8話 ジョブは何にしますか?
機械に私の血を入れて数秒経つとカードみたいな物を出した。それを取り出して私に渡すお兄さん、少しだけ顔色が悪いのは見なかった事にしよう。
「もう二度とあれはしないで……はいこれ、冒険者カード」
「お兄さんが無理矢理なんてしなければ私もしませんでしたー」
受け取ったカードを見ると私のステータスが乗ってる。知力や魔力が低くて、体力と防御力が高い。ジョブ何にしよう。そう考えてると、後ろからお兄さんが私のカードを覗く。
そしてポツリと一言。
「うわっ、ゴリラ」
「ちょっと表に出て下さい。人通りが多い中、悲鳴あげて、お兄さんを涙目で睨みますから。そしたらお兄さんの悪い噂が広がりますね」
そう言うと顔を青くして黙るお兄さん。うんうん、それでよろしい。
「ジョ、ジョブは何にする?」
「そこが悩むんですよねぇ……」
私がなれるジョブは格闘家が1番上に輝いてる。うん、解せぬ。それと、取り敢えず1番上で輝くジョブを見て爆笑するお兄さんはあとで締めよう。
何が悲しくてこんな美少女で、か弱い公爵令嬢が格闘家にならなきゃいけないんだ。もっと魔力が多かったら魔法使いのジョブを選んでた気がする、畜生、魔法使いが選べない。
まぁ、取り敢えず逃げるの重視なジョブは無いのか。兄さんとの地獄の鬼ごっこで少しでも有利になるのと殺害、処刑されそうになった時、確実に安全、迅速に逃げたい。あ、それと追ってくる奴らを足止め出来るスキルも欲しい。
「お兄さん」
「ん、なに?」
「逃げるのに特化してて、追ってくる奴らの足止めが出来るスキルを持ってるジョブって無いんですか?」
「えーっと、ちょっと待ってて……」
お兄さんは紙を取り出して私に渡した。渡された物はジョブの説明が書かれた紙の束。
「これじゃない?」
紙の束で最初に目が付いたのは盗賊のジョブ。説明欄を見てみると確かに私が言った事が書いてある。他にも同じようなジョブがないか読んでみたけど盗賊しかなかった。
「じゃあ私、ジョブは盗賊にします」
「分かった、それじゃあ冒険者カード貸して」
冒険者カードを渡すとお兄さんは万年筆を取り出して何かを書いた。
「なに書いたんですか?」
「盗賊って書いたんだよ、あとこれはジョブを決める用の万年筆で僕らギルドに務めてる従業員しか貰えない特別な万年筆なんだ」
万年筆を得意げに見せるお兄さん、取り敢えず適当に褒めとこう。
「おー凄い凄い、で、スキルってどうやって覚えるんですか?」
「スキルは何回も同じ事をすれば覚えれるよ、あとは色んなスキルを組み合わせて自分だけのスキルを作ったり……大体こんな感じかな?」
「えー……まぁ、分かりました」
でも盗賊のスキルってどうやって覚えれば良いんだろ、同じジョブの人に教えて貰うか? 悩んでいるとお兄さんが少し震えながら声をかけて来た。
「ジョブは名前だけでやろうと思えば他のジョブのスキルも覚えれるからね、暇だったら覚えてみなよ、格闘家のスキル……ぷっ」
「そうですね、覚えたら1番初めの実験台はお兄さんにしときます」
青くなって震えるお兄さん、そんなお兄さんを無視して私はギルドにいる盗賊を探し始めた。そもそも盗賊ってどんな格好してるの? 辺りを見回しながら歩いていると、目の前に誰かがが立ちはだかった。
「そこのお嬢ちゃん……格闘家スキル、覚えてみない?」
「……」
でかい。なにこの人、なんか身の危険を感じるんですけど。目の前にいる人の足しか見えないので顔の向きを上にすると、私はピシリと石みたいに固まった。
「あらやだぁ! かなり可愛い子じゃない! 私の名前はマリン・モラン、貴方の名前はなんていうの?」
「シャ、シャーロット、です」
「きゃっ! 名前も可愛いのね!」
こ、此奴……あれだわ、オネェだ。
目の前にいるオネェは柔道着みたいな服を着てて、サラサラな黒い髪の毛を肩より少ししたくらいまで垂らした筋肉ムキムキな人だった。
後ろで誰かが爆笑している声が聞こえる、うん、あのお兄さんだね。
どうやってお兄さんに復讐しようか考えていたら、良い考えが思いついたので私の口角が上がる。格闘家スキルを覚えたらお兄さんに1発喰らわそう。それに格闘家系盗賊ってなんか良いと思わない?
「魔法を使えるからっていう理由で格闘家をジョブにする人は少ないんだけど格闘家スキルは良いわよ! 相手が鎧を着てようが盾を持ってようがぶっ殺せるわ! それに、このジョブを選べばレベルが上がるごとに魔法抵抗力も状態異常耐性も付くからお得よ!」
……格闘家スキル、良いかも。聞けば聞く程、良い所しかない。魔力がなくて体力が有り余ってる私には良い。どうしよう、格闘家に転職しようかな? そうだ、盗賊スキルなんてあとで覚えれば良いじゃないか。
「……お姉さん、少し此処で待ってて下さい」
後ろを振り返り、受付へと走り出す。受付にはあのお兄さんが座っていた。私を見て口をあんぐりと開けている。
「も……もしかして……」
「私のジョブを格闘家に転職させて下さい!」
「もっとよく考えて! こんなに早く転職しちゃって良いの⁉︎ 僕、この仕事3年やってるけどこんなに早く転職する人って君が初めてだよ!」
「ジョブなんて名前だけですよ! スキルは覚え放題ですし大丈夫!」
こうして、私のジョブは盗賊から格闘家になった。格闘家になった私は同じジョブのお姉さんの所まで走る。それも満面の笑みで。
「お姉さん! 私、お姉さんの言葉に心を動かされて格闘家になりました! もしよかったら私に格闘家スキルを教えて下さい! お姉さ……いや、師匠!」
「あら、師匠だなんて……! でも、その心意気、気に入ったわ! 着いて来なさい、貴方にスキルを教えてあげる!」
「はい、師匠!」
今日の私は人生で1番、運が良いかも。大きな背中を見つめながら私は師匠に着いて行く。しばらく歩くと風が気持ちいい平野に出た。私と師匠は見つめ合う感じで向かい合う。
「今から、あるスキルを教えてあげるわ」
「はい」
師匠は大きな岩の前に立つと、右腕を引いて前へ突き出した。師匠の拳が岩に着いた瞬間、大きな音を立てて崩壊する岩。え、あれ岩だったよね? なんか一瞬で崩れたんですけど?
「このスキルは正拳突きっていうの、私はこれを重宝してるわ。魔力がなくても使えるし、威力が強いから。でもこれを人に向けてやる時は加減するようにね」
「はい、分かりました」
少し太めの木の前に立って数回パンチしてみる。うん、痛い。クッソ痛いわ。
「これで正拳突きを覚えたはずよ、冒険者カードを見てみて」
「あ、本当だ」
冒険者カードのスキル欄を見ると「正拳突き」と書かれている。
「格闘家は基本、殴る、蹴る、この2つのスキルしかないの。戦ってる内にスキルを覚える事もあるわよ、それと他の職業のスキルと組み合わせれば色んな可能性が広がるのよ。他の職業でもスキルの組み合わせは出来るけど、格闘家は特にスキルの組み合わせで特化していると言っても良いわ」
「おぉ……」
思わず溜め息が出る、格闘家になって良かった。なんか最初の目的を忘れてる気がするけど。
その後、私は師匠と手合わせをして色んなスキルを習得した、踵落としにエルボー、アッパー、背負い投げ、他にも色々。手合わせを終えたら師匠は色んな所に連れてってくれた。
「師匠、今日はどうもありがとうございました!」
「どういたしまして、また手合わせしましょうね」
「はい! 師匠また会えたら絶対に手合わせしましょう! 絶対ですよ!」
手を振りながら走る、そして誰もいなくなった場所でピタリと止まった。
「ど、どうしよう……直ぐ帰るつもりだったのに」
冷や汗が背中を伝う。家族に心配させてるかもと思うと罪悪感しかしない。どうしよ、スキル覚えたら直ぐに帰るつもりだったのに、長時間ずっと家を出てる。
とにかく帰ろう、そして謝ろう。まだ夕方じゃないから間に合う筈だ。
私は家に向かって走り出した。