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5話 第一王子、来たる

 トムさんは他にも色々鑑定して帰って行った。



「あー……」

「生きる気力のない目で(ほう)けるシャーロットも素敵です」

「少し考えをまとめたいから静かにしてくれるとありがたいんですけど」



 魔力が少ないのはもういい。だって容姿がゲームでのシャーロットと同じじゃないなら、ステータスも違っても納得ができる。だけどそのステータスで一番多かったのが脚力ってなんだよ、体力ってなんだよ、防御力って、なんだよ……!


 トムさんが言うには、私の脚力、体力、防御力は私と同い年くらいの騎士になる為の訓練を受けている男の子よりも多いらしい。そして何故か、知力がかなり低いですねと目線を逸らされながら言われた。

 ゲームでのシャーロットは魔力が多く、ステータスの中では知力が群を抜いていた筈、やっぱり私というイレギュラーが入ると此処まで変わる物なのか、いや、前世でも成績が悪かったからな、そのせいか。でもなんで私の体力とかがこんなに高い(わけ)



「シャーロット、紅茶でも飲みますか?」

「あぁ、うん」



 紅茶を()れるという、使用人がやる仕事を優雅にこなす兄さん。その1つ1つの動作は丁寧で品の良さが溢れている、どう見ても変態なシスコンとは思えない。見えるとしたら良い所で育ったお坊っちゃまなんだなーぐらいで……ん?



「そんなに私を見つめて……! あぁ、シャーロットに見つめられてると思うと、背筋がゾクゾクします」

「兄さん、それ外でやったら一生口聞かないからね」

「んんっ! シャーロットの視線が(たま)らない!」



 頰を紅くさせ、綺麗な鮮緑色の眼を潤ませている兄さん。事情を知らない人が見たら、きっと余りの嬉しさに頰は赤く染まり涙が出ているのだろうと思う。私から見れば兄さんはただのシスコンな変態だが。



「……あ」



 此処で、私のステータスで何故、体力やら脚力やら防御力が高いのか分かった。

 今、目の前で机に淹れたての紅茶が入ったティーカップを置いた此奴が犯人だ。



「よくよく考えれば私が体力とかが多いのって兄さんが私を追いかけ回してたから

ですよね?」

「まぁ、そうでしょうね」



 そりゃ毎日走り回ってたらそうなるわな。

 呆れながら机に置かれた紅茶を飲んだ。口に含んだ紅茶はアリシアが淹れた紅茶と同じくらい美味しくて目を見開く。美味しい。と兄さんに味の感想を言おうと思ったが、あの変態性を感じる笑顔でこっちを見ているので、その言葉は紅茶と共に胃の中へと落ちて行った。



「シャーロット、シャーロットは何処だい?」



 兄さんの顔をなるべく視界に入れないように紅茶を飲んでいると、遠くからお父様の声が。ティーカップを置き、声がする方へと歩く。



「そこに居たのかいシャーロット」

「お父様、どうかしたのですか?」



 お父様は私を見つけると嬉しそうな顔をして近付いて来た。



「シャーロットに縁談が来たんだ」

「……は?」



 言ってる事の意味が分からなくて、()頓狂(とんきょう)な声が出た。それに対してお父様はニコニコと嬉しそうに笑っている。



「お相手はロバルト・フォスター様、この国の第一王子でシャーロットと同い年の子でとても優しく聡明な方だよ」



 へー、ロバルト・フォスター様でこの国の第一王子……え。

 驚きの余り、目を見開き呆然(ぼうぜん)としていると、何を勘違いしたのか、お父様は「そうかそうか、やっぱり嬉しいんだな」と満面の笑みで頷いた。


 ロバルト・フォスター


 容姿はかなり整っている。乙女ゲームの中で1番人気がある攻略対象で金色の髪に青色の目がいかにも王族みたいな感じがするし、この世界で金髪に青色の目は王族の証と言われている。


 魔属性は火、土。乙女ゲームの攻略対象であり、このロミリア王国の第一王子、表の顔は優しく聡明でみんなから期待されている王子だけど、裏では腹がドス黒いドSである。

 ロバルトを攻略する時は最低でも1問は無理難題をふっかけられ、ヒロインがその難題を達成する為に頑張る、此処で難題を達成するも良し、しないも良し、ロバルトルートでひぃひぃ言いたいドMの人はほとんどが達成せずにロバルトに責められるのを楽しんでた、ちなみに私もその中の1人。


 悪戯(いたずら)()みたいにヒロインを追い詰めながら笑う彼の楽しそうな顔は永遠に私の宝物、心の中にいつでも思い出せるように仕舞(しま)ってる。


 ちなみに、ロバルトがヒロインと結ばれるハッピーエンドルートだと私は嫌われ者の貴族と強制的に結婚、逆にヒロインと結ばれないバッドエンドルートでは私は爵位を奪われ、平民落ち。流石ドS、死ぬだけじゃ許してくれないらしい。

 嫌われ者の貴族と、どんなに嫌だろうが無理やり結婚させられる未来。そんなの嫌だ。せめて平民落ちが良い。



「嫌です」



 私はハッキリと答えた。普通、この家の主人であるお父様に逆らうなんて有ってはならない事、だけど私はロバルトとの婚約だけは絶対に嫌だ。


 彼の事は普通に好き。でもそれは彼のドSな性格を、私ではなくヒロインが受け止めてるから。それにもしも私がロバルトと婚約したとしよう、未来でヒロインがロバルトルートに進むかもしれない。そしたらロバルトからの婚約破棄、私は婚約者に捨てられた女だけじゃなく、ロミリア王国の第一王子から捨てられた令嬢というレッテルを貼られてしまう。そんなの絶対にやだ。

 あと王妃とか面倒くさそうだし。


 さぁ来いお父様、説教なら何時間でも付き合ってやろうではないか。



「お父様、今、なんて言いましたか」



 兄さんが私を背中へ隠すように前に一歩前へ出た。



「ん? シャーロットに縁談が来て、そのお相手はロバルト・フォス……」



 次の瞬間、開いていた口を開けたまま固まるお父様。あぁ、きっとお父様も兄さ

んの圧が尋常じゃない睨みを受けてしまったのだろう、ご愁傷様(しゅうしょうさま)です。そっと私は心の中で手を合わせた。



「縁談ですか?」

「ハ、ハイ」

「取り消し、出来ますよね?」



 まさか出来ないわけないよね? って副音声が聞こえて来る気がする。頑張って兄さん、今だけは応援するよ。



「いや、その……」

「どうかしました?」



 段々と小さくなって行くお父様、気持ちは分かる。



「ロバルト様と両陛下が……あ、明日、この家に来、ます……」



 ……は? 今なんつった? そう聞こうとしたが、それは兄さんが先にやるらしい。後ろからでも分かる、ものすっごく不機嫌なオーラ出てる。



「……お父様」

「ハ、ハイ」

「少し私と話しましょう」



 この後、私はお父様の息子であり、私の兄さんに叱られるお父様というカオスな場面を見た。見てる途中、アリシアが来て「今日はもう部屋で休みましょう」とかなんとか言って、私はその場を離れた。

 あぁ、明日はどうやって乗り切ろうか。






「じゃあ、後は若い者2人で……」



 そんな、なんかのアニメで聞いた事があるような台詞を言った国王陛下は、お父様達と何処かへ言ってしまった。


 チラリと横にいる婚約者を見る。



「どうかしました?」

「……あの、王族の人がわざわざ公爵家に来るって、大丈夫かなぁと思いまして」

「あぁ、中々王宮の外に出られなくて退屈だったからね、自分から行きたいって言ったんだ。気にしないで良いよ」



 目の前には天使みたいな笑顔で笑うロバルト。2人きりになると敬語が抜けると

か、めっちゃ可愛いんですけど。きっと何も知らない私だったら、なんて可愛いん

だ、これぞ天使と内心で(もだ)えたと思う。

 ……今まで現実逃避してたけど、どうしよう、てか、どうやって断ろう。もう私、頭使うの嫌いだし、知力も(とぼ)しいし色々面倒くさいから、ドロップキックでも喰らわして嫌われるか、いや駄目だ。最悪の場合、不敬罪で一族全員が処刑される。



「あの」

「あ、はい何でしょうロバルト様」



 天使みたいな笑みで近づくロバルト、サラサラな金髪が陽に当たり眩しい。思わず目を細めた。



「シャーロット様は7属性持ちだって聞いたけど、それ本当?」

「え、あぁ、そうですよ」



 その後も続く話はほとんどロバルトからの一方的な質問だった。私としてはありがたい。だってなに話せば良いか分からないもーん。私からも質問したり話したりするけど、直ぐに終わる。悲しい。

 気がつけば、ロバルトと話しててもう1時間は経っていた。そろそろ帰る時間かな。遠くでお父さんが呼ぶ声が聞こえる。



「じゃあまたね」

「ま、待って下さい」



 歩きかけた足を止め、私の方に振り返るロバルト。私は意を決して顔を上げた。



「誠に申し訳ありませんが、私はロバルト様に相応(ふさわ)しい人になれるとは少しも思っておりません」

「……それで?」

「私は体力、脚力、防御力が多く、知力が乏しいのです。未来の王妃は、もっと聡明で慈悲深い女の人になって貰った方が(よろ)しいかと」

「へぇ」



 返事を、ひたすら待つ。もしかしたら国外追放、最悪の場合は処刑だな。



「……婚約、しちゃおっかな」

「っ⁉︎」



 ロバルトの顔を見ると、まるで新しい玩具(おもちゃ)を与えられた子供の様に笑っている。外から見れば純粋な笑顔に見えるだろう。だが私の目には違う風に映っていた。この目は可笑しいんだろうか。目の前にいる奴が悪魔に見える。



「ロバルト、帰るぞ」

「はい、今行きます……じゃあね、シャーロット」



 結局、婚約したかしなかったのかハッキリしない事実にスッキリしないまま今日という日を終えた。

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