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もしかして:ご配慮

 女子寮の前で会長と別れ、部屋の前まで永末さんに送ってもらった私は、カバンと桜あんぱんを手に、ひとりぼっちになった。


 会長に買ってもらった桜あんぱんは、餡の酸味と甘みが絶妙なだけでなく、中に入った求肥がもっちりとして美味しい、購買部のヒット商品だ。

 が、これは明日の朝食用に、とっておくことにする。


 「美味しいものを、ちょっとだけ」というのが、食事に関する私のモットーかつ物理的限界だ。

 なのでいま桜あんぱんを食べてしまうと、たぶん夕食が食べられなくなって、寮食のおばちゃんに心配をかけることになる。

 寮食のおばちゃんには、私が倒れた件も伝わってるだろうしね。


 ……はふ。ちょっとため息。


 私はカバンを机の横に置いて、勉強机に座ろうとしてから、思い直して、ベッドに腰掛ける。


 本当は、さっさと宿題を片付けて、今日受けられなかった部分も含めた授業範囲の復習と、明日の予習に手を付けるべきだ。


 私は特待生として宮森学園に入ったが、自分が「ギリギリで滑り込んだ」という実感がある。

 そのことは、星野先輩を見れば一目瞭然だ。

 星野先輩も特待生だが、宮森学園の特待生というのは、基本的にああいう、どこか突出した才能を持っている人ばかり。

 星野先輩みたいに、全方向に突出してる(胸囲以外)人は、さすがに先輩一人だけだけど。


 それにひきかえ、自分は、「これ」という才能を持っていない。

 学業だけはなんとか綱渡って成果を維持しているが、「これなら絶対に負けない」という特技もない。

 そんなに要領も良くないし、頭の回転が早いとも言いかねる。


 でも、私は特待生だ。しかも後見人は、学長。

 私が無様な結果を出せば、「高梨は学長に贔屓されている」という風評を否定できなくなる。

 それは、とても、とても、嫌だ。

 自分も耐えられないし、その手の贔屓など絶対にしない宮森おばさんにまで悪評が及ぶのには、絶対に我慢できない。


 だから、私はとにかく努力することで、特待生の座を維持している。

 他の人の10倍努力して、やっと人並みという有り様だけど、それで食らいついていけるなら、努力しない理由がない。


 だけど、今日だけは、臨時閉店したい。

「ユスティナ」の件をなんとかしないと、落ち着いて何かをするとか、とてもではないけれど無理だ。


 ……あ。


 あー。


 ああああ、もしかして星野先輩は、私が妙に焦って、混乱してるのを見抜いたのか。星野先輩のことだ、私が作った会議資料を見れば、「荒れてる」のに気づいても不思議じゃない。

 さすがに、なんで私の仕事が荒れてるかまでは、分からなかっただろうけど。

 星野先輩にしてみれば、「荒れているのが問題」であって、「その理由など問題ではない」のだ。


 だから、そんなことをすれば私が寮に強制送還されると知りながら、御木本会長の前で私の体調を問いただした。


 先輩としては、「執行部員として仕事をしたいなら、頭を冷やして出直して来なさい」と言いたかったところだろう。

 でもそれを直接私に言うと、絶対に会長が茶化して、有耶無耶になる。だから逆に会長を使って、私に頭を冷やす時間を与えた、わけだ……


 ぐあー。

 かなわないなあ。



          ■



 さて。


 あまりの格の違いにもう一度ため息をつきながら、私は上体をベッドに倒す。

 天井に張ったポスターの中の○峰君は、いつもながらカッコイイ。


 そうじゃない。今は注目するのは、そっちじゃない。


 星野先輩にここまで配慮してもらったんだから、無駄にはできない。

 それにこれは、「あなたなら、一晩あれば、自分で自分の問題を解決できるでしょう?」という、星野先輩の信頼の証でもある。その信頼を捨ててしまうだなんて、とんでもない!


 よし。ならばまずは、困難の分割といこう。

「ユスティナ」が自分だというのは、謎としてあまりにも大きすぎて、そのままでは歯がたたない。

 では、私が「ユスティナ」であることで発生する、具体的な問題は何か?


 うーん。


 私は反動をつけてベッドから起き上がると、机に座って、メモ帳を広げた。

 こういうときは、ただ考えていても埒があかない。手を動かすのが一番だ。


 30分ほど、問題点や可能性を箇条書きしてみて、杞憂に過ぎるものは順位を下げ、明らかにヤバイものの順位を上げるという作業を繰り返す。

 結果、最重要問題として残ったのは、以下の3点。


(1)魔法の暴発:もし保健室で「詠唱破棄」の方法を思い出せなかったら、大惨事に発展していた。魔法の構造を把握、ないし「思い出さ」なくては、想定外の魔法を暴発させて、良くて社会的に、最悪生物学的に死ぬ。


(2)魔法能力の露見:たとえ安全に魔法を運用できたとしても、それを衆人環視の前でやってしまうと、マズい結果を招きかねない。「事故」や「偶然」を装うというのは、ただの露見フラグだ。


(3)NGワードを最悪のタイミングで口にする:例えば他校の生徒会役員と初めて会うときに「はじめまして、ユスティナです」とか口走る。ヤバイ。これならまだ誤魔化せるかもしれないけれど、どんなNGワードが出てくる可能性があるか分からないというのが、非常によろしくない。


 とりわけ早急に解決すべきは、魔法の暴発だ。(2)も(3)も、魔法の暴発と組み合わさったとき、最悪の結果を呼びこむ。


 よし、目標決定。


 深呼吸して、「ユスティナ」の記憶を呼び覚ましていく。

 魔法は、どういう原理で、どう使うものなのか?

 その中でも、ユスティナはどんな魔法が使えるのか?

 それらに暴発の危険はないのか?


 ……


 …………


 ………………


 ……よし、思い、出した。


 思い出した……が……


 ユスティナ……あなた、もとい私って人は……


 私は、そのあまりにもあまりにもな記憶と現状に、呻かざるを得なかった。

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