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7話 子供だからって馬鹿にすんなよ

 そんなに変わらない景色を、ガタゴトと揺れる馬車の荷台の端に座りながら見つめている。



「お兄さん」

「何だ」

「あの金色のコインってどれくらいの価値なんですか?」



 今、ドレスのポケットの中には私が持ってた奴と少し違う金色のコインや銀色のコイン、更に銅色のコインが入っている。



「お前……絶対に良い所の嬢ちゃんだろ」

「はい、そうですよ」

「……俺は関係ないからな」

「分かってます。黙っときますから」



 お兄さんは面倒くさそうに口を開いた。



 この世界では金を「円」ではなく「ベル」と呼ぶ。更に金貨、準金貨、銀貨、準銀貨、銅貨、準銅貨があり、金貨が一万ベル、準金貨が五千ベル、銀貨が千ベル、準銀貨が百ベル、銅貨が十ベル、準銅貨が一ベル、っていうらしいが、私が持ってたコインは金色なので金貨と思ったけど、どうやら違うんだそう。

 私が持ってたのは白金貨(しろきんか)、これ一つで百万ベルだそう。うん、お父様はどうして五歳児にこんな大金を渡しちゃったのかな? まぁいいや。


 白銀貨(しろぎんか)は十万ベルで白銅貨(しろどうか)は五万ベル。



 そして、今、ドレスのポケットに入ってるのは、白金貨を抜いて全種類の貨幣を持っている。わぁい! 私、金持ちだぁ! まぁ元々金持ちだけどな。


 それにしてもどうしてお兄さんは白金貨や白銀貨なんて大金を持っているのかと聞いたら、偶にお忍びで来ている貴族の馬鹿が私と同じように白金貨を何枚も渡してくるそうだ。

 はははー、だからかー、っておい。えっ、何? 私も馬鹿って言ってんの?


 話を変えるけど、そもそも貴族にはお金っていう概念がない。


 貴族、ましてや公爵令嬢はお金で買い物なんてしない。ドレスや宝石は商人が定期的に来るので、その時に選ぶだけ。他にも欲しい物を言えば勝手に周りが用意してしてくれる。だからお金の心配をする必要はない。

 だけど、もしもの事を考えてみよう。


 私はこの乙女ゲームの世界では悪役令嬢、平民落ち、嫌われ者の貴族との強制的結婚、殺害、処刑、爵位剥奪、親からの勘当、国外追放、などの色々な絶望的未来が待っている。ゲームの修正力、なんて力さえなければ私はこのまま貴族でいられる。だけどそれは嫌だ、平民になりたい。

 なんで平民になりたいかっていうと、この前、とある授業で色々な職業を教えられてる中、冒険者という職業について教えて貰った。


 冒険者


 ギルドで冒険者カードを作ったら誰でもなれる。色々なジョブがあって、適性さえあればどんな職業にもつける。そしてクエストをこなして金を貰い暮らしていると聞いた。私は聞いた瞬間、こう思った。


 なにそれ、クソ羨ましいんですけど。


 冒険者は安定した暮らしが出来ないのが最大の問題だ、だが貴族は安定した毎日を送れる……自由を奪われてね。

 いや、全部は奪われてない。一人になって遊べる時間だってある、だけど違う、違うんだ。


 平民の暮らしは税さえ払えば気ままに暮らせる、対して私は何だ? あのクソドS王子の婚約者と勘違いされ厳しくなった、やりたくもない授業、何処へ行くにも必ず誰かが付いて来る。

 平民から見ればさぞ貴族の生活が楽しそうに見えるだろうね、私も平民の暮らしが楽しそうに見えるよ。


 それに魔法が使える異世界に転生したのに貴族のままで一生を終えるとか普通に無いわー、冒険者になって気ままに暮らしたいわー。

 あと、もしもゲームの修正力が出て、私が平民落ちや親からの勘当、国外追放になったら1人でも上手く生きてけるように今の内に街とかに出て常識を身に付けたい。それと処刑や殺害されそうになったら逃げ切れるスキルが欲しい。べ、別にゲームの修正力とか怖く無いよ? 一応だよ一応、備えあれば嬉しいなって言うじゃん? ね?


 とにかく、私は街に着いたら冒険者になる。



「おい、そろそろ街に着くぞ」

「どんな名前の街なんですか?」



 私はこれから始まるであろう冒険、だけど家の方は大騒ぎしてるだろうな、特に兄さんとか。家族には悪いと思ってる、だが私は平民兼冒険者になりたい。爆炎の申し子とか、そんなかっこいい二つ名が欲しい。



「あぁ? リオルネだよ」

「リオルネ……」



 そっと、小さく呟いてみる。うん、何とも思わないわ。あと直ぐに忘れそう、私って興味が無いのは直ぐに忘れるから。


 私達が乗っている馬車はリオルネへと進んだ。






「おっふ」

「なに言ってんだ」

「いや、なんとなくです」




 街は普通だ、ゲームとかでよく見る感じ……って私ゲームはそんなやってないんだった。スマホで動画見る派だったわ。



「お兄さん、はい」



 此処まで連れてってこれた料金として金貨を一枚渡す。



「いらね」

「えー……」

「餓鬼は黙って大人の言う事に従ってりゃ良いんだよ」



 や、やだんもう! このお兄さん男前だわ! 惚れた! 好き!


 と、言いたいが今それを此処で言っちゃ駄目だ。私がこうやって冗談とかが言えるのは相手がからかって良いって思う程の下な奴か、仲が良い奴だけ、前世でのぼっ……いや、孤高を舐めんなよ。



「お兄さん、本当にありがとうございました!」



 そう言って私は着心地が良い砂色のローブを(かぶ)って走り出した。






「此処がギルドかー」



 街には私を知る奴なんて居ない。つまり、どれだけ素を出して話したって敬語で話さないと第一王子の婚約者として恥をかきますよ、とか常日頃小煩(こうるさ)く言ってくるババ……いや、駄目だ、しっかり親身になって教えてくれてる先生にそれは無い、先生だ、先生。


 ギルドの中を見渡すとモヒカン、リーゼント、そしてスキンヘッドとか特徴的な肩パッドを着けてる格闘家みたいな人達、此処は世紀末ヒャッハーなのか?

 そんな中、私は受付の人の所まで歩いた。



「こんにちはー」

「こんにちは、ってあれ? 君、もしかして迷子?」

「ちょっと用事があって来たんです」



 受付のお兄さんは私が迷子じゃないと分かると動かしていた視線を止める。



「お兄さん、冒険者になるにはどうしたら良いんですか?」

「冒険者はね、冒険者登録さえ行えば誰でもなれるんだよ」

「だったら私もなれますか?」

「あはは! もー、冗談はよして……」



 ピタリとお兄さんの動きが止まる、それどころか、ギルドの中も静まり返っていた。



「君……もしかして、あの二人の噂、聞いたの?」

「噂? そんなの聞いてません、てか冒険者登録してくれません?」



 二人の噂ってなに? んなもんどうでも良いから冒険者登録しましょうよ。

 大きなお兄さんとの差を埋めるように背伸びをして詰め寄る。まぁ、五歳児の身長なんて、たかが知れてるからそんなに差なんて埋めれないんだけどな。



「誰でもなれるって言いましたよね?」

「い、いやぁ、ね? 子供がやったら危ないし」



 はっ、私は前世と今世の精神年齢を合わせたら二十一歳やぞ? って言っても誰も信じちゃくれないけどな。



「それにね? 冒険者登録には百ベルが必要で……」

「金ならあるわい」



 ドレスのポケットから金貨を取り出し兄さんのポケットにねじ込む、困惑してるお兄さんに涙目で「まだ私からお金を巻き上げるんですね……」と言って更にお金をねじ込もうとしたら、ようやくお兄さんが折れた。

 よくやった。これでも折れなかったら人通りが多い所までお兄さんを連れてってそしたら大きな声で悲鳴をあげて人の注目が集まったら涙を流しながら上目遣いで睨みつける所だったよ、いやー、良ったね、社会的に死ななくて。ははっ。



「分かった! 分かったから涙目でお金ねじ込まないで⁉︎」

「分かったなら良いんです」



 ぶつぶつと「あの二人に似てる」「どうして俺ばっかり」とか言いながら奥の方で何かを漁るお兄さん。その二人とやらもこんな感じで、このお兄さんに迫ったんだろうか?



「はい。これで指の先を切って、血が出たらこの機械の穴に入れてね」

「え」



 渡されたのは短剣、いや、タガーだ。これで指の先を少し切って、血が出たら目の前に置かれてる機械の穴に入れるだけ……それだけで冒険者に。

 勇気を出してタガーを右の人差し指に突きつけるが、突くだけで切れない。やっぱ無理、怖い、無理。



「もしかして……怖いの?」

「はい怖いですよ何か文句でも? 静電気さえ怖いんですからね」



 そう言うと、お兄さんが悪戯っ子みたいに笑う。なんか嫌な予感がするなと思った瞬間には、背後にお兄さんが回り込んでいた。



「手伝ってあげるよ」

「あ、ちょっ、待ってぇ⁉︎」



 私を拘束する力は強くて振りほどけない。お兄さんの手が私の右手と、タガーを持ってる左手を優しく、いや、かなり強く握るお兄さん。



「大丈夫だよ、少しチクってするだけだから」

「待って待って待ってぇッ! わ、私! 初めてなんです! こーゆー怖い事って親にしないようにって言われてて本当に私初めてなんです! だから優しく! お願いします初めてだから優しくして下さいっ‼︎」

「ちょっ⁉︎ や、やめてっ! 変な事言わないでっ!」

「いやぁぁぁぁぁあああああッ‼︎ 痛いのやだぁぁぁあああああッ‼︎」

「待ってお願いしますから黙ってぇぇぇぇぇえええええッ‼︎」



 その後、私は無事に冒険者登録が終わった。

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