見えた。俺はなんの気無しにその紙をめくると──
『湊玲衣、数学、期末テスト、32点』という文字が目に飛び込んだ。
「うわぁ……」
これは流石にだめだ。これは見てない。いいな俺?
開いた紙をそっと閉じ、湊に返却する。
「おい湊、これさっきのやつじゃないぞ。さっきのやつを渡せ」
そう言って手渡すと、湊は不思議そうな顔をしながら受け取った。
「別になんでもいいと思うのだけれど。貴方結構細かいの…………」
カバンにしまう直前、横目で俺の返却した紙を湊は硬直する。そして即座に別の紙を俺に手渡した。
「はいこれさっきのやつよ。お願い、するわね」
「お、おう……」
手渡した湊は、うっすらと肌を赤く染め、目は少し潤んでいるように見えた。
「え、えっと、とにかくアイディア出しまくれ! 検討はそれからだ」
「私も手伝おう。どうせハンコを押さねばならんのだしな」
そう言いながら城端先生も机を運び湊の真横に座った。結果としてバランスが良くなった気がする。
「すいません先生。助かります。──んじゃ八重洲から言っていこうか」
八重洲は「う〜ん」と何度も首を捻りながら考え、何か閃いたように身を乗り出した。
「調査したり解決したりするんでしょ? だったら探偵部なんてどう?」
「探偵部ねぇ……OK次湊。オカルトは無しな」
「分かってるわよ。そうね、幽霊に関する部活なのだし、そこはわかりやすい方がいいわよね?」
そう言って顎に手を当てながら考える光景は、『私は無能です』がなければさぞ様になっていたのだろうと思う。
「心霊、幽霊、怪奇現象、相談……こんなところかしら」
「最後は置いといて幽霊っぽいのは今のでだいぶ上がったな。じゃあ次城端先生お願いします」
視線を向けられた城端先生は、なぜか勝ち誇ったような表情で笑っている。既視感のある表情だ。嫌な予感しかしない。
「ふっ、まずは若人ども、お前たちは部活名というのを履き違えている。古来より創部したときの名前というのは独創的であるものだ。囲碁サ○カー部然り、仮面ラ○ダー部然りな。それをお前たちはお利口にまとめおって」
分かった、この人テンションが上がっているんだ。まぁ普通創部する生徒なんていないし、長く教師をやっていて1度そういう機会があるかどうかくらいだろう。いや、ない方が多いと思う。
そんな中まさかその瞬間に立ち会い、さらにはその部活の顧問になるというのだ。俺だって巻き込まれてなきゃテンション上がっているかもしれない。ってか仮面ライ○ダー見てんだな。親近感を感じる。
「で、結局部活名はなんなんですか?」
「ははん、では発表しよう! 私が考えた部活の名前は! デュルルルルルルルルルルルレレルレルレ……疲れた、黒薙言ってくれ」
「さっさと言ってくださいよ」
分かるよ、テンション上がるとドラムロールしたくなる気持ち。でもあれ意外と疲れるってことを俺より長く生きてんだから知ってて欲しい。もう後半とかルレルレってなってたし。
「じゃあ発表するぞ、私が考えたのは、ズバリ! ──ゴースト探偵部!」
「却下。じゃあ次は……」
「えっ、なんで?! いいじゃないかゴースト探偵!」
城端先生は前のめりになりながら抗議してきた。なんとマジでいいと思っていたらしい。もしかして囲碁サッ○カー部って名前すごい良いなぁって思ってるパターンの人か?
「えぇ〜、じゃあたんれい部とか?」
「淡麗部?」
なにそれ、ビールの名前? 飲みサーでも作るのか?
「多分考えてるの違うな。探偵の探に幽霊の霊で探霊部だ。語呂はいいだろ? まぁ個人的にはこんな名前よりゴースト探偵部の方が──」
「よしじゃあ今日から俺たちは探霊部だ。決定な」
「え、うそ私ので決定?」
城端先生は目を丸くし、そんなばかなと言いたげな態度をとっていたが──探霊部、俺はいいと思った。どうやらそれは俺だけではなかったらしく、湊、そして八重洲も首を縦に振っていた。
「いいと思います。意味もちゃんとしてますし、何より恥ずかしくないです」
「うんうんいいじゃん探霊部! ちゃんと部活っぽい名前だし!」
「だよな、そう思うよな。まぁ多分それもこれも──」
俺は確信している。探霊部という名前がいいと思ってしまっている理由、それは──
「「「ゴースト探偵部よりはなんでもマシ!!!」」」
そう、これに尽きるのだ。あれを聞いた後だと全てがマシに聞こえる。多分今オカルト部と言ったら湊は手を叩いて称賛するだろう。それほどまでにゴースト探偵部は嫌なのだ。
こうして無事創部申請書を書き上げることができた俺たちは、安堵の中背もたれによしかかった。
「じゃあ私はこれを提出してくるから。……ほんとにゴースト探偵部じゃなくていいんだな?」
「しつこいですよ、探霊部でいいですから。んじゃ、提出よろしくお願いします」
不満そうに部室を出て行く城端先生。本当に悔しそうだった。なんだかぶつくさと小言も聞こえる。
確かに否定こそしたが感謝もしている。先生のおかげでめちゃくちゃ早く名前が決まったのだ。消去法感は否めないところだが。
こうして俺たちはすっきりとした心持ちで帰路につくのだった。




