美少女と部活を作ることになったんだが!?
「あ、えっと、暴力少年ってのは俺だってわかるんですが、転校生ってのは?」
「ん? 貴方何を言っているの? そこにいるじゃない可愛らしい転校生さん。それとも何? 僕には見えてませんと言うつもりかしら。私を騙そうとしても無理よ、だって本物を知ってるもの」
腕を組み、堂々と、というか偉そうに語った湊玲衣。顔は腹が立つほどのドヤ顔だが腹立つことに様になっている。
にしても今の発言から察するに、彼女は幽霊が見えている。そして何故か八重洲のことは幽霊だと思っていないらしい。であれば伝え方をどうするかだな……直接言ってもいいがそうなるとこいつのプライドに傷をつけそうな──
「私八重洲飛鳥! 享年16歳の幽霊だよ!」
っておい!! いたよここに空気読まない雰囲気ブレイカーが! こいつ勉強できるだろうにこういう頭は悪いよな。戦術めっちゃ考えられるのにテストの成績どべのやつみたいだ。
「享年……幽霊……? 貴方何を言っているの? 私はこれまで10年以上幽霊を見てきているのよ。そんな私にそんな冗談は──」
そう言いながら八重洲の方に両手を勢いよく置こうとした湊は、その勢いのまま手が体をすり抜け、そのまま足を滑らせ転倒する。
「ふぇ? ってキャ!」
ごつんと言う鈍い音を立てながら頭をぶつけ倒れる湊は、とてもじゃないが完璧美少女には見えない。まさかこいつ……
「お前まさか……ポンコツか?」
「ポン……コツなんかじゃないわよ……! ちょっと運動神経がアレなだけ」
若干目に涙を浮かべながら頭をさする湊は、なんだかよう分からん言い訳を並べ始めた。なんだよ運動神経がアレって。アレはもうアウトだろ。某ドラえもんとか言ってるようなものだろ。
「大丈夫? もうちょっと早く言うべきだったよね?」
「大丈夫だ八重洲。どんだけ早く言っても信じてなかったんだから同じだよ。起こるべくして起こった事故だ。言ってしまえば当たり屋だ、気にするな」
「貴方、ものすごく失礼な人ね。人間性を疑うわ。……まぁこんな人はどうでもいいとして、貴方ほんとに幽霊なの?」
頭をさすっている手とは反対の手で八重洲を指さす湊は、頭をぶつけたくせに未だ半信半疑らしい。
「え? 幽霊ってみんな私みたいな感じじゃないん?」
「幽霊なのに幽霊が見えないの? 本当に変わっているわね。いい? 幽霊っていうのは半透明で足がなく、プカプカ浮いているような存在なの! 私はあいにく遭遇したことはないけれど、朝眠い原因も幽霊のせいらしいわ」
「…………妖怪ウォ──」
「OK八重洲ストップだそれ以上はよくない」
八重洲の危ない連想を食い止めた俺は、満ち満ちた表情で教室を後に──
「貴方一体どこに行くつもりなのかしら?」
おっとバレた。まさか俺のミスディレクションが破られるとは思っても見なかった。やるなゴーストアイ!
「あ、えっと……そうだ、俺たちなんでここに呼ばれたんですかね? 湊さんですか呼んだの?」
剱の時もそうだが、同級生に敬語ってなんというか情けないよな。魂が負けを認めているようで恥ずかしい。とは言えタメ口で話そうとはなれんのだが。
「確かにきっかけは私だけれど、貴方を呼んだのは私じゃないわよ」
「え? んじゃあ誰が──」
直後、1人の聞き覚えのある女性の声とともに扉が開いた。
「君たち2人、いや3人を集めたのは私だよ」
「まぁ、そうですよね、城端先生」
城端先生はどこかニコニコとしながら俺たちの方に寄ってくる。なんだろう? 結婚相手でも見つかったのかな?
「おい黒薙、君今失礼なことを考えなかったかね?」
「しょ、しょんなことないでしゅよ」
すごいな、またサ行だけ噛んだ。もはやお家芸かもしれない。
「で城端先生、俺たちをこんなところに集めて何をさせたいんです?」
「なに、別に私がさせたいわけじゃないさ。私はただの人材確保さ。詳しい話は湊、君が言いたまえ」
そう言って湊に話題を移した城端先生は、黙って腕を組み始めた。
「そうですね。では私から説明しましょう。まずこの上滝高校は部活動が強制ではないでしょう?」
「まぁそうですね。だから俺も入ってないですし」
「だけど部活動をやっていた方が内申などの観点から考えても有利ではある。それに誰かと共に何かを成すということはそれだけでいい勉強になるとは思わない?」
……何が言いたいんだこいつ? なんというか肝心なことは何も言っていない、というか言いたがらない感じだ。要領を得ていない。
「つまり……何が言いたいんだ?」
「つまり……つまりその……私が作る部活の部員第1号になる気はないかしら!」
「あー、うん?」
言いたいことは分かった。だが色々わからないことがある。とりあえずなんの部活かってのは置いといて、それ以前になんでこいつこんな偉そうなんだ? 片掌を胸に当て、親指なんて鎖骨に乗っている。貴族かなんかか?
俺はあからさまに呆れ果てた表情を城端先生に向ける。こんな公爵令嬢様の元に連れてきたのはこの人だ。その責任はぜひとってもらいたい。
「はぁ……湊、そんなので相手が了解するわけがないだろ? せめて最初だけでも丁寧にしておけ」
「ぅ……私と部活をやらないかしら?」
「違う! やってくれませんかだ! ……悪いな黒薙、この子は部活がやりたいんだ。だけど他の生徒がそれを嫌がってな」
あぁ、なんとなく分かる。要は気を使うのだ。本人にそのつもりがあるのかは知らないが、少なくとも傍目から見れば近づき難い存在であることに否定の余地はない。まるで俺のように近づくなオーラを出してしまっている。
「湊にも問題がないとは言わない。だが人間をみられる前にそもそも輪に入れないんだ。そこで彼女は考えた「入れないなら、自分で作れば良いじゃない」と」
「なんすかそれ? なにーアントワネットですか? ってか、文脈から察するに俺に入れってことですよね?」
んなもん俺だって嫌だ。俺は1人になりたいんだ。ただでさえ八重洲がいるおかげでその時間が減ってるってのに。
「そうだな、流石になにもなしというのも気が引けるし……よし、あの文章をテストにしないでやろう!」
「んなっ! まだ覚えてんですかあれ! てか教師が持ちかけていい条件じゃねぇ」
ゆすりだよ! こんなのはゆすりだ!
持ちかけられた条件に顔を歪ませていると、掴まれないはずの八重洲に裾を引っ張られた感覚を感じた。
「ねぇ、なっ君……」
そう言われ振り返った先にいた八重洲の表情は、なんだか物悲しそうに映った。やめろ、そんな顔で懇願されたら……
「あの子さ、多分友達が欲しいんだよ。だけど変に気を使われるせいで仲間に入れてもらえなくて、あの大きい態度も多分、そういう悲しさを隠すための嘘なんだと思うんだ。じゃなかったら一緒に部活やろ? なんて誘わないよ」
「まぁ、だろうな」
今のやり取りを見ていればなんとなく分かる。湊玲衣という女性は孤高なのだと思っていた。だがそれは間違っている。彼女は孤独なのだ。そしてその孤独から救われたいとも思っている。
「ねぇなっ君、友達がいないことは悲しことだとは思わないよ。だけどさ、欲しいのに出来ないのは、すっごい悲しいよ」
その瞬間、俺の中に1つの光景が浮かんだ。それは富山に引っ越してきたばかりの頃。友達を作ろうと頑張っていた俺は東京もんということではぶられ、しかも追い討ちをかけるようにいじめが始まった。
その時から俺は友達作りを諦めてしまったのだ。今はそんな感情欠片もないが、当時は悲しかったのだと思う。少なくとも、俺の記憶を見た八重洲からはそう見えたのだろう。そして彼女はあの時の俺と彼女を重ねてしまったのだと思う。
「──黒薙奈月」
「「え?」」
八重洲と湊は打ち合わせたかのように同じ言葉を抜けた声で漏らした。
「だから黒薙奈月です。どんな部活にするのかは知らないですが、どうぞよろしく」
「……入って……くれるの?」
「頼むから揺らさないでくれ。今瀬戸際だから」
ほんと今ギリッギリだよ、1mmズレたらもう意見変わるからね。今ここに立ってるのもなんとなくの気分くらいのもんだ。
「えっと……その……」
湊は少し頬を赤らめながら、ゆっくりと俺に近づき、先ほど胸に当てた手を俺に差し出した。
「その、ありがとう。湊玲衣よ、これから……よろしく」
ぎこちなくも、しかし嘘ではない笑顔を浮かべる湊。そんな彼女と、彼女の差し出した手を微笑ましく見つめる八重洲と城端先生。八重洲は満面の笑みで、城端先生はなんだか腑に落ちたような表情で笑っている。
……握らなきゃ帰れない、これ? 俺女子と手を繋ぐことはおろか喋るのも全然慣れていないさくらんボーイなんだが。消毒とかしたほうが良いかな? 手汗酷くないかな? そんなしょうもなくも大事なことを考えていると、湊の表情が泣きそうなものに変わり始めた。
「や、やべ──よろしく!」
急いで握り返した湊の手は、ものすごく柔らかくすべすべ……いやベタベタしていた。
「貴方、手汗すごいわね」
「うっせぇお前もだろ! あ、敬語解けた」
今日の発見。ツッコミをすると敬語は解ける。以上!
この後今日のところは解散となり、活動は明後日から始まるテストが終わってからとなった。




