なんか美少女はポンコツだったんだが!?
「ねぇなっ君、なんでテスト途中で諦めたの?」
テストが全て終わり、今日から始める部活動のために例の空き教室へと向かった。その道中、テストで足掻くことをやめ筆を負ったことについて質問を受けた。
「なんでって言われてもなぁ。まぁこんなもんだろって思ってな」
「こんなもん? 68点はこんなもんじゃないと思うけど……」
えっ、そうなの? いつもテストが帰ってきた時それくらいの点数でも「あ、うん知ってた。そうだよね、こんなもんだよね。わかるわかる」と気持ちを宥めていたというのに。
「それ以外の言い方をするなら、剱が原因、というか理由かな」
「あの子に何かされたん?」
「いんや。そんなんじゃねぇけど、まぁ簡単にいうなら、あいつだって間違うんだって分かったからだな」
「ん? そんなの当たり前じゃん」
そう、当たり前だ。しかし俺は剱に対して妙な幻想を持っていたらしい。今回それがはっきり分かった。
「あいつ、人に点数見せたりしないんだよ。だから今まで100点なんだと思ってたんだが、あいつも間違えるんだとはっきり分かった。顔よし性格よし頭よし運動神経よしというプラス点満載のあいつでも間違えるんだ。であれば見た目平凡、ぼっち、陰キャ、幽霊に憑かれているなどの様々なマイナス点を考慮すれば、俺の68点はあいつの96点みたいなもんだ。いやむしろ100点と言ってもいい。つまりこのテスト俺の勝ちだ!」
「大敗を喫してるよ! それに私ってマイナス点なんだ?!」
耳元でオーバーなツッコミを入れる八重洲。ぶっちゃけすごいうるさい。そして「ぅぅぅぅ」と泣きべそをかく彼女に俺は「忙しいやっちゃな」と感想を漏らした。
そして部室へと到着した俺たちは積まれた机と椅子を1つずつ運び出し、埃を払ってから腰掛けた。彼女は机に突っ伏している。
気になったんだが、今この光景って八重洲が見えていないととんでもなくホラーな絵面なのではないだろうか? 机たちが飛んで埃が落ちて……頼むから部外者来ないでくれ。
と、なんの生産性もない不安を感じていると、1人の少女がにこやかに部室に現れた。
「──こんにちは、八重洲さん。それに戦犯、じゃなった黒薙君」
朝とは違いニコニコとしている湊だが、目が笑っていない。それに相変わらず隈がえらいことになっている。
「あ、朝ぶり〜みれちゃん!」
みれちゃんとかいうあだ名を勝手につけていた八重洲は、港が来た瞬間に復活した。
「湊……なんだよ戦犯って。俺なんかしたか?」
「いえ、良いのよもう。だって終わったのだし。そう、終わったのだし」
なんで2回言ったし。それに1回目は疲労、2回目は絶望が感じられた。
「お前まさかだけどテスト……」
「ち、違うのよ、本来なら80点は固かったはずなのよ! 数式はしっかりと頭に刻まれていたの。それなのにあのタイミングであなたが話しかけるから! ……40点返しなさい」
……マジかよこいつ数学40点か。ここにいるとどんどんこいつの印象が変わっていくな、もちろんダメな意味で。ってか終わったってそういうことか。
うちの学校には漫画とかでよく見る『テストの成績上位者一覧』みたいな張り出しは存在しない。そのためバカがバレないやつは最後までバレなかったりする。湊もそういう感じなのだろう。だから成績優秀とかいう根も葉もない噂が飛び交うのだ。
勝手に印象付けされるのも大変だなと憐んでいると、八重洲が急に禁句を言い出した。
「みれちゃんもしかして結構バカなの?」
「バッ!……」
「おい八重洲ばか! なにストレートに言ってやがんだ! ちょと印象と違って、ちょっとおバカで、ちょっとポンコツなだけだろ!」
「ポ、ポンコッ……!」
主に八重洲のせいでダメージを受けまくった湊は、目の下の隈以外真っ白になった。なにやら口から半透明なものが出ている。魂だろうか?
「あ〜あ、八重洲のせいだ」
「どうみてもトドメはなっ君が刺したと思うんだけど」
「そうかぁ? まいいや。──湊、そろそろ戻ってこ〜い」
俺の呼びかけが通じたのか、魂はゆっくりと体に戻り、体には色が戻った。
「はっ! 生き返ったわ。危なかった……私が相談をする羽目になっていたわ」
相談? なんの話だ? 魂が出ていて生き返った、そして相談……わからん。
「なぁ、相談って何の話だ? そもそも俺たちはなんの部活をするとか、そんなところから全部わからんのだが」
「あら、言ってなかったかしら? じゃあ説明するからひとまず座りましょう」
そう言って机と椅子を運んできた湊だが、俺と八重洲の前でウロウロし始めた。八重洲は不思議そうにしていたが、俺には理解できる。これはコミュ障がぶち当たる難所。それは──
「とりあえず話し合うんだから前に座ったらどうだ? それこそ相談っぽくなるが、今は構わんだろ」
「えっ、あ……そうね」
こうして湊は俺たちの前に机を置き座した。
因みにコミュ障がぶち当たる難関、それはどこに座れば良いのか問題である。俺たち2人が真横に座っているのだから横並びになるべきなのか? それとも真正面に行くべきなのか? 問題である。横に座れば「こいつ俺の隣に来なかった」となり、正面に座れば「うわ、真正面に座りやがったよ。気使うわ」となる。いやほんとかどうか知らないが、勝手にそう思ってしまうのだ。
「で、では、早速本題に入ります。知っての通り私は幽霊が見えるわ、生まれつきね。そして幽霊っていうのは基本的に未練がある存在なのよ」
未練。その言葉を聞いた時、横目で八重洲を見つめたが、「へーそうなんだ〜!」とか言っている。他は知らんが、少なくともこいつは例外だな。
「今まで私はこの能力が嫌で嫌で仕方なかったわ。だけど、どうせ消せないこの力、だったら使ってやろうじゃない! ……こういうことよ」
「動機は聞いてねぇよ。まずなんの部活かを言え」
長々と話を聞かされ、よしやっとメインだと思った矢先に唐突に終わった。打ち切りじゃないんだから端折るんじゃねぇよ。
「つまり、幽霊が見えることを使った部活をしたいってこと?」
八重洲の言葉に、目を輝かせながら指さした。
「そう! それよ八重洲さん! あなた見た目に反して頭いいのね」
「ねぇなっ君、もしかして今私バカにされてる?」
「バカにされてるかどうかは置いといて、バカだとは思われてるんじゃないか?」
「なっ! ひどい〜みれちゃん!」
ぽこぽこと拳を振るも全てすり抜ける光景は、なんともシュールだった。
「話を戻すわね。先ほど八重洲さんが言ってくれたように、私の幽霊が見えるという能力を生かした部活を作りたいの。具体的には幽霊のせいで困っている人の相談に乗ったり、逆に未練のある幽霊の問題解決をする部活ね」
なるほど、それでさっき私が相談と言ったのか。
なにをする部活なのかはなんとなくわかった。要するにこの学校の幽霊に関することならなんでもござれ、ってことだ。
「活動は理解できたし文句もない。じゃあ次、部活名はどうするんだ? 考えてあるんだろ?」
自分からやりたいと言って始めた部活だ。部活名くらい考えてあるだろう。当然のようにそう思っていた俺は、このすぐ後に驚愕をする。
「部活名? ……あ、テスト勉強に夢中で忘れてたわ。そういえば期限!」
さらっと決めていないことを告げてきやがった湊は、なん雑に収納された鞄の中身をひたすら取り出し、1枚の紙をマジマジと見つめ出した。
「汚いなおい……今日のテストの問題用紙がもうくしゃくしゃだ。このプリントとかいつのだよ……去年の10月?! 捨てろバカ!」
「それはあれよ、もしかしたら何かのメモ用紙として使えるかもしれないじゃない」
「だったらメモを買え」
まさかこいつ片付けもできないとは。逆にこいつ何ができるんだよ? 勉強できない片付けできない、そして恐らくだが運動もできない。もうできること数えた方が早いんじゃないか?
「ねぇみれちゃん、さっきから何みてるの?」
「それは俺も気になっていた。ってかさっき期限とか言ってたよな? なんの話だよ」
そう詰め寄ると、湊はあからさまに目を背けながら手に持っていた紙をこちらに見せてきた。
「え〜っとなになに……創部申請書。下記の期日までに2名以上の部員名簿と部活名、使用する教室の明記と顧問のはんこを添えて生徒会まで提出するように……っておい、この期日に見覚えがあるんだが? というか今日のテストで嫌になるほど書いたんだが?」
「……そうね、その気持ち痛いほどわかるわ。だから私と貴方は同類、一蓮托生、連帯責任、ということでいいわよね?」
「おいお前クビにすんぞ」
湊が見せた申請書、ここに記載されていた期日とは今日であり、そして現時点でその紙は真っ白だった。




