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ストレンジファントム  作者: 幽霊部員
第2章 心霊写真
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 携帯電話が大衆に普及してから、写真が撮影される機会はとても多くなった。

 それは僕だって例に漏れず、何かにつけて気に入ったものがあればすぐにスマートフォンを取り出してパシャりパシャりと撮影している。


 今ではもうあまり聞かないが、昔は写真を撮られた人物は魂が抜かれるなんて迷信もあったそうだ。

 時間をそのまま切り抜いたような現象を目の当たりにして、科学の進んでいない時代の人がそう思うのは無理ないのかもしれない。

 しかし、そんな迷信が言い伝えられていたのには他にも理由があるのではないかと思う。


 古今東西、カメラは撮影者の意図しないものを写す事が時々ある。

 例えば僕が今手にしている写真のように、宙に浮く不自然な程大きな人間の顔を写してしまう事が…。



 ※※※※※※



 放課後。

 クラスメイトに別れを告げて、薄暗い階段を登って行く。

 向かう先は校舎3階の隅、僕が所属する"おばけ研究部"の部室だ。

 途中の自販機でコーヒーと苺ミルクを購入し、既に慣れた足取りでその部屋へと辿りつく。


「おつかれさまです、先輩」

「ういー」


 扉を開けると、彼女の見た目にそぐわないぞんざいな返事が聞こえて来るが、いつもの事なので聞き流す。


 僕がこの部活へ入部してから既に二週間程が経過していた。

 入部当初はどんな無理難題が彼女の口から飛び出すのかと少し怯えていたが「怖い話をできるだけ多く蒐集してきなさい」と告げただけで、他には何もなかった。

 普段している事とすれば、先輩は部室に設置された大きなソファーで毎日気持ちよさそうに寝息を立てているだけだし、僕は備品のPCで怖い話を蒐集しては纏めているくらいだ。


 後はクラスメイトや中学時代の友人から聞いた怖い話を先輩に報告したり、適当な雑談をして陽が落ちてきたら解散といった具合。

 退屈な事だろうと思うかもしれないが、案外そうでもない。

 形は変だけど、こういう何もない高校生の日常という物に中学時代から少し憧れがあったので、これはこれで僕としては満足していた。


 珍しくソファーにちゃんと座っている先輩の対面に僕も腰を下ろし、机を挟んで彼女を見ると小さな栗色の頭を片手で抑えて何やら真剣な表情でもう片方の手元を覗き込んでいた。


「何を見ているんですか?」


 そう言いながら先輩へ苺ミルクの缶ジュースを手渡す。


「んー、ありがとう」


 と、どこか上の空に感謝を述べた後、再び真剣な表情で手元に集中する。


 別にパシリにされているとか、餌付けしようとか考えているわけではない。

 前の一件もあるので、毎回手土産として僕が勝手に渡しているだけだ。


 初めにコーヒーを二つ持って行った時は「ぶ、ブラックね……。まぁ好きだし、全然何も問題ないわ」とか言って、端整な顔を盛大に歪めていたので以来苺ミルクを買ってきている。

 子供扱いしないで、と文句を言った割に気に入っているようだ。


 先輩は難しそうな表情を浮かべたまま、一枚の写真を僕に手渡してきた。


「どう思う?」

「どうって……うわぁッ!?」


 思わず仰け反って後ろにひっくり返りそうになった。

 ひらひらと宙を舞うその写真を先輩が立ち上がって大事そうに掴み取る。


「何やってんの、破れたりしたら勿体ないでしょ」


 苺ミルクの缶をだらし無く歯で咥えたまま、ジト目で僕を見下ろす先輩。


「いやいやいや、何ですかその写真!いきなり変なモノみせないでくださいよ!」


 ふぅ、とため息を吐いて冷静に座り直す彼女に信じられないといった視線を向けてしまうのも無理ないだろう。


 その写真に写っていたのは、どこかの川の橋の上で学ランを着て楽しそうにしている男子学生二人組。

 それだけなら何の変哲もない、只の青春時代を切り抜いた写真だろう。


 ――問題はその二人組の背後に、通常では考えられない程大きな人間の顔が写っている事だ。


「どこでそんな物手に入れたんですか……」


 呆れ口調で先輩に訪ねるも「クラスメイトから貰った」とだけ返される。

 よくよく机を見てみると、同じように何枚か写真が置いてある。

 恐る恐る覗き込むと全く予想していた通り、同じ場所で撮影されたと思しき写真だった。

 それら全てがいわゆる"心霊写真"と呼ばれるもので、さっきの写真と同じ大きな顔が虚ろな表情を浮かべていた。

 ただ置いてあるだけで心底気味が悪い。


「最近学生達の間で話題になっているみたいなの。で、気になったから色々調べていた訳」

「はぁ、そうですか……」


 本当に物好きな人だ、それを知っていて一緒に連んでいる僕も大概だけど。


 暫くそうやって考えに耽っていた先輩はやがて顔を上げて、「よしっ」と呟くと立ち上がった。


「行ってみるか」

「行くって、この場所にですか」

「それ以外何があるの?」

「場所は分かっているんですか?」

「当たり前じゃない」


 ですよね、そんな予感はしていました。


 数枚の心霊写真を封筒に纏めて鞄に入れた先輩は、どこか興奮した様子で部室を後にする。

 慌ててその後を追い、しっかりと施錠して僕らは心霊写真の撮影された現場へと向かう。


 かくして僕が入部してから初めての部活動らしいイベントが始まった。

 皮肉屋の先輩が命名した、"聖地巡礼"のスタートだ。

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