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第1話〈鳳月海人、 青髪幼女と出会う〉

 冬の寒さが少し残りつつも、 桜の花が綺麗に咲き誇る春先。 進学、 進級、 新社会人など、 なにかと新しい生活が始まるそんな季節の中、

今日から高校生活2年目へと突入する俺は、ボーッとしながら歩みを進めていた。


 高台にある学校なため、 そこそこ距離のある坂を歩かなければならず、 『なんでこんなところに建てたんだよ』と、 見たことも、 これから見ることもないであろう責任者を恨みながら登りきる。


 ようやく校門の前まで歩き、 その足を思わず止めてしまった。 さっさと校内に入りたいが、 不思議な光景が見えてきたのだ。


「なんなんだこれはっ!! わたしの道を塞ごうとは無礼な門だ、 消し飛ばすぞ!!」


 学校の門に向かって、なにやら物騒なことを言う小学生低学年くらいの少女が、 そこにいた。

肩に掛かるか掛からないくらいの長さの青い髪の毛が特徴的だ。 確か……ショートボブとかいう、 外人みたいな名前の髪型だったか、 短いながらもそれを揺らしながら地団駄を踏んでいるのが見える。



 ……迷子かなにかか?

っていうか今時の小学校って髪の毛染めてもいいのかよ……。


 いや、 それよりも確か、 ここらへんの小学校って、 今日は始業式のはずなんだが……。


「おい、 そこの小学生、 なにしてるんだ」

「誰が小学生か!!」


 とりあえず、 話しかけてみることにした。

このご時世、 小学生に話しかけるだけで捕まってしまいそうだが、 周りに誰もいない以上放っておくわけにもいくまい。


 しかしなぜかご立腹の様子の小学生。 今にも俺に牙を向けて来そうな勢いで、指を差し、 怒っていた。

人に指を向けるんじゃない、 とか、 どうみてもお前だろ、 と言いかけたが、 よくよく考えてみたら小学生がこんなところにいるわけがなかった。

……と、 いうことは。


「 中学生だったか、 悪かったな」

「ちっがーう!! 中学生じゃなくて……えーっと、 その、 こっ、こ……こ、 こ、 こ……」


中学生と言われて憤慨する少女。

なにか伝えようとしてるようだが、 喉から出てこないのか言葉が詰まってしまっていた。

うーん……。


「鶏の物真似か?」

「なにも考えとらん畜生なんぞと一緒にするでない!! 」


 鶏に失礼だろ。 きっと飯のこととか、 将来なんの料理になるのかとか考えてると思うぞ。

……っていうかなんだかさっきから偉そうだなこいつ。 いや、 俺が言えることじゃないけど。


中学生も違うとなると、 まさかとは思うが


「高校生……?」


「そう! 高校生だ! 高校生!!」


 思い出したかのように“高校生”と連呼する少女。 ……マジで高校生なのか。

その可能性ももちろん考えてたけど、 兄か姉に弁当でも届けに来た、小中学生の妹っていうほうが全然しっくりくる。

それくらい外見年齢が実年齢に伴ってない。

多分、 今日来ているということは2年生か3年生だろう。 新入生は昨日入学式を終え、 今日は休みだし。


しかも俺と丁度登校時間が重なるということは……。


「なんだ、 アンタも遅刻したのか」


 3年生かもしれないこいつに『アンタ』はいかがなものかとも思ったが、 今さら変えるのも面倒だ、 開き直ってしまおう。

というか、 先輩どころか後輩にも見えない。


「遅刻……? なっ、 まさか! 定刻時に遅れてしまったというのか!?」


なんでわざわざ丁寧に言い直したんだよ。


「……ん? 待てよ、 わたしが遅刻したということは、」


ワナワナと震えるが、 ピタリ、 と体を止めてそう呟いた。

どうやらこのミニマム生物が違和感に気づいてしまったみたいだ。


現在時刻午前8時35分。


俺、 【鳳月ほうづき 海人かいと】。

遅刻確定である。



「貴様も遅刻してるではないかぁっ!!」


 なぜか嬉しそうに俺を指差すミニマム。

まぁ、 事実だから否定の仕様がないし、 する必要もない。


「いいんだよ、 俺は。 それよりも門の前で何していやがる」


 さらりと遅刻について流しながら、

一番最初から気になっていたことを、 ようやく言葉に出せた。


「それがな、 この門、 引いても押してもびくともせんのだ! 誰かがわたしの邪魔立てをしているに違いないぞ!!」


 盛大な勘違いと検討違いを吐露するミニマム。

……いつのまにか俺の中でこいつの名前が“ミニマム”になりつつあるが、 まぁいいか。


「あのな、 ロックがかかってるんだよ」

「ろ、 ろっく……? あぁ、 54だなっ!」

「いや、 九九じゃないからな?」


嘆息しつつ、 門の前に座り込み、 地面にはめられている円柱状の棒を引き抜く。

そして、


「ほれ、 これで開いたぞ」


少し錆びた鉄の音を響かせながら、 そこそこ大きな門が開いた。


「お……おぉ!! なるほど、 “ろっく”とやらは封印のことだったのか!」


間違ってるが、 遠くはないな。


「さて、 遅刻カードでも取りに行くかね」


 “遅刻カード”というのは遅刻者に与えられるものであり、 年間で10枚ほど集めるともれなく素敵な罰が貰えるカードのことだ。

……今年はまだ一枚目だから大丈夫、 今日はギリギリすぎただけだ。


「そうだ、 貴様。 名はなんという?」


俺が学校の敷地内に足を踏み入れると、 先に入っていたミニマムがそう尋ねてきた。


「は? なんだよいきなり」

「いいから申せ」


突然名前を聞いてきたうえに命令までしてきやがったぞこいつ……。

なんか全体的に変わったやつだな。


「……“鳳月海人”」


別に隠す必要もないので普通に告げた。

漢字までは教えなくてもいいだろう。

っていうか、 こいつ理解しなさそうだし。


「そうか、 わたしは“リル=リヴァイアサン”、 覚えておくがよいぞ!! それではまたの」


聞いてもないのに、 名前を俺に告げて走り去って行くリヴァイア……さん?

外国人か? ……そういや髪の毛青だし、 顔つきもなんとなく外人っぽかったな。

だから所々不自然な言動があったのか。


「……にしても、 普通自分に『さん』ってつけるかね」


その独り言に、 『外国人だから仕方ないのか?』と曖昧な感じで自分を納得させつつ、 遅刻カードの置いてある保健室に向かった。


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