いじめはいけないことです5
小谷叶の停学は1週間だった。中学生にとっての1週間は長い。自分の行動を省みたり、物思いにふけるには十分な期間だ。
両親が共働きの彼女は、平日の朝から自室で1人、原稿用紙を見つめていた。反省文として200字詰めを5枚も書かなければいけないというのに、どうも筆が進まない。ゴールが遠いと、歩き出すのにもエネルギーがいる。
そもそもそんなに悪いことなんですか
いじめを止めただけですよ私
いじめはいけないことでしょう
いやまあだからこそ止めたらダメってのはわかるんですけど
そんなに大袈裟に怒るようなことですか
ていうかこんな世界間違ってるんじゃないの
私は正しいんじゃないですかこれ!
などと実りのない考えを巡らせるが、それを反省文として書くわけにもいかない。
こういうとき気分転換に外にでも出られれば良いのだが、停学中にそれをするのは根が真面目な彼女にとっては難しかった。おそらく彼女の親友ならば、堂々と遊びにだって出ていただろう。せっかくの停学なんだから楽しめばいいじゃないとでも言われそうだ。そんなことを思っているとなんだか会いたくなってくる。会って話せれば、反省文も少しは進みそうだ。
2人の会話はいつも噛み合っているのかわからない。会話というよりは、独り言を言い合っているような、そういう空気感だ。自分の考えを整理したくなったり、だれにも言いたくないけれど1人で抱えたくもないことを言うための相手として、お互い重宝している。付き合い自体は中学校に入ってからなのでそれほど長くはないが、不思議とすぐに気が合った。出席番号順で並んだ席が近かったのがきっかけで、他愛のない会話をした。気を遣わない感じが心地よかった。
「今日学校終わったら家来てよ」
学校で授業を受けているであろう親友に、メッセージを送っていた。
意外なことにすぐ返事が来たので、もしかしたら授業をさぼっているのかもしれないと一瞬考えたが、そんなことをするタイプではないことはよくわかっている。どうせ楽な部類の授業でも受けているのだろう。悪い子だ。親友の不良ぶりに呆れたが、自分が停学を食らっていることを思い出し、携帯を握りしめたまま机に突っ伏した。