第一話
この本を書くきっかけになった、我がクソッタレな弟に捧ぐ
雨が激しく降る中、ロットンは一人港を歩いていた。彼は船乗りらしい筋肉質の体つきをしていて、顔には無精ひげを生やしている。服はよれよれの木綿の服に、薄汚れたタオルを頭に巻いていた。このところの好景気で、もっとも儲かっているのは商人だけだが、ロットン達水夫は奴隷のように働かされているのだ。いや、もう奴隷も同然だった。
ロットンは船を下りた後、なけなしの金で安酒を引っ掛けて、今日とってある安宿に向かっているところだった。家なんてものは持っていない。大地に足を着けていられる時間が一週間もない船乗りには、家なんてものは不要なものだった。そんなことを考えながら地面を見ていた顔を上げると、ふと目の前に小さな人影がいることに気づいた。今は真夜中、どう考えても子供が出歩く時間ではない。となると親がいない浮浪児しかいない。施しを求められても、そんな余裕はない。無視しようとしてふと、雇い主の言葉を思い出した。
「次の航海で人手を少し増やしたいが、ハンモックを増やすつもりはない。タオルケットを引いておけば大丈夫なような、小柄の荷物運びを探して来い」
そんなことを言っていた気がする。目の前の子供は、荷物運びにはちょっと不足かもしれないが、場所は大人の半分でいい。雇い主のところに連れて行って、ダメだったら放りだせばいい。
「おい、ガキ」
話しかけると、子供は胡散臭そうにロットンのほうを向いた。
「親はどうした?」
ロットンの問いかけに、子供は首を振った。
「仕事がほしいか?」
今度は少し間が空いて、首を立てに振った。
「よし、ついてこい」
ロットンはきびすを返し、雇い主の家に向かって歩き始めた。時折後ろを振り返ると、子供は時折ロットンの顔色を伺いながら少し距離を開けながらついてきていた。ふと、名前を聞いていないことに気づき、ロットンは口を開いた。
「おいガキ、名前はなんていうんだ?」
子供は少し考えたあと、口を開いた。
「ロック」
ロックは困惑すると同時に、投げやりな気持ちで目の前の大人に付いて行っていた。コンビニからの帰り道を歩いていたと思ったら、気がついたらこんな体になって訳の分からない場所に立っていたのだ。来ている服もボロボロだし、大学生だった自分の体も小学生並になっていた。ふと、腕を見ると鶏ガラのように細い腕があり、服をまくり上げると肋骨が浮き出ている。そんな状態になってから、もう一週間は立っていた。この一週間、水以外は口にしていない。どうせこのままでも死ぬだ、そんな気持ちが強かった。
そこまで考えたところで、ロックは目の前の人の名前を聞いていないことに気づいた。
「おじさん」
「なんだ?」
呼びかけると、振り向かずに返事が帰ってきた。
「おじさんの名前はなに?」
そう、問いかけるとしばらく考えたあと、こう、答えた。
「お前が雇われたら、教えてやるよ」
その後しばらく二人は無言で歩いているたが、そのうちに立派な屋敷が立ち並ぶ通りに来ていた。そのうち一つの前に男は立ち止まった。そして門に向かって小声で話始めた。
「ダルソンの旦那に伝えてくれないか?ロットンですが浮浪児のガキを一匹拾ったが、この間の話にどうだって?」
ロックはその姿を不思議に思ったが、特に声は出さなかった。怪しい人扱いして、職がなくなったら大変だからだ。
しばらく待っていると、突然門の一部が筒のような形に変わった。驚いているロックのことを無視して、男はその筒に向かって話した。
「どうも、旦那。夜分遅くにすみません」
「全くだ。で、そのガキとやらは使えるのか?」
中から少し低い、中年の声が聞こえてきた。
「荷物持ちにはちょっと不足でしょうが、寝る場所に関して言えば追加でハンモックはいらんでしょうな」
「ハンモックを追加しなくていいならそいつでいい。ダメだったら海に捨てれば良い話だ。ロットン、後日金は払うから、お前がしばらく面倒を見ておけ」
「分かりました」
ロットンが返事をしたところで、門の形が元に戻った。
「聞いていただろ?ついてこい、今日の宿に行くぞ」
そういって男は歩き始めた。
ロックはとりあえず職を見つけることができたことに安堵し、ため息を付きながら男についていった。
『海賊の経済学 ―見えざるフックの秘密』 ピーター・T・リーソン
を参考に書いています。
ほかにも『イギリス海賊史』やらほかの海賊に関する本を参考にしています。




