始まりの日。
早朝、長閑な小さな村の一画で馬車に荷物を積み込む青年がいた。その茶色がかった短髪に黒眼の青年の名はタケル・クジョウと言う。今日は彼が冒険者となるべく都市アストルへ引っ越す日だった。タケルが積み荷を運んでいると青い長髪に赤い眼、黒いローブを羽織った女性が話しかけてくる。
「タケル。私も行きます。」
「げっ・・・セラ姉!」
彼女の名前はセラ・エヴァン。魔法使いの才能があり、今年魔法学校を首席で卒業した優等生だ。外面が良く頼れるお姉さんに見えるが、性格に難があった。
「げっ、て何かしら?」
そう言うとセラは笑顔でタケルの頬を掴んで引っ張った。
「イテテテ---ごめんなさい、ごめんなさい! ていうか俺は今日引っ越すんだ。日帰りで遊びに行くわけじゃない。」
「分かっています。先月からタケルのお母さんから聞いていたのです。私も行こうと思って準備していたの。私ならタケル10人分の戦力になると思いますよ?」
と言いながら手を放す。ぐうのねも出ない。俺は父さんに武術を多少は教わったが、冒険者の知識も無ければ魔法も使えない。新生活に期待があれど、不安もあった。しかし---
「俺は金も最低限しか持って無いし、冒険者として依頼をこなせる様になるまでしばらく野宿になる。女のセラ姉には---」
そう言うとセラはにっこりと笑って両手を合わせてこう返す。
「ふふ、実はアストルの外れにひいお爺様が使っていたボロ家があるらしいの。もし私を連れていけば、宿代を気にする必要なく、野宿を回避できるかもしれないわ。良かったですわね。」
ダメだ。どうしても付いて来る気だ。しかも野宿を回避できるかもしれないって何だ。挙句に泊めてもらえないかもしれないのか? そう思考が巡ったが、正直セラ姉が付いて来てくれるのは心強い。男として独り立ちしたい気持ちもあったが、吝かでも無かった。
「わかったよ……じゃあセラ姉も荷物積み込んで。」
「それは男の子であるタケルの仕事でしょう?」
タケルは3秒で後悔した。そして、これからセラにこき使われ続ける運命を覚悟したのだった。
~都市アストルの郊外~
馬車に揺られて6時間あまり、ようやく目的地に到着したタケルたちはセラのひいお爺ちゃんのボロ屋に向かった。ボロ屋と聞いていたタケルは驚きのあまり声を上げた。
「これセラ姉が言ってた家……? ちょっと予想より大きいんだけど……」
たしかにボロ屋というに相応しく、窓のガラスは割れ、壁には蔦が這い、庭は荒れ放題だった。しかし、でかい。家と言うよりは屋敷に近い。
「もうひいお爺様は亡くなっているのだけど、それ以降誰も手入れをしていなかったみたいなの。」
そう言ってセラは屋敷の中へ入っていった。後を追いタケルも中へ入る。
中も相当に荒んでいた。歩けば床は軋み、蜘蛛が巣を張っている。ガラス片やモノが、そこら中に散らばっていた。
「これは掃除が大変そうだ。」
そうタケルは呟いた。
「頑張ってくださいね。応援しています。」
セラは他人事のように言い放った。文句を言いたかったタケルだが住まわせてもらう以上何も言えず、ぐっと堪えた。
「そういえば、アストルの冒険者として活動するには公営のギルドに申請しないといけないのではないですか? 支部ならこの近くにあったハズだから、荷物をさっさと運んで向かいましょう。善は急げ、です。」
「セラ姉もちょっとは手伝ってよ……」
そう嘆きながらも引っ越しを終え、荷物運びまで手伝ってもらった御者のおじさんに礼をし、公営ギルド支部へ向かった。
~ギルド支部~
「ここがギルド支部か」
郊外のギルド支部と侮っていたが、立派な建物だ。酒屋と薬屋が併設されており、屋内は大勢の客で賑わっている。服装を見る限り、冒険者以外も居るようだ。入口から真っすぐ奥まで進んだ所にギルドのカウンターがあった。そこに佇むメイド服の受付嬢に話しかける。
「すみません。俺たち2人を冒険者として登録したいんですけど。」
「はい、かしこまりました。それでは初期登録料として1人1万チェンになります。」
「はいはい、じゃあ2万チェン……え? 金かかるの?」
「ええ、当然です。公営のギルドとしましては、冒険者の命を出来る限り守る義務があります。その費用としまして、初期登録料を頂いております。」
隣でサラがふふ、と笑っている。タケルは嫌な予感に身震いした。
「あらタケル、もしかして持ち合わせが無いのですか?貸してあげても良いですよ。その代わり今後、料理はタケルがする事。いいですね?」
悪魔だ。宿を貸し、金を貸し、俺を働かせて楽に暮らすために付いて来たんだ。そう気づいた時はすでに遅く、冒険家になるためにはサラ姉に金を借りるしか無かった。
「やらせていただきます……」
ひと悶着あったが、タケル達は無事登録を済ませる事が出来た。
「ギルド所属の冒険者には必ず最初にやってもらう依頼があります。これはギルドから出している依頼なのですが、近くの森へ行って薬草を10個ほど採ってきてもらいたいのです。さして危険はありませんし、あなた方なら問題は無いと思います。冒険者としてやっていくのに最低限の実力があるかを確認するためのものです。」
そう説明を受けアストルの街を出たタケル達は近くの森林へ向かった。タケルは冒険者になるべく修行として薬草を採って村で売っていた事もあり、手間取ったりする事も無く薬草がありそうな森の奥へと進んでいった。そこで文字の刻まれた古い石碑を見つけた。
「なんだこれ?文字みたいなのが書かれてるけど読めないや。サラ姉読める?」
「いえ、私にもさっぱりです。」
そう会話を交わした後、俺は何気なく石碑に触れた。その瞬間周りが青白く光る。何か吸われているような感覚に陥る。タケル大丈夫?-----と、サラ姉の声が微かに聞こえてくる。眩暈がする。倒れそうだ。いや、倒れているのか? 目の前が真っ白になり、俺は気絶した。
小説初執筆です。
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