10話 謎の2人、現る
冒険者になったら、もっと生活が楽しくなると思っていた。
「あーーーーーー、めんっどくせーーーーー」
「お嬢様、女とは思えない言葉の本音が口からダダ漏れです」
「あーーーい気をつけまーす」
冒険者生活が始まって一週間、私はギックリ腰になってしまったお爺ちゃんからのクエストで林檎に似たピンクの果物を梯子に登って収穫していた。
話は変わるが、あれから外に行く時はアリシアを連れて行く事になった。何でもアリシアは男爵家の娘で、行儀見習いをする為に私の侍女になったらしいが、なる前はアリシアのお父さんから剣術や魔術を教えて貰ってたらしい。
因みに、アリシアのお父さんはとても凄い冒険者だそうだ。だから腕には自信があるとの事。
あと兄さんがとても、それはそれはとても行きたそうに立候補してたけど、学校があったので断念した。というか学校の校長と理事長の叔父さん達が必死に説得してた。私からの「お兄ちゃん」の一言で叔父さん達の十二時間が無駄になったけどね。
「ピンスはスイーツと違って甘いのに殆どが水分で出来ていて脂肪が付きにくいので貴族や平民など色々な女の人から人気がある果物ですよ」
「いやそれ林檎じゃん」
「りんご……? リンゴーンの事でございますか」
モンスターを倒すのは怖い。痛いのはやだし。だからこうやって誰でも出来るクエストで暇つぶしをしている訳だ。
ピンスの中で一際大きくて形が良い物を見つけたのでもぎって齧る。大丈夫だ、お爺ちゃんからの許可は下りてる。
「朽ち果てた教会の鐘を盗み、その鐘の中に本体を隠しているモンスターです。他のモンスターと違い、とても穏やかで友好的です。仲良くなるとピンスに似た赤い果物をくれます」
「モンスターと仲良くかぁ」
「モンスターは倒すと経験値が入り、筋力や体力などが上がりますが、リンゴーンは倒すとかなりの経験値を獲得できます。なので狙われやすいモンスターなのですが仕留め損ねると、とても臭い糞を投げてきます。それも的確に。しかも、その臭いは永遠に取れないと言われています」
……今度、もしもリンゴーンに会ったら仲良くさせて貰おう。
そんな事を誓いながら齧り終えたピンスを遠くにあった虫に齧られたピンスを入れるゴミ箱に投げた。一発でピンスはゴミ箱に入る。
「しゃあっ!」
「お嬢様……」
アリシアから注意が入ろうとした、その時。
「きゃああああああ! 助けてぇっ‼︎」
女の悲鳴が森に響き渡った。もしかしてクエストを受けた冒険者がモンスターに襲われているのだろうか。野次馬精神の私は直ぐに声がする方へと走った。
森の中を走ると、意外と近くに声を発したであろう女が居た。
……緑色の人みたいなのに担がれて。
「このままゴブリンの巣で一生過ごすなんて嫌ぁぁぁあああっ‼︎ ロルフ! ロルフーーーっ! 助けてぇっ!」
「わぁってる! クソっ、数が多いんだよ畜生……!」
どうやら、目の前にいるモンスターはゴブリンらしい。十五匹くらい居る。それにどっちも私と同じくらいの歳だ。うん、つまり五歳児、どうして五歳児が此処に居るんだろう。どうして剣を振り回してるんだろう。子供は家で遊んでろよ。
えっ、あぁ、私は大丈夫。アリシア付きだから。
「ゴブリン、個体としては弱い雑魚ですが集団になると初心者の冒険者には酷なモンスターですね。性別は雄しかいないので女を攫い、巣に持ち帰ります」
「助けた方が、いいよね?」
「いえ、このままゴブリンの巣に近づく事に絶望の表情を浮かべる女の子を見るもよし、ゴブリン相手に苦戦している男の子に野次を飛ばすもお嬢様のお好きなように」
「いやしねぇよっ⁉︎」
どうしよう、アリシアってロバルトと同じくらい性格悪いかもしれない。
そんな心配をしていると、ゴブリンの群れが一斉にこっちを向いた。どうやら今の大声で存在がバレてしまったらしい。近くにいたゴブリンが木の棒を振り上げてこっちに襲いかかる。
「オンナダッ!」
「おぎゃああああああっ‼︎」
「ふんっ!」
アリシアがゴブリンの顔面を容赦なく蹴った。吹っ飛ぶゴブリンに相変わらず無表情のアリシア。アリシアって意外と強い?
呆然と目の前の光景を見つめている間にアリシアはどんどんゴブリンを倒していく、モザイクをかけた方が良いレベルで。
「あっ、あ、あぁ……」
ゴブリンに抱えられていた女の子が、ゴブリンであった物を目の前にして言葉にならない声を発し、魚のようにパクパクと口を動かしている。
ありゃー、こりゃ流石にキツいわな。
男の子の方は怖いのを堪えているようだ。プルプルと震えながら剣を握りしめていた。
「はぁっ!」
「ギャッ‼︎」
最後のゴブリンを倒したアリシアに近づく、所々に緑色の血が付いている。
「一応聞くけど、大丈夫?」
「はい。お嬢様、怖がらないのですね」
「えっ、あぁ……うん」
前世でホラゲの実況見て耐性ついたからね、とは言えない。適当に流してハンカチを差し出した。
「ありがとうございます」
「どう致しまし……うわっ⁉︎ 良いから! 血が付いたハンカチ返そうとしなくて良いから!」
「いえいえ、これはお嬢様の家の家紋が入ったハンカチ、私が持っていて良い代物ではありません」
「顔! 顔笑ってる!」
「あ、あのー……」
アリシアと攻防戦をしていると、後ろから声がかかった。振り返ると、今さっきまで震えていた女の子と男の子が。
「助けてくれてありがとう」
「ありがとな」
「えぇ、まぁ、何処かの誰かが私の事を性格悪いと思ったようなので、汚名返上させて頂いただけです」
もしかして、心の声聞かれた? や、やだなー、そんな事、オモッテナイヨ。
「あ、そっちは……」
「大丈夫です」
今さっきまでの言葉遣いは何処かへと飛んでいき、厳しい先生に教えられた言葉遣いに早変わり……アリシアからの目線が痛い。
(いつもこんな感じでしたら、お嬢様はまだましですのに……)
クッ、此奴、直接脳内に……!
それにしても何処でそんなスキルを覚えたんだ、あとで教えてもらお。
そんな事を考えていると、ふと道端にキラリと光る物が何個も落ちている。
「これは……!」
ひゃ、百円だぁぁぁあああ‼︎
え、待って待って何で百円落ちてるわけ?
落ちているのは百円だけじゃない、五百円や十円、五円に千円札や一万円のあの人まで。
直ぐに走り出して地面に這い蹲りせっせと拾う。私を見る目線が痛いが、目の前の欲望に比べればそんな物は全てどうでも良い。
「んっふふ……ふひっ……!」
「ね、ねぇ、あれ、あの子」
「ゴブリンの残骸を見て気でも触れたか……?」
「お嬢様」
ポン、と肩を叩かれた。後ろを振り向くと頭を捕まれ、そして。
「ふんっ!」
「うわああああああああああああああっ‼︎」
勢いよく上下にシャッフルされた。
アリシアは本当に私の侍女なのだろうか? 一応、これでもお父様とお母様の子供で公爵令嬢なんだけどな。
「や、やめろおおおおおおっ‼︎」
「すみませんお嬢様、気が触れたのかと」
「だからってこれは無くない⁉︎ 私、一応だけど公爵令嬢!」
「公爵令嬢っ⁉︎」
あっ、やっべ。
気が付いたが、時既に遅し。二人共、口を大きくあんぐりと開けていた。女の子がゆっくりと此方に近づき、力強く私の手を取った。
「こ、こここここうしゃ、公爵令嬢っ!」
「ひぃっ!」
何という事でしょう。可愛らしかった顔が、豹変して今は獲物を狙う肉食動物の目ではありませんか。
「もし良かったらレミリア教に入し」
「せい」
「あいたぁ!」
男の子が女の子の頭にチョップを入れた。
「悪いな、此奴、教会関連の事になると頭が可笑くなるんだ」
「可笑しくなるって何よ! 私はレミリア教会の最高司祭の娘よ! いいじゃない入信を勧めたって! 逆に何処が可笑しいのよ⁉︎」
「うるせぇ!」
「すみませんが」
この2人のやり取りを見てるよりも金を拾う方が先だと判断した私は、道端に落ちている小銭と札を拾っているとアリシアが声を挙げた。
「またモンスターが来ては危ないので、一旦、街に戻りましょう」
私はゴブリンだった物に目を向けた。正直言って、モンスターよりもアリシアの方が危なそうだし恐ろしい。女の子と男の子の目が合った。どうやら此奴らも同じ事を考えていたらしい。
私達は街へと戻った。
かなり久しぶりに書いたけど、主人公の口調が掴めなくなってる……!