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第4話〈鳳月海人、 幼女に絡まれる〉

「わたしは【リル=リヴァイアサン】だ! 海底よりこの学校を“せーふく”しにきたからよろしくたのむぞ!」


 クラスの時間が、 凍りつく感覚があった。


 思えば、 このリヴァイアさんが転校生だと気づける場面はあった。 最初に出会ったとき、 そもそもこいつは俺を見てビビるどころか喧嘩を売るような態度で接してきた。

学校の生徒全員とは言わないが、 俺を見かけたら、 大体逃げようとする。

そうでなくとも、 最低でも俺のことを知っているはずだ。 ……それくらいのことをしてるしな。

その反応がこいつから、 微塵も感じられなかった。


……だからといって何かできたわけでもないんだが。


視線を下に落とす。

机の縞模様がよく見えるなぁ……。

…………そうじゃないよな、 うん。


さて、 どうしよう。

『あー、 お前は今朝の!!』とかいうベタな反応でもしようか。 ……駄目だ、 メリットが一切ない。

じゃあどうする? 何れにせよ向こうからやって来るだろうし、 だったら先手を…………。



まてよ?

なんでアイツが俺に絡んでくると決めつけてる?

そんな根拠どこにもないだろうが。

そうだ、 なら大丈夫、 心配ないな!


少なくとも俺の後ろの席に座るとかじゃない限り……。



「―っというわけだが、 それじゃ二人は……、 鳳月の後ろな、 そこしか空いてないし」



ガッデム!!!


なんて余計なことを……ッ。


「む! お前は鳳月海人ではないか! これは良い偶然だな! なんでこんなところにいるんだ?」

「なんでもなにもここが俺のクラスだからだ!」


駄目だ、 目が合うなり声をかけられてしまった。

いや、 それはそうか、 転校生で知り合いがほとんどいない中、 偶々見知っていたやつがいたらそりゃだれでも声をかけるに決まってる。

……問題なのは、 その相手とクラスの空気だ。


『なぁ、 破壊神と知り合いなのかな……』

『さ、 さあ? っていうか、 あの小さいやつ、 なんか変なこと言ってたよな?』

『リルたんハァハァ』

『かいていとか……制服? 征服? とか言ってたな』

『あの子大丈夫なの!? 危ないって、 誰か止めてあげてよ!』

『だ、 大丈夫だって、 知り合いみたいだし……魔王もいきなり襲わないだろ……』


小声で話してはいるが、 ちゃんと聞こえてくるクラスの声。 破壊神とか魔王は俺のことだ。

どんだけのことをしたらそんな直球なあだ名がつくんだよって話だが……まぁ、 そんだけのことをしたんだ。 仕方あるまい。

……なんか一人発情してるやつがいたような気がするが、 多分気のせいだ。 そう信じよう。


それよりも現状をどうにかしなければならない。

このクラスのなんとも言えない視線からはやく逃れたい。

俺としてはこれ以上人から避けられる要因を作るわけにはいかないし(もう手遅れ)。


どうしようか……。

シラを切り通すか?

いや、 駄目だな、 あっちから話しかけてきてる以上、 今さら知らないなんて言っても無駄だ。


「なんだ、 お前ら知り合いだったのな、 ちょうどよかったわー、 色々頼むぞー、 鳳月ー」


 あぁッ! 漫画でよく聞くセリフだこれ!

強制的に主人公とヒロインの席を近づけようとする呪文……、 くそッ、 どうしようもねぇ。

いや、 まぁこれが普通なんだろうけど、 そりゃ転校生にあらかじめ“知り合い”がいる状態だったら、 そこから人間関係を構築するために、 その“知り合い”とやらに転校生を任せるのが一番だ。


 ……ただ、 先生よ。

今回は人選が悪い。

俺経由になると、 人間関係を構築するどころかそこで打ち止めだ、 今後リヴァイアさんに話しかける生徒はいなくなるレベルに。

先生はなに考えるんだ……、 でも、 確かに俺の後ろしか空いてないから、 仕方ないと言えば仕方ないんだが……先生ならどうとでも出来るだろうし。

なんにせよ、

これで完璧に退路が断たれちまった……。


「うむ、 よろしくたのむぞ! 鳳月海人!」


無邪気に笑うリヴァイアさん。

こいつは俺の気苦労など知るよしもないだろう。

……マジでどうしようか。



そして、 特に何事もなく放課後を迎える。

これが嵐の前の静けさじゃなければいいんだが……。



「鳳月海人! ガッコーの中を案内してくれないか?」


そういうわけにもいきそうになかった。

……ここで断ったらどうなる?

他のやつに頼みにいくか?

行ったところでそいつらは引き受けるのか?

そもそもこいつは引き下がるのか?


ダメだ、 いくら考えてもこれは全部予想に過ぎない。 ……でも引き受けたところで、 こいつは孤立するかもしれない、 いや、 する。

というか、 よく考えてみればあの自己紹介を聞いたら俺とか関係無しに、 多分誰も寄ってきそうにないぞ……。 もしかしたら一部の物好きが話しかけるかもしれんが。


「あの、 リル様……じゃなくてリルさんを助けてくれた御方ですよね?」

「え? ……あ、 うん。 ……っていうか、 どちら様?」

「えぇっ!?」


なんか見知らぬ金髪ロングセラー、 じゃなくてロングヘアーの女子に、 リヴァイアさんの後ろから話しかけられた。

染めてるとかじゃなくて、 自然な色つきをしているようにみえる。

いつのまに居たんだこの人。


「リルさんと同じ転校生ですよ!」

「あー、 ……ごめん、 見てなかった」

「わ、私! ちゃんと自己紹介してたはずですよ!?」

「ごめん、 普通に聞いてなかった」

「そんなっ! ひどいです……」


ヤバイ、 泣いてしまいそうだ。

そういえば、 悟先生も『二人とも』って言ってた……ような?

ここはとりあえず話を反らそう。


「えーっと、 名前、 は?」

「……【潮見セーレン】です」


潮見……ってことはハーフ? なのか。

外見はロシア人っぽいよな、 肌白いし。


「すまん、 潮見さん。 話聞いてなくて悪かったな」

「大丈夫ですよ、 ……どうせ私なんか存在感が薄い女なんです…………」

「そ、 そんなことないって、 その金髪だって特徴的だし、 高身長だし! 確かにリヴァイアさんよりは“インパクト”に欠けてるかもしれないけど、 “それなり”にめだってるからさ」


「……………………」


あ、 あれ? 体育座りでうつ向いてしまわれたぞ?

なんか、 余計落ち込んだ?

なんでだ…………。


「確かに」


と、 ゆっくりとした動きで立ち上がる潮見さん。

後ろにオーラが見えるような錯覚を感じるくらい、 お怒りのようだ。

何したんだ俺! ……やっぱわからん。


「確かに私はリル様よりもめだたーぁああ??」

「はやく行くぞ! 二人とも!!」

「は!? ちょっとまて! 俺はまだ返事を―ぁあああ!?」


突然、 待ちきれなくなったリヴァイアさんに手首を捕まれた。


『そこまで』はよかった。


そこから廊下に出てとっとと学校案内をさせるとかならまだよかった。

だが、 違った。


“そいつ”は、 俺と潮見さんを引っ張ったまま、



窓から飛び降りた。



ここ、 3階なんですが。



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