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詠う彼女と霊級解体日誌  作者: 32字以内
唱えはじめの季節
7/35

水面に映えた二人

今回は、短めです。

 人工島の景観けいかんにおいて自然的なテクスチャとして設置された小川おがわには、今でも水が流れている。そばであった地鎮について特に気にしないような小魚のれが、時折ときおり通過していく。


 本土からの迎えまで時間があいてひまになった霊級解体士と詠唱士は、河口かこう近く、人工芝が残っている河川敷に、仲良く並んで腰掛こしかけていた。



「そういえば、今回の仕事はあくまでも臨時だよな。つまり、僕とお前の組み合わせも、最初で最後か」

「わたしにだって、(きし)(かわ) 詩乃音(しのん)という名前がありますから!

 だぁーれが、お前なんて呼べと?」


 声を裏返うらがえらせてまで、詩乃音は言いたかったようだ。


「……でも、まぁ臨時りんじなら関係のないこと」

「そうだな。どうせ新しいタッグが決まったら、すぐ忘れてしまうだろうな」


 合理的ごうりてきに考えれば、それで正解だと思ったが、詩乃音はなぜか残念ざんねんそうな顔をした。

 こんな僕が覚えていたってどうしようもないだろうに。


「ところで、あなたはいつから――」

「僕にも名前はある。なが久手くて ならべだ」


 僕も対抗たいこうして話しをさえぎったが、詩乃音は特段とくだん気にしなかったようだった。


「あ、そうですか。ならべさんはいつから霊級解体士をやっているんで?」


「14才、ちょうど中学二年の頃からだな」

「あなたの現在の学年から計算して三年間か。なるほど」


「どうして、僕の学年なんかが分かる……いまどきの詠唱士はエスパーか!?」


「超能力じゃないです。単なる術式による計算結果を言ったまで。まぁ、やろうと思えば、あなたの誰にも言えない秘密くらいまでは、あばけるんですけどね。あんなことやこんなことまで……」

「いやな予感よかんしかしない」


冗談じょうだんです。ふふっ」


 愛嬌あいきょうたっぷりに笑う詠唱士だったが、僕は苦笑にがわらいすることしかできなかった。

 冗談でも、幅広い意味で一般レベルをはるかに上回うわまわった実力の彼女なら、しないとも断言できない。


 詩乃音が満足そうに腕組うでくみしながら芝生に横になったとき、遠くからやる気のない汽笛が聞こえてきた。 迎えがようやくきたのだろうか。


「こんな時代にもなって、本部はいまだにボートなんか使っているのか……」


「あの人たちは完全に時代じだいおくれ。そもそも、詠唱士と霊級解体士を同時出動させないといけないというルール自体、いらないんですよ」


「たしかに―― 僕らのうちのどちらかが消えることにはなるけれどもな」


 ここで、詩乃音は、キッときびすをかえした。

 その悪い意味でのいかかりに、僕はわずかにひるんでしまった。


往生おうじょうぎわの悪いこと。あなたのほうだけが消えていただくしかないですよ? わざわざ慎重にプランを立てなくてもいいような詠唱士だけなら、かなりのコスト削減さくげんになる」


「待て待て! さっき僕がいなかったら、あなた確実にやられてましたぜ、詩乃音さん?」



 霊級解体士に精一杯せいいっぱい喧嘩けんかを売った詩乃音だったが、重要なことを忘れていたようだ。彼女の肩がピクリとはねた。見ると、目をそらそうとしている



「そ、それは……とにかく詠唱士の育成がまだ本部は足りないという証拠しょうこだってーー

 おや、そろそろお別れの時間ですね」


 気が付けば、小型のモーターボートが川をのぼって、目の前に接岸していた。河口にいれば、それでいいのに。こういう無駄むだなサービスは、本部連中になにかと多い。中年ちゅうねんバイトの船頭せんどうから緊急用浮揚着うきぐをわたされる。

 お別れ、にひっかかった。


「詩乃音は本土に帰らないのか?」


「ああ、わたしですか? 本土もいいんですが、ここに残れって本部からのお達しがありますからね。やはり、このわたしは皆から実力者と扱われているわけで」


「なるほど、テントでも張っているのか。魔物化物件に殺されるなよ」


「はぁ~。かなり低くみられた……」


 詩乃音があきれ顔で、わざとらしくため息をつく。

 モーターがうなりだして、上下しながら水上をすべり始めるボート。



 友人との離別りべつのように手を振ることもなく、僕と詩乃音は、それぞれ事務じむてきに帰宅した。


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