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幼馴染が先生に取り憑いたんだが!?

「先生に取り憑けって……なんでそんなこと」


 自ら幽霊に取り憑かれにいくだなんて正気の沙汰じゃない。拒絶する者はいても逆は基本あり得ないだろう。

 城端(しろはた)先生は小さく息をつきながら壁に背をつけ、疑問の答えを返した。


「憑かれたい理由か? 簡単な話だよ、私も体験しないと同じ立場で話せないだろ? 君の見ている世界を見る方法があるのにそれをせず、空論だけで話をするのも変な話だからな。それに、見えてる方が会話が成立しやすいだろ?」


 案としてはあった。俺が取り憑かれたことで八重洲(やえす)が見えるようになったように、城端先生にも取り憑いて貰えば話が早い。だがまさか相手側から提案されるとは思ってもなかった。……いや、この人はそういう人だな……。 


「ほんとにいいんすか? その間意識飛びますけど」

「ああ構わんよ。その間だけだろ?それで生徒の問題解決に近づくのなら安いものさ」

「城端先生…………八重洲、頼む」

「うん」


 こうして八重洲は城端先生に乗り移った。


「……どう、だ?」


 憑依された城端先生はしばらく下を向いたまま直立不動になっている。まるでマネキンのようだ。


「……城端先生? ……八重洲……?」

「《──なっ君……》」

「なっ君、ってことは成功した──」

 直後、憑依した八重洲はすごいいい笑顔でこちらを向き、ものすごいテンションで舞い上がった。

「《──すっごい! すっごいおっきい! 何これすご……おっきい!!》」

「な、何やってんだバカ!!」


 八重洲はどことは言わんが体の一部を持ち興奮していた。なんだこいつ男子高校生かよ! いや逆に女子だからこそ出来るのか? ──ってそんなことはどうでもいい! これは流石に止めないと絵面がやばい!


「ちょ、八重洲、やめろ! これ以上は流石に──あ、確かにすっごい……じゃなくてだな! とにかくやめろー!」


 こうして2分後、ようやく八重洲は落ち着いた。少し衣擦れして汗をかいている女教師と密室とか絵面がやばいから早く憑依とけよ……


「《ハァ〜、堪能したぁ!それにしても城端先生すごいね》」

「もうその話はいいんだよ」

「《いやまぁそこもそうなんだけどね、この先生本当になっ君のこと真剣に考えてくれてる。暴力事件とかも『そんなはずない!』って思ってくれてたみたい……! あったかいなぁ……》」


 その考えに泣いてしまいそうになるのはまぁ確定演出として、気になることが──


「え、何? 憑依した人間の記憶読めんの? ってことは俺の性格ねじ曲がった過程全部見られたってことか?」


 あれ見てまだ俺のとこにいるとか何考えてんだこいつ? 過去の面影なんか微塵もないだろうが。卑屈で陰湿で友達の1人すらいない俺にこいつはなんで……


「《……それでも、なっ君は変わってないよ。もう抜けるね》」


 そして八重洲は城端先生の体から抜け、先生の意識が戻った。


「ぅ……本当に意識が飛ぶんだな、あまり気持ちのいい感覚ではない。……というか暑っ! 毎回こんななのか?」

「……いえ、最初だけです」


 俺は全力で嘘をついた。こんなもんバラしたって誰も得しない。城端先生は知らない、八重洲は満腹、俺は眼福、それで大団円だ。その円は歪じゃありませんかね? という質問は受け付けない。


「そうか、大変だったな君も。で、そこにいるのが八重洲、でいいんでだよな?」


 向けた視線の先には確かに八重洲がいた。なんと城端先生は一回で認識することができるようになったようだ。初めから存在を認識しているかどうかで変わってくるのだろうか?


 ともあれ城端先生が認識してくれるようになったのはでかい。理解者が身近にいるだけでわずかばかりでも安心はする。


「へぇ、すごい可愛らしい子だな。免疫のない黒薙では苦労しそうだ!」

「ははっ、流石の理解力」

「それにしても湊は本当に見えていたんだな……」


 小さすぎてなんて言ったか聞き取れなかったが、そんな声量ということは1人言だろう。であれば聞き返す必要もない。


「それにしても……幽霊って本当は案外普通なんだな。三角頭巾も白装束も、浮いても、透けてすらいない。幽霊が椅子に座るなよとかいうよくわからないツッコミをしそうになった」


 気持ちはすごいわかる。他の幽霊は知らんがとにかく八重洲は人間すぎる。なのに触れないのが余計ややこしい。


「確かにものには触れる、というより触らざるを得ないんですけど、生き物はすり抜けるんですよ、ほらっ!」


 そう言って八重洲は自身の手を俺の頭に突き刺した。頭の中に腕突っ込まれる感覚って気持ち悪いな。


「へぇ〜、便利……ではないな、逆に不便そうだな。そうだ黒薙、こんな可愛い子と暮らしてて、セクハラとかしてねいかぁ〜」


 城端先生は急にいたずらっ子のような表情になり俺を揶揄い始めた。


「してないですよ。少なくともそんな自覚はありません。自分に好意あるのかなぁ〜とか思ってももし違った時のリスクを考えて相手の告白待ちし、結局3年間棒にふる、それが俺です。そんな奴がセクハラなんて、それこそリスクしかないことしませんよ。…………してないよね?」


 セクハラは被害者の意見が優先される。相手がセクハラだと思ったらそれはセクハラなのだ。幽霊にセクハラというのがどういう扱いになるのかは知らんが白い目で見られるのは必至だ。


「……あたしの目の前でパンツ一丁になってました!」

「……ほぉ」


 あったわ〜〜〜! でもあれって俺悪いか? しょうがないだろ時間なかったんだし、そもそも勝手に居付いてんのあっちだし、不可逆的事象である。


「そ、そろそろ教室戻りたいなぁ〜なんて……ほら、授業ノート見せてもらえないし」

「そうだな、からかいはこれくらいにしよう。それと、私も一緒に行くさ。そのほうが信じてもらえるだろ? そうだ、放課後別館の空き教室にに来なさい。用があるんだ」


 こうして俺は、遅ればせながら教室に戻った。授業を行っていた先生は城端先生が謝罪をしたことで俺には特に何かいうこともなく通してくれた。教室からは城端先生に連れられた俺が遅れてきた、ということから朝のことで怒られていたのだろうと考え失笑が漏れている。


 だが先生達に怒られるよりずっとマシだ。こいつらになに言われようと今更どうでもいい。とその時──


「おいみんな、そういうのやめなよ」


 そう言ったのはクラスカーストのリーダーにして、俺にすら話しかけてくれるという完璧すぎて妬むことすらバカばかしいと思える俺的ランキングぶっちぎり1位の(つるぎ)久哉(ひさや)だ。こいつがやめろと言えばクラスは否応がなくそれをやめる。そして誰もそれに対し文句を言わない。言おうと思わない。


 俺はクラスを2派閥に分ける能力、そしてこいつはまるで指揮者のように周りを操る能力を持つ。分断と統制、リア充とぼっち、人気者と嫌われ者、本当まさに俺たちは真逆だ。まぁ俺が弱すぎて力が釣り合わないんですけどね。


 実際、これで失笑は止んだ。純粋にすごい。だがこいつは1個だけ間違えている。それは問題の当人目の前にして「そういうのやめろ」とか言っちゃダメなのだ。これは本人の逃げ道を潰すことに他ならない。これがなければまだ「ああ、昨日のテレビが面白かったのかなぁ」とか言って誤魔化せるのに。いじめたことも、ましてやいじめられたこともないこいつだからこそのいじめだ。


 こうして俺は居づらいだけの教室で授業を受け続け、そして、放課後になった。


「じゃあね黒薙(くろなぎ)君、また明日!」


 剱は放課後までずっと剱だった。仲良しの連中と一緒にクラスで話し込み、そそくさと教室を出ようとする俺に別れの挨拶をする。いいやつ……確かにそうなんだが、お前後ろの取り巻きの顔確認しろよな。俺のこと超睨んでんじゃん。


「あ、さようなら」


 まぁこんな風に返してしまう俺も俺だが。


「あのイケメンいい人だね!」

「いい奴ではあるな。俺にとっていい奴かは別だけど」

「ん?いい人って思うんならなっ君にとってもいい人なんじゃないの?」


 八重洲にはまだこの領域は理解できないようだ。


「分かりやすく例えるなら鼠小僧だ。あれって不正に金を得ている連中から金巻き上げて、貧民にばら撒くって奴だろ? 貧しい人にお金をあげるってのはいいことだ、貰った側は嬉しいし崇めるだろう。だが逆に取られた側からすれば嫌な奴なんだよ。つまり結果は良いことでも過程やら立場で感じ方は変わるって話さ。わかったか?」


 話を聞き終わった八重洲は顎に指を当てて考え込んでいた。説明、分かりにくかったか? それなりにうまく出来たと思ったんだが……


「……今の話さ」

「何が分からなかった?」

「いやね、分からなかったってより、今の例えだとなっ君が悪人側っぽく聞こえるんだけどぉ……いいの?」

「…………今のは無しだ。全部忘れてくれ」


 こんな小娘に突かれるなんて、不覚!

 意外にも的を射た返しに面食らってしまった。こいつもしかして馬鹿じゃない?

 などと側から見ればただの独り言をぶつぶつと言っている変なやつとなっている俺は、城端先生に呼び出された空き教室についた。鍵は開けておくと言っていたから入って待ってれば良いのだろう。


「話ってなんだろうな。暴力事件のことなら少なくとも城端先生と俺の間では解決したし、それに使ってない空き教室に呼び出すとか……待ってりゃわかるか」


 そして若干錆びつき開けにくい扉を開け中に入る。今まで入ったことのない部屋だったが、それもそうだと言いたくなるほどなにもない。後方に積み上げられた机と椅子が埃をかぶっていることから相当使っていなかったのだろう。


 そんな殺風景な一室で、明らかな異物。本来であれば明らかに俺と接点など生まれなそうな人間がいた。


「──あら、先生が呼んだのは貴方達だったのね。暴力少年君、それと、転校生さん」


 そこにいたのは夕日に照らされ長い髪を風で靡かせている美少女、湊玲衣だった。

 というか……こいつ今貴方達って言ったよな? 八重洲が見えているってことだろう。だとすれば、転校生って、なんだ?


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