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『追憶の希望』  作者: Min.Tear
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Episode.1〜覚えの無い思い出〜

『ピッ!ピッ!ピーーーー!』

試合終了を告げる無慈悲なホイッスルが相手チームの歓声と共にコートと俺の全身に響いた。崩れ落ちた膝では立ち上がることすらできず、すぐに駆け寄って来てくれた透真と舜の肩を借りて何とか立ち上がった。俺の前に広がっていたのは勝者の歓喜をBGMに、敗者が肩を取り合って細々と涙を流しているまさに勝負の世界の構図だった。満身創痍の身体を引きずっていている上に涙で視界が揺らいで状況があまり飲み込めずにいたが、その光景の哀しみだけは手足の先まで残酷なほどに染み渡った。


ようやくまともに物事を考えられるようになったのはミーティングが終わり、荷物をまとめてバスへの道を歩いている頃だった。


――俺はPKを外した。最初の5人が両チームとも決めてサドンデスに入り、6人目のキッカーである俺に勝負の行方は任された。俺たちのチームは後攻で相手の6人目が先に決めたから俺が外せば即負けという状況だった。言うまでもなく俺は緊張していた。延長戦を経て身体の疲労は既に限界に達していたけど、それすら気にならないくらいに。本来PKを蹴る予定じゃなかった俺にキーパーの動き出しを見ながら蹴るなんて芸当はできない。だから俺は左右のどちらかに思い切って打つしかなかった。

――(右利きの俺にとっては左に打った方がスムーズに打てて威力も出る。しかし、だからこそ読まれにくいのは右だ。でも、今度はそれで威力が足りなかったら一生後悔することになる。どっちだ?どっちに打てば良い……?)――

永遠の様に思えた静寂を破って俺は「いける」と小さく呟いた。そして、一気にボールまで詰め寄り全身全霊の一撃を放った。俺が選んだのは左だった。威力は十分、キーパーも読みこそ当たっていたもののジャンプがシュートに追いついていなかった。ゴールを確信した俺の喉からは「よっしゃーー!!!」がすぐそこまで出かかっていた。しかし、瞬きを終えた俺が次に目にしたのはゴールに突き刺さるボールではなく、ゴールポストに今まさに弾かれようとしている俺のシュートだった――


思考が戻ってからというもの俺の脳内にはこの一連の映像がこびりついて、フラッシュバックの様にひたすら流れていた。そして、「右に打てば、右に打てば良かった……」ととてつもない後悔の念に苛まれていた。それだけにとどまらず、その言葉が実際に口に出ていて呪文の様に繰り返していたということを後に透真から聞いた。俺は自分の言動に我ながらドン引きしたが、当時の自分の心中を察すると無理もないと思い自分で自分を慰めた。


俺たちはバスに乗った。しかし、車内の空気は底が見えない闇の様に暗く、重かった。俺は隣に座った舜に聞こえるかどうか分からないくらいにボソッと話しかけた。「なんでみんな俺を責めないんだろう……俺があそこで決めていたら県大会に進出できたかもしれないのに……もう、これがみんなで出れる最後の大会だったのに……」すると、俺の気遣いと裏腹に舜は俺どころか静まりきったバス全体に聞こえるくらいの声で言った。「あのなぁ〜サッカーみたいなチームスポーツで1人だけが責任を負う場面なんて一つも無いんだぞ?成功の陰にも失敗の裏にもそいつ以外の存在が絶対にいるんだからさ。ましてやPK戦だぜぇ⁈そこまでもつれ込んじまった時点である意味負けみたいなもんなんだよ。だから気にすんな!」そう言いながら背中を叩いてくれた。こいつが大雑把な性格なのはいつも通りだけど、この時はわざと空気をぶち壊すことで俺たちを励ましてくれたんだと親友として確信できる。舜の言葉を聞いたみんなもうなずいたり、俺に向かって励ましの言葉をかけてくれた。まだ後悔は残りながらも僅かながら元気を取り戻した俺は気分を変えようと窓を開けて外を見た。その日は皮肉なほどにとてもよく晴れていた。夕焼けが儚い薄暗い空の闇をまとっていてより光り輝いて見えた。まるでさっきの車内の空気と舜みたいだ、なんて思いながら俺はふと思った。いや、思い出したと言った方が良い気がした。今までそんなこと思ってもみなかったのになぜかとても大事なことを思い出した気がしてならなかった。


《この光ってどこから来てどこまで照らしているんだろう?》


そう思った次の瞬間、俺の身体全体を覆う様な勢いで光が飛び込んで来た。光が自分一人に向かって来るなんてもちろん初めての体験だった。でも、それが勘違いや見間違いだという疑いの気持ちはなぜかまるで起きなかった。目を背けるほどに煌めいているが、どこか懐かしく温かさを感じる光に包まれて俺の意識はみるみる薄らいでいった。


次に目を開けた俺はサッカーコートに立っていた。動揺する俺を置き去りにしてPK戦は進み、遂にサドンデスに入った。先行の相手はクールにゴールを奪った。この軌道もキッカーのリアクションも周りの空気も全て覚えがある。――(う〜〜んと……?そうか!どういうわけか分からないけど、どうやら俺は今PKを蹴る前の過去にいるみたいだ。本当に何がどうなってるのか意味わかんないけど……)――

『ピッ!』次のキッカーへ合図するホイッスルが吹かれた。俺はペナルティエリアへと歩き出した。緊張はしているが、以前のものとはまた違う変な緊張だ。状況がまるで把握できていないし、これはもしかしたら夢とか妄想かもしれない。でも、打つ方向だけは確かに決まっている――――右だ。



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