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第2話 悪びれることのない表情
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おっさんは言った。
「俺はドグラマグラ太郎だ」
フルチンで言った。
「俺はドグラマグラ太郎だ」
もろだしで言った。
「俺はドグラマグラ太郎だ」
俺は、トイレの方を見た。
部屋をもう一度見た。
おっさんがいた。
おっさんのおちんちんがあった。
悪びれることのない表情をしたおちんちんがそこにあった。
俺は、とりあえずトイレに戻るかどうか考えた。
トイレで死ぬのは嫌だな。
パタン。
いつもの音。
トイレのドアが閉まった。
無意識に閉めたようだ。
いつもと同じ音。
いつもと違う部屋。
これは夢か。
あいつは誰だ。
変質者か。
ぶわっと変な汗が出てきた。
こわい。
本能がガンガン、警報を鳴らす。
こんな機能、俺にもあったのか。
でも今そんなことを考えている場合じゃない。
心臓がバクバクしてる。
こわい。
すげーこわい。
冷静にならなきゃ。
素数。
素数って何だ。
素数ムリ。
息が荒くなる。
気が動転してる。
俺はとりあえず携帯がどこか考えた。
鞄の中。
あいつの後ろ。
どうする。
思考がまとまらない。
ポテチ食べたい。
ちがう。
そうじゃない。
そうじゃないのに俺はポテチを目で探していた。