1話 転生先は乙女ゲーム
私は転生者だ。
いやいきなりなに言ってんだって言われても私は転生者です。
最初は分からなかった。
起きたら知らない所にいて、知らない誰かに抱かれていた。
「あらぁ、この子ってあなたに似てません?」
「いいや、君に似てかなりの美人になる筈だ」
イラっとする程にイチャイチャしている美男美女が私の顔を覗いている。
年齢=彼氏いない歴の私からしたら今直ぐにでも爆発しろって言いたい。
……ん?
そういえばこの顔、どこかで見た事があるような無いような……。
「この子の名前はシャーロット、シャーロット・ウォーカーだ」
あっ、その名前聞いた事ある、私が遊んでた乙女ゲームの……え?
こんな感じで私は前世の記憶を持ちながら転生したと気づいた。
前世での私は冬に死んだ。丁度、その時はインフルエンザが流行ってて、学校にいる人が少なく、いつも一緒にいる友達は休みで1人ぼっち。そして、偶々、周りに誰もいなかった。
学校の階段を前にして変にテンションが上がった私は「2段飛ばしフゥゥゥ!」とか奇声をあげながら、教科書やノートを片手に階段を2段飛ばしで走りきり、最後の段を登り切った所で、何故か落ちてたバナナの皮を踏み、そのまま滑って真っ逆さまに落ち後頭部を強打し死亡。
これ他人が聞いたら笑うと思う。
なんだよバナナの皮で滑って死亡って、ギャグかよ。
取り敢えず前世の記憶を持ったまま生まれた先は
『ときめき魔法学園〜光の聖女決定戦〜』という名前の乙女ゲームのヒロイン……
ではなく、むしろその逆でヒロインのライバル役、悪役令嬢。
シャーロット・ウォーカー
それが今世の名前、うん、あの悪役令嬢の名前。
この悪役令嬢は確かかなりの美少女で虫も殺しませんよーって顔してるのに裏で悪さをしているギャップの凄い女の子。
それと勉強も運動も出来る性格さえ良ければ完璧な公爵令嬢。
まぁ、かなり家族に甘やかされたせいか、それとも周りが悪い事をしても注意しなかったせいか、気に入らない奴は徹底的に排除する性格になった……。
例えば、乙女ゲームのヒロインを階段から突き落としたり。
主人公の物を壊したり隠す、パーティーで笑い者にする、魔法で殺そうとする、他にもあるけど、言ったら切りがないんでここら辺でやめるわ。
それと、私が転成したこの世界『ときめき魔法学園〜光の聖女決定戦〜』
大体のシナリオはこうだ。
とある昔、世界の頂点に立つ男がいた。
その男は魔族。圧倒的な武力と魔力を持ち、人族、亜人族、エルフ族、ドワーフ族、魔族、全てを恐怖と力で支配した。
その男の事を、皆は口を揃えてこう呼ぶ。
「魔王」と。
魔王の時代は何十年も続いた。魔王と同じ魔族は好き勝手暴れまわり、世界を混乱と恐怖に陥れた。
そんな時、現れたのが五人の者達。
魔王の時代を終わらせようと、人族の国王は特に秀でた人間を五人集めて魔王城に向かわせたのだ。
魔王とその五人は戦い。結果的にはその五人が勝ち、英雄と呼ばれ称えられた。
と、まぁこんな感じでこの話は終わり、世界は平和になってめでたしめでたしとなった。
さて、そんな話から何百年も経ち舞台はロミリア王国、魔法に特化している国。
この世界には光、闇、火、水、氷、土、風、雷、植物の魔属性がある。
ヒロインは光、火、水、氷、土、風、雷、植物の8属性が使える。
シャーロットは闇、火、水、氷、土、風、雷、植物の8属性が使える。
ちなみに、光と闇の属性を持ってる人は少ない。
ヒロインは貴族が通うロミリア魔法学院に通うが同じクラスになったシャーロットに目を付けられて虐められてしまう。
そんな中、ヒロインはとある男性と恋に落ちる……は良いけれど、その好きになる相手がシャーロットと関係がある人なのだ。
婚約者に兄、教師にシャーロットが好意を寄せている先輩。
もちろん、ヒロインの恋をシャーロットが見逃すはずもない。虫1つ殺さない顔して裏でヒロインを虐めまくる。
虐めれば虐める程に縮まるヒロインと攻略対象との距離、更にヒートアップする虐めという悪循環。
そしてヒロインは光の聖女としての候補者として選ばれた。
光の聖女とはロミリア王国で1番、魔法を上手く操る者の事。昔、世界を脅かした魔王を倒す為に勇者のパーティーを編成する事になったが、パーティーメンバーはどう決めたのかというと……。
大会だ。
剣は剣で、魔法なら魔法で。それぞれの系統に分けてトーナメント方式で戦い、最後まで勝ち残った人が勇者パーティーのメンバーになれた。
そして、ロミリア王国から勇者パーティーのメンバーが出たのだ。その人は女で光属性の魔法を得意としたので、ロミリア王国では1番の魔法の使い手の事を「光の聖女」と呼ぶ。
が、今は魔王なんていない平和な世界。そして意外にも大会が人気だった為に、何百年も昔から1年に1回、行われている。
そんな大会にヒロインはもちろん、シャーロットも光の聖女としての候補者に選ばれる。
自分の魔法に自信のある人達、貴族も平民も関係なく集めてトーナメント方式で戦う。確か、その時はミニゲームになっていて、最後の相手にかなり苦戦した覚えがある。
その最後の相手はシャーロット。魔力も知力も、その他のステータスもヒロインより高く、良く言えば「天才」悪く言えば「化け物」。それぐらい、シャーロットは強かったのだ。
まぁ、そんなこんなで大会が終わると攻略対象と共にヒロインを待っているのは好感度が一定の基準を達していれば攻略対象と結ばれるハッピーエンド、逆はバッドエンド。
シャーロットに待っているのは親からの勘当、婚約破棄、処刑、平民落ち、国外追放、嫌われ者な爵位の低い貴族と強制的に結婚、殺害、毒殺、攻略対象のルートによって違うけど、バッドエンドでもハッピーエンドでもシャーロットの未来は絶望的。
悪い事をした奴にはそれだけの分が返ってくる自業自得さにざまぁ(笑)って思ってたけど私はそんな事しないし、そんな未来なんて嫌だ、断固拒否です。
ゲームの力で強制的に悪役にされなければ大丈夫な筈。
大丈夫、私の未来はまだ大丈夫。
そう思った私はゆっくりと目を閉じた。