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第3話〈鳳月海人、 フラグを回収する〉

 さて、 とりあえず問題が二つほどできてしまった。 1つはうちのクラスに青い髪の毛の転校生が来ていないか確かめなければいけないこと、 もう1つはすでに授業が始まっている教室にどうやって入るか……だ。


 別に校門前で出会った、 えっと……。 リヴァイアさん? だったか。 『リル』とか言ってた気もするけど、 外国って名字と名前が反対なんだよな、 確か。


磯崎先生が言っていた転校生とやらは十中八九この“リル=リヴァイア”で間違いないだろう。


 まぁ、 そのリヴァイアさんが嫌いと言うわけではないが、 あんな濃いやつが教室にいたら絶対面倒なことになる、 これ以上俺の学校生活での厄介事が増えるなんてのは避けたい。


多分、 名前を覚えられてるから校内で見つかっても厄介だが、 同じクラスとか学年じゃない分いくつかマシだ。



教室に入る件については、 授業といっても、 教科書をわけるとか、 HRの最中だろうし教壇の反対側にある後ろの扉から静かに入れば……、


「鳳月ー、 お前また遅刻かー?」


……駄目でした。

教鞭をとっていた、 我が担任、 【道長みちながさとる】先生。

長い道のりを歩いて仏様にでもなりそうな名前の、 コワモテ系の男性教諭に見つかってしまった。


「『また』じゃないです、 一学期最初の遅刻です」

「終業式の日も『三学期最後の遅刻です』とか言ってなかったかお前?」

「……はい」


精一杯のとんちを効かせたが、 先生には全く通用せず、 即座に言い負かされてしまう。


「ぶふっ……あ、 すす、 すいません!!」


俺の近くに座っていたクラスメイト(名前は知らない)に笑われてしまった。

別に怒ってないのだが極端にそんなビクビクしながら謝られると俺としても傷つく。


「……まーいい、 さっさと席につけー」


先生もそこまで咎める気はないのか、 クラスの微妙な視線から解放してくれた。

流石この学校1生ぬるい先生だ。

怒るけど、 そこまで厳しくなく、 でも手は抜かない。 この先生が好かれるところでもある。


窓側の一番後ろの席……の列の一番前。

そこが俺の席だ。

五十音順にならんだら廊下側に近い席になるのだが、 この学校では生徒同士の関係性もみてクラス編成と席決めを行っているのでこういう結果になっている。


ちなみに、 クラスの人数は43人。

そして教室は48人入る。

列は一列6人編成。


 人間関係が薄いというか、 人がよってこない俺の後ろの席は……悲しいことに5つほど空席だった。

学校の方も精一杯頑張ったのだろう、 ただのボッチならそれなりに対応策があるだろうが、 人が寄り付かない俺に対応策もくそもない。

俺から寄ったところで避けられるのが落ちだ。



 まぁ、 悲しいことに慣れてしまったからなんとも思ってないがな。



 ……それより、 うん。 青い髪の毛はクラス内に見えないな。 でももしかしたらこのあとの始業式で紹介されるとかそういうパターンもあるかもしれんから気は抜けない。


 ……そう言えば、 なんでこんなに俺はアイツを警戒してるんだ? 今日初めて会ったばかりだし、 別に悪いやつではなかったと思うんだが……。 うーん。


「……ま、 いいか」


小声で呟く。


考えても答えが出そうになかったので、 寝ることにしよう。





◇◇◇◇◇◇



 思えば、 俺に人が寄り付かないようになったのはいつからだろうか。


……多分、 “あの日”からだ。


あの頃、 正確には中学2年生の夏。

俺には仲のいい友達がいた。

普通に遊んで、 喧嘩して、 仲直りして……。


そんな友達がいた。




今でも覚えている。



『あ゛あ゛ぁああがぁあアあああ゛っ!!』


 誰かの、耳を裂くような叫び声。


 グチュリ、 という肉を潰す感触。


 太い木の枝が折れるような音。


 赤い液体が滴り落ち、 四肢の関節がぐしゃぐしゃに曲がり曲がった男。


『大丈夫? ………か、 ………れん?』


友達だった少女の……“異物”を見るかのような目。



『来ないで!!』



そして、 その目から零れる涙。




◇◇◇◇◇◇





「ッ………………」


 目を覚ますと、 そこは俺以外誰もいない教室だった。 窓から少し暖かい風が吹き、 カーテンを揺らしている。


「うわ……、 はずかし」


 少年漫画の主人公みたいな寝起きを経験し、 悶絶する俺。 こんなベタな夢見るなんて思わなかったぞ……。 っていうか、 なんか映画のCMみたいな上手い感じのカットがされてる夢だったな。 誰の編集だよ、 余計なことしやがって! ……自分の脳にキレてどうするんだよ、 おい。

 しかも、 高校でこんななのは“アレ”のせいじゃねぇし……。 どっちかっつーと、 俺の学習力の無さが招いた事というかなんというか。

自業自得……?


「あー……、 うん」


頭の中を少し整理し、 なんとなく納得させる。

なんにせよ、 今一番思うことは、



「誰か、 起こしてってくれよ……」


黒板の真上にある時計の針は、 始業式が始まる時間をすでに過ぎていた。


 今さら向かうのも面倒だし、 ていうかずかずかと入っていって衆人環視に晒されるなんて冗談じゃない。 20分も待ってれば来るよな、 多分。

 ということで、 しばらく待っているとみんなが戻ってきた。 始業式が終わったらしい。


 一番最初に戻ってきた男子は、 俺を見るなり視線を反らして、 逃げるように自分の席に座る。

後からきたやつらもそんな感じだった。

……俺の隣に座ることになるやつは逃げるどころか近寄ってきているんだがな。

まぁ、 死んでも俺と目を合わせてくれそうにないけど。


そんなに目付き悪いかな、 俺。

……いや、 そういうわけじゃないか、 もっと根本的な事だよな。


「お前らー、 席につけー……。 あぁ、 うん。 ついてるよな」


少し遅れて悟先生も教室に入ってきた。

そして来るなり現状を把握する。

流石“さとる”先生、 さとることに長けておられる、 …………笑えよベ○ータ。


さて、 後は適当に先生が業務連絡とかやって終わりだ、 はやくかえって寝よう。


「あー、 とりあえず、 重要な連絡、 というか紹介をするぞー」




ここで、 俺は何か“忘れていた”ことを思い出す。


「入っていいぞー、 二人ともー」


先生が開けっ放しだった扉から、 誰かが入ってくる。


それは青い髪の毛で。

ショートボブとかいう外国人のような名前の髪型で。

小学生低学年くらいにしか見えない少女で……。


そして、


「それじゃ自己紹介を、

「わたしは【リル=リヴァイアサン】だ! 海底よりこの学校を“せーふく”しにきたからよろしくたのむぞ!」



そいつは先生の言葉を遮り勝手に奇抜で奇っ怪な自己紹介をする。

今ならわかる、 俺がこいつをなぜ警戒していたのか。


多分、 野生の勘とやらが『絶対ヤバイやつだから逃げろ』とサイレンとを鳴らしていてくれたに違いない。


そう感じる出会いだった。

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