僕のみきちゃん
可愛い可愛い僕のみきちゃん。
こんな終わった世界の中で、君だけが僕に笑いかけてくれる。
つぶらな瞳の僕の天使。
やぁ、今日も遊びに来たよ。
「おにいたん!」
僕の声で、ぱっと笑顔の花が咲く。
見ているだけで心がぽかぽか温まる。君の笑顔はまるでひまわりのよう。
もっと近くで見ていたくて。
僕は蜜蜂のように君に吸い寄せられる。
「おにいたん、きょうは、なにしてあそぶ?」
座ったままのみきちゃんは、僕を見上げて聞いてくる。
そうだね。お医者さんごっこをしよう。
君は病気の患者さん。僕が君のお医者さん。
「またするの?」
そう言って、小首をかしげる姿も愛らしい。
だから君が悪いんだ。
こんなにこんなに可愛いから。
僕は僕を止められない。
そうだよ。さぁ診察しよう。お洋服は脱いじゃおう。
笑顔の僕にそう言われ、君はボタンに手をかける。
下から順に外されて、まずは白いおなかが見えてきた。
すこしぽっこりふくらんで、でもとっても柔らかそう。
首元まで外された。
お胸が見えているけれど、膨らみなんて少しも無い。
だけど白くてすべすべで。
きっとシルクのような手触りだ。
ボタンが全部外された。
ピンクのお豆が見えちゃった。
口に含んで転がせば、どんな味がするのだろう。
飴玉みたいに甘いかな。
「せんせー、しんさつしてくださいっ」
君の言葉で我に返る。
あんまり綺麗な身体だから。思わず見とれてしまったよ。
そうだね、僕はお医者さんなんだ。
さぁ、診察をはじめよう。
そうして僕は手を伸ばす。
「おにいたん、いたくしないでね」
大丈夫だよ。だって僕は君が大好きだから。
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可愛い可愛い僕のみきちゃん。
こんな終わった世界の中で、君だけが僕に笑いかけてくれる。
栗色の髪の僕の天使。
やぁ、今日も遊びに来たよ。
「おにいたん……」
今日の君は元気が無さそう。
熱でも出してしまったのかな?
頬がほんのり赤くって。まるでダリアの花の色。
君の様子が気になって。
僕はちょうちょみたいにふらりと近付く。
「おにいたん、きょうは、なにしてあそぶ……?」
ベッドに座るみきちゃんは、僕を見上げて聞いてくる。
そうだね。お医者さんごっこをしよう。
君は病気の患者さん。僕が君のお医者さん。
「またするの……?」
そう言って、小首をかしげる姿も愛らしい。
僕は君が心配なんだ。
病気はお医者さんに見せなくちゃ。
そんな言い訳できるから。
僕は僕を止められない。
そうだよ。さぁ診察しよう。お洋服は脱いじゃおう。
笑顔の僕にそう言われ、君はボタンに手をかける。
下から順に外されて、まずは白いおなかが見えてきた。
余分な肉など少しも無くて。でもやっぱり柔らかそう。
首元まで外された。
うっすらあばらが浮かんで見えて、膨らみなんて少しも無い。
だけど白くてすべすべで。
触れれば壊れてしまいそう。
ボタンが全部外された。
ピンクのさくらんぼが見えちゃった。
この実に齧り付いたなら、どんな味がするのだろう。
本物みたいに甘いかな。
「せんせー……しんさつ、してください」
君の言葉で我に返る。
君の身体が気になって。思わず見とれてしまったよ。
そうだね、僕はお医者さん。
さぁ、診察をはじめよう。
そうして僕は手を伸ばす。
「おにいたんのて、つめたいね………」
大丈夫だよ。だって僕が一緒だから。
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可愛い可愛い僕のみきちゃん。
こんな終わった世界の中で、君だけが僕に笑いかけてくれた。
可愛そうな僕の天使。
やぁ、今日も遊びに来たよ。
「………」
君の声が聞けなくて、僕は少し悲しくなる。
だけど寝顔がとっても綺麗。
青白い顔に似合うのは、きっと白い菊の花。
僕にはそれが嬉しくて。
君の周りを蠅のように飛び回る。
「………」
ベッドで眠るみきちゃんは、じっと眼を閉じたまま。
お医者さんごっこはもうおしまい。
君にはもう必要ない。
だから、僕が連れていく。
「………」
君は僕を見つけてくれた。
誰にも触れられない僕に。
誰にも見えないはずの僕に。
にっこり笑って話しかけてくれた。
そんなに君が優しいから。
僕は僕を止められなかった。
そうだよ。さぁ死ん殺しよう。そんなお洋服は脱いじゃおう。
笑顔の僕は手を伸ばし、君の身体に手を沈める。
下から順に探していく。まずはおなかから。
すっかり細くなってしまったね。
うん、ここじゃない。
次は胸元。
骨が浮き出て痛々しい。
あぁ、可愛そうなみきちゃん。早く助け出してあげるからね。
心臓にあるとか聞いたけど、どうやらここにも無いみたい。
最後は頭。
血の気の無い頬をなでた後、額のあたりに手を入れる。
あぁ―――――やっと見つけた。
引き抜いた僕の手の中に、微かにゆらめく小さな光。
周りで騒ぐ本物のお医者さん達にはきっと見えていない。
でも同じ僕にはしっかり見える。
ひまわりみたいに温かい光。
あ、おにいたん!
そんな声が聞こえた気がした。
可愛い可愛い僕のみきちゃん。
これからはずっと一緒だよ。
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医師と看護婦が、疲れた顔で廊下を歩く。
背後の病室からはすすり泣く声が聞こえている。
「………あの子、残念でしたね」
歩きながら言った看護婦に、医師も足を止めずに言葉を返す。
「そうだな………原因不明の衰弱死。まだあんなに幼いと言うのに」
暗い声で答えた医師は、眉間にしわを寄せてため息をつく。
「しかし、二人続けてか。あの病室で亡くなったのは」
「えぇ。前の患者さんは、確か若い男の人だったんですけど、小さい女の子をいやらしい目で見るって評判が悪くて」
看護婦は困り顔でそう言って、だが少しして眉をひそめて呟いた。
「………………もしかして、連れて行かれちゃった、とか」
「おい、滅多な事を言うんじゃない。馬鹿馬鹿しい」
「あ、すみません。そんなのある訳ないですよね」
そして歩き去っていく二人。
その背後で、若い男と少女の笑い声が、かすかに聞こえた気がした。