テストの時間が始まったんだが!?
「はぁ、今日からテストか……憂鬱だ」
本日より2日間は中間テスト週間だ。学生なら誰しもが1度は思ったことがあるだろう。今日休もう! と。
しかしどこか察している。休むより解いていた方が幾ばくかマシだということを。赤点を取った時の補習の面倒さときたらない。
なんだか久しぶりに朝食を食べている感覚になり、俺は自分自身に「お疲れ様」と心の中で呟いた。いやまじでお疲れ。
「なっ君テスト大丈夫なの? 昨日もアニメに時間を費やしてたけど」
「大丈夫大丈夫、毎回こんなだが国語社会は毎度80点台だしな」
「数学は?」
国語社会だけ言った時点で勘づいて欲しいものだが、まぁいいか。
「安心しろ、赤点はない予定だ」
「ダメなんじゃん!」
馬鹿だな八重洲は。赤点じゃなければセーフ、どころか万歳三唱だろ。だって赤点じゃないんだもの。
「知らないからね赤点取っても。私こういうのは教えないからね」
「分かってるよ。それに教室には城端先生がいんだ、お前使ってカンニングなんて一発でバレるっての」
「あぁ、それもそっか」
どうやら話は終わったらしく、八重洲はリモコンを手に取りチャンネルをいじり始めた。こいつほんっと幽霊感ないよな。自分のテリトリーを映すやつはいても情報番組に合わせる幽霊なんて俺がオカルトマニアなら絶対に見たくない。
「幽霊といえば、湊の作る部活ってどうなるんだろうな? そもそもどんな部活にすんのかも聞いてないし。先延ばしにしたと言っても明日テスト終わりに集まるんだろ? 八重洲なんか聞いてないか?」
別にやりたくはない部活だが、やらなければいけないのならちゃんとやろう。まぁ適当な部ならその必要もないんだが。
「いや、私も聞いてないよ。でもあの子の作る部活だから多分面白いよ!」
「そうかぁ? ま、どっちでも良いけど」
俺は部活の先行きのなさ、そして内心バクバクしているテストを今は忘れるように──こんがりしすぎたパンを噛みちぎった。
✳︎
自転車を漕ぎ学校へと到着する。朝練なのだろう野球部の声が割とうるさい。
少し逸れるかもしれないが日本にブラック企業がのさばり、その会社に迎合してしまうのは部活動が大きく影響していると思う。例えばそこの野球部なんて、人によっては夜9時とかに終わって朝5時から朝練とかがあるだろ? そりゃそんなことやってたら麻痺もしよう。
要するになにが言いたいかというと、湊が作る部活は夕方終わり朝集合なしがいいなぁということである。
などと、これから待ち受けるテストとは一切関係ない思考を巡らせていると、廊下のど真ん中でばったりと城端先生に遭遇した。手元には大量の紙が乗っている。あれを燃やせば今日のテストはなくなるのだろうか?まぁなくなるだろう、俺が原因の学年集会によって。
「おはようございます城端先生」
「おっはよ〜ございます!」
「ん? おぉ黒薙! それと八重洲も! おはよう」
城端先生は片手を上げられない代わりに紙束を持った両手を肩ごと軽く持ち上げた。
「持ちましょうか、俺……あと八重洲が」
「落ちたテストを見るつもりだろ? そうはいかない」
「さすが先生。慣れた返しだ」
おそらく過去にも俺みたいなやつはいたのだろう。じゃなければテストなんて委員長にでも運ばせればいい。
だがそれをすると委員長が俺みたいなやつだった場合テスト問題は垂れ流しになる。別に俺が流すとかではない。「見せろよ!」というヤンチャな方々の圧力、もといお願いに折れてしまうからだ。
「そういえば黒薙、湊の件ありがとうな。君を頼れば結果的にああなるとは思っていたんだが、予想以上だったよ」
「うわぁ〜、まんまと利用されてんよ俺」
「ははっ、君はなんだかんだ優しいからな。そういうところは弱点でもあり美点だ。私は好きだよ」
真っ直ぐと穏やかな表情で好きだと言われ、思わず俺の頬は火傷する。見た目がいい上にこの人の人間性を知っている。これは本気で言っているのだと確信できるから余計に恥ずい。
あと八重洲、背後で腕組みながら大きく頷くのやめてもらえないですかね? 見えてるから。
その時、俺たちの真横を湊がぶつぶつと何かを呟きながら通り過ぎた。呪文か? いずれにせよ挨拶くらいしておこう。
「み、湊……おはよ──」
「ぁ……!」
ぁ? なんで今やばいみたいな声を上げた?
理由がよく分からないまま彼女を見つめていると、いきなり恨めしそうな形相でこちらに振り返った。
「……今のところチェック入ったら貴方のせいよ」
「は? なんの話だ? ってか怖ぇぇよ、おっかないおっかない」
しばらくこちらを睨みつけた後、湊は再び呪文を唱えながら歩いて行った。近づけねぇのやっぱりあいつの自業自得じゃね?
というかあまりジロジロ見てはいないが隈なかったか? もしかして詰め込むタイプなのかあいつ。
などと感想を頭で漏らしていると、5分前を知らせるチャイムが響いた。
「ぅおっと、もう行かねえと」
「おや、もうそんな時間か。いくぞ黒薙、遅刻はいかんからな」
こうして俺たちはチャイム2分前に教室に到着し、それぞれ所定の席についた。
テスト前独特の雰囲気が教室中に漂う。その空気に当てられ先ほどまで落ち着いていた心が波を打ち始める。これは何年テストを受けても全く慣れてくれない。
1時間目は俺の1番苦手とする教科、数学である。毎度応用に頭を悩ませ、動く点Pに苛立ちを覚えている。そんなことを考えていると終わっているのだ。不思議である。
「なっ君! 頑張れば90点くらい取れるから頑張って!」
え? なにこいつ? まじで頭いいの? 嫌なんですけど。
そしてチャイム直前城端先生が用紙を配り始める。少し問題が見えたがもうやる気が削がれた。生徒のやる気を著しく低下させるテストなんてやめたらいいと思います。
そして次の瞬間、頭を悩ませる50分間の開始を知らせるチャイムが鳴った。
「では、始めてよし」
城端先生の合図を皮切りテストを表に向ける。そしてその後黙々と問題に取り組んだ。別に嫌でテスト勉強にやる気がないだけで本番は真面目にやる。
最初の基礎問は出来るので、ここで出来るだけ点数を稼いでおきたい。
そしておよそ40分が経ったかという頃、教室の中をウロウロしていた八重洲が机を通り過ぎるごとにボソッと数字を呟いていた。
「72……58……81……ぁ、27……」
呟かれた数字と呟かれた生徒を比べてみてなんとなく理解した。あれはテストの点数だ。これはヤンキーの小矢部が27だったことで確信した。はい赤点確定ざまぁ。
「あ、なっ君68だね」
「え? 嘘どこ?──あ、」
直接向けられこそしなかったがクラスメイトからのうるせえなという空気感が凄い。それに城端先生が特にやばかった。八重洲が見えている先生はじっと俺を見つめ、教えてもらわないか目を光らせていた。
『なぁまじで68? 89の間違いじゃなくて?』
「うん、間違いなく68だね」
こいつ俺がせっかく筆談に切り替えたのに喋りやがった。とはいえペンが宙を舞われるよりはマシだが。
にしてもまじか……70後半は取ってるつもりだったんだが、どこが違うんだ? 何度見直してもマジで分からん。
その後再び散策を始める彼女は、とある男子生徒の前で立ち止まった。
「75……69……おっ! 96凄い! この人頭もいいんだね」
そう評価されたのは我がクラスのスーパースターであり、俺に与えるはずだったスペック根こそぎ奪ったんじゃね疑惑のある完璧超人剱久哉だった。あいつ頭も良いのかよ、まじでずるいな。……というか、んっ? その剱が間違えた問題見つけたってことはあいつより頭いいの? それはさすがに引くんだが。
「にしても、あいつでも間違えんだな」
誰にも聞こえないほどの小さな声でそう呟いた俺は、最後にサラッと答案を眺め、ペンを置いた。
「あれ、なっ君終わったの?」
「……『もういい、これで俺は提出する』」
「へっ、なんで? まだ68点のままだよ」
「『いいんだよ』」
こうして俺の数学テストは終わり、ほぼ同じように2日間のテスト全てが終了した。




