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もしかして:失敗した

 ユスティナが学んだ魔法は、大きく分けて2つの「文節」に別れる。

 1つは「何を」。もう1つは「どうする」。

 この組み合わせが、魔法の基礎だ。


 例えば:

 水を作り出したい場合→「水を」「作る」

 身体を強化したい場合→「肉体を」「変化させる」

 他人の心を読みたい場合→「精神を」「知る」


 しかるに、この「何を」と「どうする」は、いくつかのジャンルで分類されている。「何を」であれば、定番の四大元素は当然として、植物や動物といったものを含めて、全部で10分野がある。「どうする」は5つ。

 この合計50通りで、すべての魔法がカバーされる。


 システマティックで、なかなか綺麗だ。


 それはともかく、魔法を使うには原則として呪文など不要で、この「何を」「どうする」を術者の脳内で組み合わせて回路を作り、そこに魔力の流れを導き、変換して、開放する。

 呪文など飾りですよ、偉い人にはわからないんですよ。

 ただ、毎回そうやってアドリブで魔力回路を組んでいると面倒なので、一部の「よく使う回路」は呪文という形で定式化されていった。

 保健室で暴走させかけたアレも、その一例だ。


 ……あんな危なっかしいものが「よく使う」範疇なのか。どんな世界だ。

 いや、ちゃんと思い出せば、どんな世界か思い出せるんだけど、それは後回し。


 さてさて、この「何を」と「どうする」のジャンルだが、やはり人によって得意不得意が出る。

 ある人は「水を」扱うのが上手いし、ある人は「変化させる」のが上手い、といった具合だ。

 一種のスキル制ですね、これ。


 でもとりあえず「水を」「作る」とかは無茶苦茶便利かつ簡単なので、普通はこのあたりから学習を始める。さもなくば「水を」「変化させる」で汚水を飲料水に変えるとか。

 ゼロから水を作るより、目の前にすでにある水を変化させたほうが、より少ない労力で大量の水を確保できる。どちらから学び始めるかは、教師次第のようだ。


 しかるにユスティナは――私は、とてつもなく要領の悪い人間だった。

 理論面の理解における才能を認められて魔術学院に特別枠で入ったものの、実技の習得がとにかく遅い。


 う゛ぁー、まるで現世の私だ……って、そりゃそうか。


 そこでユスティナは考えた。

 実技を満遍なく学ぼうとしていては、先輩たちに絶対に追いつけない。

 それどころか、後輩にも追い抜かれる。

 ならば、50種類の組み合わせのうち、1つに絞ったらどうか。

 いわゆる「傾斜生産」の発想だ。一点豪華主義とも言う。


 かくしてユスティナは、「炎を」「作る」の組み合わせ、それだけに人生を賭けた。

 非常に攻撃的な魔術が並ぶこの組み合わせは、戦争の絶えないかの世界において、絶対に需要がある組み合わせで、かつ、術者の消耗が最も早いから。


「水を」「変化させる」をいくら極めても、浄水施設を管理している術師の座を奪うには、その術師が寿命で死ぬのを待つか、実力で追い抜くしかない。後者が一般的な手段だけど、覚えの遅いユスティナには、到底無理だ。

 でも、戦死という「よくある顛末」によって簡単に空席ができる業務であれば、自分にもワンチャンある。そう踏んだのだ。



          ■



 ユスティナは血を吐くような努力を積み重ね、「炎を」と「作る」の2領域のレベルだけを、ぐんぐん伸ばしていった。

 特に「炎を」の領域には隠れた才能もあったようで、数年のうちに学院のエースとなった。

 魔術である程度まで成果を出したところで、剣の訓練も開始。またしても一点豪華主義な努力を積み重ね、強いとは言わないまでも、そこらの剣士になら負けない程度の技を身につけた。

 軍人になるなら、接近戦がからっきしダメとか、基礎体力が大幅に欠けているというのは、マイナス要素だからだ。


 そのかいあってか、学院卒業後は北の大国ノラド王国から招聘を受け、エヴェリナ女王を守る魔術親衛隊に任官。

 彼女は、周囲の期待に、応えてみせたのだ。偉い。


 その後もユスティナは圧倒的な破壊力を誇る火炎魔術を駆使して順調に武勲を重ね、ついには魔術親衛隊副隊長にまで登りつめた。

 苛烈な戦い方と、異常なまでの火炎魔術の威力ゆえに、ついた渾名は「世界の破壊者」。どう聞いても悪役、ヘタすればラスボスだ。


 渾名の由来は簡単だ。名は体を表す、それだけのこと。

 ある国境紛争において、彼女は100人ほどの敵部隊を、部隊が布陣した丘ごと蒸発させた。

 深々とえぐられた爆心地には、近くの川から水が流れ込んで、湖になった。

 そして和平交渉において、この新しくできた湖が、正式な国境線として認定された。

 「世界の破壊者」と呼ばれるに、十分すぎる逸話だ。

 実際に壊してるんだから、文句も言えない。


 おーい。

 私、そんな人だったんか。


 しかし、それでもなお、ユスティナは劣等感に苛まれていた。

 地図を書き換えるほどの魔術を駆使できる彼女だけど、少しでも魔術を学んだ者ならば嗜みとして修得する「水を」「作る」すら、未だにできなかったのだから。

 その劣等感は、彼女の戦い方を苛烈にする原因でもあった。

 国境線となる湖を作ったのも、その一例でしかない。


「水は作れなくても、湖は作れる」


 目の前で新しく生まれていく湖を前に、呆然と立ちすくむノラド王国の将軍は、彼女がそう呟くのを聞いて背筋が凍る思いだった、と伝えられている。


 つーか、言った。ああ。言ったとも。逆順で思い出したよ。

 また連中が攻めてくるなら、次は海を作ってもいいな、とか思ってた。


 なるほどなー、ユスティナが副隊長止まりなのもわかる。わかるわー。

 ユスティナが隊長、つまり自分で作戦を立案できる立場だったら、戦争が起こる度に、世界の陸地面積が減ってしまう。

 こんな危険人物、雇い主の手で暗殺されなかったほうが不思議――あ、そうでもないか。まかり間違って暗殺に失敗したら、ユスティナを不倶戴天の敵にしちゃうわけだから、リスク高すぎ。物理的に、国がなくなる。


 まったく。

 ユスティナって、ほんと、残念な人だなあ。

 それだけのことができるんだから、もっと胸を張っていいのに。

 私なら、というか私なんだけど、そんなことができるユスティナが、うらやましくて仕方ないよ。


 いや、つまり、私にもできるんだけどさ。


 ――そう。

 そこだ。

 思わず私が呻いたのも、それが原因だ。


 ユスティナは、「炎を」「作る」魔法しか、使えない。

 なので、私が魔法を使うとしても、「炎を」「作る」ことしかできない。

 しかも、その破壊力は、概ね戦略兵器級。


 ユスティナは途中から「ちまちました小さい魔法」を切り捨てることで、「炎を」領域の基礎火力を爆発的に向上させている。

 だからアドリブで「ふぁいあーぼーる!」みたいなの作っても、気化爆弾を落っことしたくらいの威力が出る。


 ……ねえ。

 これ……現代日本の、どこで使うチャンスがあるの……?


 というか、仮にラノベみたいに紛争地帯で戦う傭兵学生的な何かになったとして、こんなのぶちかましたら一発で国際問題ですよ。核兵器の流出が疑われる、一大事ですよ。

 つまり、使う機会があるとしたら、ヘアスタイルはモヒカン刈り、お洒落の基本はトゲ付き肩パッド、な時代を待たないといけないってことだ。さもなくば学園の裏山にちょっとした核攻撃程度ではへこたれない謎のダンジョンが開くとか、サラエボで核爆弾テロが起きたうえアメリカ政府が崩壊するとか、そういう特殊なイベントが必須。


 ああああ。私がユスティナなら、いやユスティナだからこそ、今こそ叫ばせていただこう!


 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した


 きっと私は、転生する時間線を間違ったんだ……


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