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第2話〈鳳月海人、 女医と絡む〉

 保健室の扉を開くと、 白衣を着た女性が、 白い椅子に座りながらコーヒを飲んでいた。 ……ストローで。


「あら、 久しぶりね」


 俺に気づいた白衣の女性がコーヒを飲むのをやめ、 口からストローを離して挨拶をしてくる。


 彼女は【磯崎いそざき 奈央なお】、 保険医の先生だ。

艶やかなロングの黒髪に、 二つほど大きな肉まんがついているスレンダーな肉体は主に男子生徒からは欲情するかのような目、 女子からは恨み連ねたような目で見られるそうだ。


「どうもです、 相変わらずおかしな飲み方してるすね」


 ぶっきらぼうに俺も挨拶を返す。

すると、 先生は再びコーヒをストローで吸いながら、


「これが飲みやすいのよ、 健康にもいいし、 それより最近見ないからどうしてのかと思ってたわ」


と言ってきた。

そりゃ春休みだったんだから当然だと思うんだが。

俺は部活やってないし、 休みに学校くるなんて滅多にない。


「いつも来てるみたいにいわないでくださいよ」

「あら、 じゃあ……“遅刻カード”を取りに9回、 それ以外で32回。 なんの数かわかるかしら?」


 俺のクレームに対して、 謎の回数を告げる磯崎先生。 少し考えて、 そして思い出す。


「俺が去年クラスメイトと話した数ですかね」

「こんな悲しい回数なの!?」


 驚愕する先生。 とても憐れんだ目で俺を見ているのが余計悲しくなってくるからやめてほしい。

正確には29回だが、 これは言わないでおいたほうがよさそうだな。


「 そうじゃなくて、 保健室に来た回数! 全く、 あなたがこの学校で一番ここを使ってるのよ?」


 怒っているのか、 呆れているのかわからないが少々興奮気味の先生。 血圧が心配になるが、そんなことを言った日には俺の血流が止まるか、 噴水のように飛び出すことになりそうだからやめておこう。

にしても、 32回、 正確には41回もここに来ているのか。

確かに多いが、 でもそれについては言い訳をさせてほしい。


「別に使いたくて使ってるわけじゃないですって、 ただ、 リーゼントに改造制服着た、 ちょっと反抗期が激しい奴らと遊んでて、 服についた赤い絵の具を落とすのに便利な洗濯機がここにあるからです」

「ただの返り血でしょうが! しかもコインランドリー代わりに使わないでくれないかしら?」

「なにいってるんですか、 コインランドリーなんかの代わりなんて思ってないです」

「じゃあなんて思ってるのかしら?」

「ノーコインランドリー」


 タダで使えるなんて、 ここはコインランドリーなんかとは比べ物にはならくらい便利な場所だ。


「……次から一万円くらい取ろうかしら」


しまった、 先生に余計な知恵が働いてしまっている。 このままだと、 諭吉ランドリーになりかねん。 ……というかぼったくりにも程がある。


「はぁ……、 まぁいいわ」


先生はそう嘆息し、 保健室の奥に向かったかと思うとすぐに戻ってきた。


「……はい、これ」


そして、 緑色の紙を手渡してきた。


「なんですかこれ」

「“遅刻カード”よ!! あなた去年9枚もらってリーチかかってたの忘れたのかしら?」

「冗談です」


 そう、 この禍々しい緑色の紙こそが“遅刻カード”だ。

そこには赤い文字で『10枚ためると素敵なプレゼント』と、 普通に文字にするとなんだかお皿でももらえそうな感じがするが、 明らかにフォントがダイイングメッセージにしか見えないのが恐怖心を煽る。

ちなみに、 取りに来なかった場合、 後日担任から二倍となって渡されることになる。


10枚集めたらどうなるのか、 ちょっと興味も湧いてくるがわざわざそのために遅刻しなくてもいいだろう。


「ありがとうございます」

「こんなもの渡して、 そんなこと言われても嬉しくないわよ……」


確かにそうだな。

プラスかマイナスかで言ったらどう考えてもマイナスになるものを渡してるのに『ありがとう』と言われても困るか……。

じゃあ……、


「そのうちお礼しにきます」

「お礼参りしにくる気!? 来んな!」

「そんな遠慮しないで、 受け取ってくださいよ」

「受けとるわけないでしょうが!」


なぜかシッシッ、 と俺を保健室から追い出そうとする先生。 おかしい、 なんか悪いことでも言ったっけ?


まぁ、 長居する意味もないしさっさと教室に行くか。


「あ、 そういえば先生、 俺が来るまえに青い髪の毛の小さい子ども見ませんでした?」


保健室から出るまえに、少し気になったので何気なくきいてみた。


「なにそれ、 妖怪か何か? ウォッチでもするの?」

「先生、ちょっとギリギリです」


 なんとなく危ない気がしたから止めておく。 これ以上やったら何か終わりそうな予感を感じるからな。


 そんな俺の心配など大して気にしてない様子の先生は、『うーん……』と 考える素振りをみせた。


「そうねぇ………………。 来てないわ」

「……なんでそんな溜めたんですか、 数分前のこと聞いてるんすけど」

「バラエティにはこういう演出が必要なのよ」

「保険医の先生ですよね?」

「本気でやらなきゃテレビじゃない!」


いつからフジ○レビの刺客になったんだこの人。


でも本当に来ていないようだな、

『じゃああいつそのまま教室行ったのか?』と、 適当に考えながら扉に手をかける。



「あ、 でも、 外国から転校生がやってきたそうよ」

「へぇ、 外国から…………え?」



ただ、 最後の最後に先生がくれた情報は、 何だろうか、 嫌な予感しかしなかった。




鳳月くんは目上の人には結構礼儀正しいです(一応)

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