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9話 終わりよければ全て良し!

「シャーロット様を見つけろ!」

「おい、リオルネの方も探したか!」

「いねぇよ! でも鮮緑色の目をした子供を見たって聞いたぞ!」



 う、うわぁ……やっちまった、てかこれ見つかったら即確保ー! とか言われながら親の前まで連行される奴だわ。え、え、嫌だ、私って宇宙人なの? 両手を掴まれて足が地面に着かなくてプラーンって宙に浮きながら親の前まで行くの?


 家の周りを走り回る使用人や騎士の人達、怖くて最初の一歩が中々出せない。柱から顔を出して様子を伺ってる最中(さいちゅう)だ。



「……お嬢様」

「おぎゃあああああっ‼︎」

「お嬢様、そんなに驚かなくても」

「え……あぁ、アリシア」



 相変わらず無表情のアリシアが私の後ろに立っている。人に見つからないように進もうとしていた私にとってアリシアの無表情はかなり怖かった。

 だって後ろ向いたら無表情の人だよ? 怖くない?

 バクバクと速く脈打っている心臓の上に手を置いて落ち着ける。



「お嬢様、出かける時は私に何かしら言ってからして下さい。そしたら何とかして場をやり過ごしますから」

「じゃあ次からそうする」

「そうですか……それでは」



 ガシリと力強く掴まれる肩、アリシアの顔は少しだけ口角が上がっている。可笑しい。アリシアの口角が上がる時は私の髪の毛事情を弄る時か私の身に不幸が起こった時ぐらいなのに……あれ、考えてみると少し酷くない?


 そう考えていると、アリシアの口が大きく開いた。



「お嬢様、確保ーーーっ!」

「ア、アリシア? ちょ、ちょっと何で今それ言っちゃう訳? そんな事言ったら人が来ると思うんだけど? 私、誰にも知られずにお父様とお母様の所に行きたかったんだけど? あっ、あ、あ、なんかこっち近づいて来てる! 足音ああああああああああっ‼︎」



 おびただしい程の足音と男らしい声が近づいて来る。その数分後、私は両手を掴まれ足は地面から離れ、宙に浮かび何処かの宇宙人みたいな感じで運ばれた。


 ……ねぇ、私って公爵令嬢だよね?







「シャーロット!」

「おぇっ」



 お母様が泣きながら私に抱きついた。余りの強さに師匠に(おご)って貰ったドラゴン肉の胸肉の蒸し焼きが出そうになるのを(こら)える。お母様が泣いてる所なんて初めて見た。それだけ私はお母様に心配させたんだろう、罪悪感が凄い。



「ごめんねぇ……! シャーロットは第一王子の婚約者でもないのに教育が厳しくなったりして嫌だったのよねぇ……! ごめんなさい……これからは前の教師に戻して、いつも通りの日々に……!」

「い、いえ……あの、お母様、確かに教育が厳しすぎて嫌だと思いましたけど、別にだから出て行くとは考えてませんよ? あと……勝手に出てってごめんなさい」



 まぁ、前の教師に戻してくれるのはありがたい。これで前みたいなゆったりとした生活に戻るのか。


 お父様は後ろで声をかけづらそうに立っていた。話しかけようと一歩出ては下がって、また一歩出ては下がって。おい、男だろ、もっとしっかりしてくれ。あと、何処と無く顔色が悪い。お父様も心配してくれたのだろうか。


 お母様が離れるとお父様が私に声をかけた。



「シャーロット……」

「……はい」



 私を映す同じ色をした灰色の瞳は揺れている。ゆっくりと瞼が閉じ、また開く、その時の瞳は真っ直ぐと私を見つめてた。



「今まで何処に居たんだい?」

「リ、リオルネという街です」



 いつも優しいお父様から発してる声とは思えない。声を聞くだけでも怒ってるという事が分かる。私はローブを握りしめた。



「どうして行ったのかな?」

「マナーの授業で……その、嫌になって家から飛び出して、気が付いたらリオルネという街の近くにいたので、何もかも吹っ切れた私は街に行って遊びました」



 怖い。思わず顔が俯いてしまったが、此処で顔を下げたらいけないと思って逆に顔を上にあげた。しっかりとお父様の灰色の目を見つめ返す。

 少しだけ驚いた顔をするお父様。



「この際、もう何もかも話します。リオルネに行った時に自由気ままに暮らす平民を見ました。その時、私は決めたんです」



 今から言う事は公爵令嬢として有り得ない願い事だ、だけど私なら? シャーロットとしての願いなら?

 ゆっくりと目を閉じて深呼吸をする、目を開けて前よりもしっかりとお父様の瞳を見た。



「私は……平民になりたい」



 部屋の中が静かになった。あ、やばい。これもしかしたら怒られるパターンかもしれない。え、ちょっとそれは許して下さいよ。誰だって願い事の一つや二つ持ってるでしょ?



「……シャーロット」

「は、はい!」



 思わず背筋が伸びる。見渡すと誰もが瞳に困惑の色を宿している。その瞬間、私は全てを悟った。この願い事は何か天地がひっくり返るような事が起こらない限り絶対に有り得ないんだと。



「まず、その願い事は公爵令嬢としては有り得ない」

「公爵令嬢ならですが、その願い事は私個人での願いです」

「それと、シャーロットは何も言わずに家を飛び出て、私達を心配させた」

「ご……ごめんなさい」



 お父様が私に近づく、もう耐えられなくなった私はお父様と目を合わせる事をやめて、(うつむ)いた。

 しばらくすると頭に何かが乗った感触がしたので、上を見るとお父様が眉を下げ少しだけ口角を上げたなんとも言えない表情をしている。こんな感じの顔って何て言うんだっけ、やれやれって顔? それとも苦笑?



「家を飛び出た事は反省したかい?」

「それはしてます。もう二度としません」



 これからはアリシアに言ってから出かけるけど。

 そう言い切ると、お父様は私を抱きしめた。お父様の落ち着く良い匂いが鼻を掠める。



「もう次からはこんな事をしないと言ってくれ」

「は、はい! もう次からは勝手に家を飛び出しません!」



 許して貰えた。そう思ったら張り詰めていた糸が緩んだ。あとこんな事言うのはなんだけど少し恥ずかしい。これでも精神年齢は二十歳を超えてる幼女、みんなの前でお父様と抱きしめあってるのを見られるのはちょっと……。

 その時、お父様が私にしか聞こえないくらいの小声で(ささや)いた。



「平民になりたい願いはどうにも出来ないけど、街に行くのは良いよ。でも行く時は必ず誰かに声をかけなさい」

「お、おおおおおお父様ーーー!」

「ごふぉっ」

「あああああああっ‼︎ お父様ぁーーー⁉︎」



 抱きしめる力が強すぎて、お父様は医者の所へと運ばれましたとさ。

 その後、アリシアから聞いた話だと肋骨が三本と両腕が骨折、直ぐに国お抱えのアークビショップがやって来て直したらしい。







「お父様、大丈夫かな」

「多分大丈夫だと思いますよ」

「そっかー」



 アリシアが淹れてくれる紅茶はやっぱり美味しい。味も香りも良い。そういえば前世じゃ炭酸系とか紅茶とかコーヒー苦手だったな。



「なんかさー、忘れてる気がするんだよね」

「何をですか?」

「何って、えーっと、確か変態……」

「シャーロットーーー!」



 大きな音を立てて開いた扉、驚いて振り返ると、そこには……



「本当に何処に居たのですか⁉︎ 隣国まで探してしまいましたよ!」

「うわぁぁぁあああああっ‼︎ 追いかけて来んなぁぁぁぁぁあああああっ‼︎」



 そうです。変態でシスコンな兄さんが居たんです。

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