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2話 乙女ゲームの設定どうした

「うー……あぁう!」



 特にやる事がないので手を伸ばす。

 どうしよう。人生始まって早々詰んだ、マジ無理、スマホしたい。元現代っ子舐めんじゃねぇ。


 こんなに退屈だと中学生の頃、受験が終わって卒業式の練習をしていた、あの退屈な日々を思い出してしまう。面白い事がない退屈な日常に、まだ、はいはいも()()ない私は顔を(しか)めた。



「うふふ、シャーロットは元気ねぇ」



 私の今世での母親、オリヴィア・ウォーカー。使える魔属性は水。

 薄い桃色の髪にまるで宝石のような輝きを持った鮮緑色の瞳。タレ目で妖精みたいなフワフワした雰囲気を持ってる。この人、妖精ですって言われても納得してしまうぐらいだ。

 シャーロットは薄い桃色のウェーブがかかった髪の毛、鮮緑色の瞳、顔付きはタレ目で優しそうな美少女、つまり母親に似ている。そしてやる事は極悪非道。


 そして今は此処に居ないけど説明しよう。私の父親はロバート・ウォーカー。使える魔属性は風。瑠璃色の髪の毛と灰色の目、顔付きは優しく性格も見た通り優しい。優しいから人に強く出れないけど大切な人に何かあると牙を向くというナイスギャップの持ち主。



「少し散歩しましょうか」



 オリヴィアさん、いや、お母さんに抱き上げられる。なんだろう……精神年齢が16歳だからか、かなり恥ずかしい。あっ、ちょ、やめて、メイドさん優しく微笑まないでっ⁉︎


 私の気持ちなんて知りもしないお母さんは、見ているこっちまでもがおっとりしそうな笑みを浮かべていた。



「良い天気ねぇ」



 お母さんに釣られるように上を見上げると、快晴が広がっている。あまりの眩しさに目を細める。


 ……あれ、そういえば、普通の赤ちゃんって視力が弱いんじゃなかったっけ? これは転生したから?



「奥様」

「あらなぁに?」



 しばらく歩いているとメイドさんが歩いて来た。この人の名前は……そうだ、アリシアっていうんだ。


 ……多分。


 確か、私が生まれて数日後に新しく来たメイドさん。いつも無表情で、何を考えてるのか分からない人。



「今日はジェラルド様が帰ってくる日でございます」

「そういえば……今日は貴方のお兄ちゃんに会う日よ、シャーロット」



 ふーん、お兄ちゃん……お兄ちゃん⁉︎ 確か私のお兄ちゃんって乙女ゲームの攻略対象じゃねーか!


 私の焦りを知らないお母さんは誰もが見惚れるような笑みを浮かべていた。思わずその笑みに私も見惚れ……って危ない危ない、凄いわその笑み、私も習得したい。



「お兄ちゃんは凄いのよ?」



 知ってます。



「勉学がとても出来て」



 確か主席取ってたね。



「運動も魔法も出来て」



 実際に液晶越しで見ました。



「それでいて厳しいんだけど……とても仲間思いなのよ」



 はい、あの仲間にしか見せない笑みとイケメンボイスを聞く為に何回もプレイしました。いやぁ、今から液晶なしで会うの嫌ですー。ちょっとこのまま散歩を続行しません? 良い天気ですし。


 それでもお母さんは進む、私の意思は関係なし、って伝えられないんだったわ。

 あー、もう良いや、絶対に当たる壁だったしうん。さぁどんとこいやぁっ!!


 覚悟を決めた私は、ジッとこれから開かれるであろう扉を見つめた。



「奥様、ジェラルド様はこの部屋です」



 開かれる扉の先に目を凝らすと、まず目に入ったのは深みのある瑠璃紺色の髪、こちらを映す目は何処までも綺麗で吸い込まれるような鮮緑色の瞳。私の語彙力のない言葉で表すのなら「うへぁ……!」だ。


 大人になったら絶対に美男になると分かる程に顔の配置が良い。流石あの美男美女の遺伝子を受け継いでるだけはある、大人の顔もそれはそれで良かったが子供の顔もこのあどけなさも良い。



「お母様、お久しぶりです」

「えぇ、本当に久しぶりねジェラルド」



 ジェラルド・ウォーカー


 公爵家の長男。瑠璃紺色で右の髪が長い左右非対称な髪型と鮮緑色の目をして仲間思い、そして気を許した相手にしか見せない笑顔が最高と言われる乙女ゲームの攻略対象。


 ゲーム上だと妹は普通に好きなんだけど、妹が起こす悪行に頭を抱えるジェラルド、好きだから正しく生きて欲しい、好きだから強く出れない、そんな時にヒロインが来てなんやかんやあり吹っ切れたジェラルドは妹を断罪する。

 ハッピーエンドだと私は国外追放、バッドエンドだとヒロインを殺した私は怒り狂ったジェラルドに殺される。


 今の内に媚びでも売って置こう。断じて未来が怖いからじゃない、好感度を上げておいた方が色々と楽だと思うから……ほ、本当だよ?

 ジェラルド、いや、兄さんに向かって精一杯の笑顔を向けた。



「あら、お兄ちゃんだって分かったのかしら?」



 ほーらほらほら、私の精一杯のサービススマイルだよー。私は悪い事しないよー、私は良い子だよー。

 必死に手を伸ばし兄の機嫌を取る為に無邪気な子供の振りをする精神年齢十六歳の赤ん坊……なんだろう、言ってて悲しくなって来た。

 兄さんは目を見開きジッとこっちを見つめる、穴が空くんじゃないかって思うぐらいに見つめる。ちょっ、見つめすぎ。



「……お母様」

「どうしたの?」



 何故かこちらに手を伸ばす兄さん。



「お願いします。どうかシャーロットを抱かせて頂けませんか?」



 ファッ⁉︎ ちょっとお母さんまさか五歳児に私を抱かせるおつもりですか⁉︎ まっさかそんな事しませんよねー。



「気をつけてね」



 お、お母様ーーーーーっ‼︎


 抵抗も虚しく、兄さんに抱かれる私。恨めしげに兄さんを見上げると目が合った。

 な、なんだよ。



「とても、可愛らしいです」



 可愛いのはお前だ。


 ふにゃりと可愛らしく笑う兄さん、嬉しそうに細められる目、上がる口角、なんていえば良いんだろう、もう天使の微笑み? いやもうこれそんな破壊力じゃない。人が、主に女が倒れるよ、母性本能が鷲掴(わしづか)みだよ。



「本当に可愛らしい……あぁ、こんなに可愛すぎると他の奴らに取られないかとても心配だ」



 甘く優しく囁く兄さん、その目は何故かトロリと(とろ)けている。

 あ、あれ? ゲーム上での兄さんってこんな感じだったっけ?



「お母様、今日は一日中シャーロットを抱かせて貰っても(よろ)しいでしょうか?」

「ふふっ、そんなに気に入ったのね、えぇ、良いわ」



 また兄さんと目が合った。



「このままずっと私の側に……!」



 ……なんなんだろう、この胸騒ぎは。

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