いじめはいけないことです4
いじめられる人間は、学級会で決めることになっている。
まず、いじめられたことのある生徒が対象から外される。その後立候補がいないかを聞き、あれば投票、なければ話し合いで、誰にするかを決める。学校によっては誕生日の近い生徒を対象から外したり、一度に数人ずつ選んだりするところもあるらしいが、とにかくそうやって、誰もがいじめを被害者の立場で経験できるようになっている。
そしていじめられる生徒が決まれば、あとは授業に支障がない範囲で自由にその生徒をいじめる、というのが全国の中学校のルールだ。
自由に、というところがクセモノで、学年によっていじめの方向性が結構変わる。
一年生のうちはマニュアル通りというか、ある意味で正しいいじめをするが、二年生になると慣れてきて過激になり始める。三年生にもなると今度は飽きてくるのか、無視が多い。
二年一組になって最初の学級会では、話し合いによって、野球部に所属するガタイのいい男子生徒がその対象に決まった。
彼は成績も悪くなく運動もできたうえに、いじめにおいても模範的な生徒だった。
朝は挨拶がわりに椅子を引き抜き、休み時間になれば一早くいじめを始め、放課後は部活へ行く前に罵声を浴びせる、という積極性だ。その甲斐あってか教師陣からの信頼も厚く、彼に一目置いている生徒も男女問わずいた。
そんな彼へのいじめは過激だった。
去年度の彼の姿を象徴するようにみながこぞっていじめを行い、その勢いも日ごと日ごとに増していった。
一週間ほど経ったころ、男子生徒たちが順に彼を殴っていたのだが、腹部を殴り続けて五回目あたりでそれを止めた女子生徒がいた。
「ストップ!やりすぎ、保健室連れていってくる」
女子生徒はそう言い放ち、彼と教室を出ていった。
残された生徒は状況を飲み込めず呆気にとられていたが、数秒経って我にかえりこの状況がまずいことに気付く。
いじめが止められてしまった。
中学校でこういうことがあると、必ず決まって何人かは恋愛沙汰にしたがるものだが、このときばかりはことが大きすぎて誰一人としてそんなことを考えなかった。
平和な中学校生活に得体の知れない霧のようなものが迫る予感を覚えていた。