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いじめはいけないことです9

 とりあえず、こんなもんかな。

出来上がった反省文の端を揃えながら、ふう、と息を吐いた。

三枚目が埋まった時点で、あとはなんとかなりそうということで一旦反省文からは離れて千夏(チカ)と駄弁り、書き上げたのは結局次の日の昼だった。千夏のおかげか思ったよりサラサラと書けてしまった。反省文ってこんなんで良かったのか?

原稿用紙は埋めたものの、考え自体はずっとまとまらずにもやもやしている。つまるところ二人で考えていたのは、反省文として提出できる考えでしかなく、(カナ)自身の悩みはそんなに晴れてはいない。いつまでも残る嫌な感覚を抱きながらベッドに寝転ぶと、いつのまにか眠っていた。


母の声に呼ばれて一階に降りると夕食の用意がしてあった。

妙な夢を見た。いじめにあった子が自殺したというニュースが話題になり、それについて学校で話し合っていた。ある生徒が「だれか止めなかったんですか」と先生に質問すると皆がうなずく。それに対して先生が「隣で見ていた人も、だれか止めないのかと思っていたと思いますよ」と言う。生徒たちが納得したようなしないような表情を浮かべながら近くの子となにやら小さく話している。ほどなくして先生が「いじめはいけないことですね」と話し合いを締めた。

「どうしたの、変な顔して」

母が夕食を口に運びながらこっちを見ていた。

「あきちゃんは私が停学になったの、どう思う?」

叶は母のことを名前で呼んでいる。

「どうって言われても、もう中学生なんだから自分の思うようにやればいいんじゃないの?叶が間違ったと思ったなら直せばいいし、間違ってないと思うならそのままでもいいんじゃない?そういうの決めてほしい気持ちはわかるけどね」

「これだよもう」

もう中学生なんだから。と母はよく言う。姉の里火リカには、お姉ちゃんなんだから。とよく言っていたことを思えば、別に何でもいいのだろう。

「今日お父さんは?」

「とくに連絡もないし、もうすぐ帰ってくると思う」

「お姉ちゃんは?」

「とくに連絡もないし、もうすぐ帰ってくると思う」

どちらかに相談するのがいいだろう。

「一応受験生なんだからあんまり迷惑かけちゃ駄目だからね」

そうだった。おそらく姉は私のことを迷惑だとすら思っていないだろうが、気は遣う。消去法で今日のところは父に相談することにしようと決めたタイミングで父が帰ってきた。いつものように、ただいまぁーと間延びした声が聞こえる。

「お父さんおかえり。お父さんは私が停学になったの、どう思う?」

「おう、いきなりだな。」

母に、ちょっとは休ませてあげなさいと軽く叱られた。先にお風呂入ってきなさいと言われたので父の話はお風呂上がりに聞くことになった。


「お父さんが中学生の頃は、いじめはまだなかったんだよ。あったかもしれないけどお父さんは知らない。だから今の叶がどういう状況なのかあんまりちゃんとわかってあげられない、ごめんな。お父さんが言えるのは、自分だったら止めてないってことだけだ。それが良いのか悪いのかって話は、ちょっと難しいな」

父は少し笑った。

「難しいってどういうこと?」

「叶はまだ中学生だから、これから考え方が変わっていくと思うよ。分からないかもしれないけど、そういうもんだ」

叶が頭をひねっていると父が続ける。

「考え方が変わるっていうのは、いままでやってきたことが間違っていたんじゃないかとか、逆にあのときは違うって言われたけどやっぱり正しかったみたいなこと。そうなると良いか悪いかも変わるから、今ここでどっちが良いかを決めるのは難しいってこと」

分かるような、分からないような。

「それこそ叶が止めたのだって、お父さんの時代ならむしろ立派なことだけど、今やっちゃったから停学になってるっていうだけなんだよ。お父さんはそれが悪いことだとは、はっきり言えないな」

私は生まれる時代を間違えたのか。

父の言葉は母と同じで叶を否定も肯定もしなかった。明確な答えの出ないまま、姉に頼らざるを得ないことに気づかないフリをしようとして失敗した。

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