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夢7

 ガラン、ガラン。


 教会の鐘が鳴る。




 ガラン、ガラン。


 棺を乗せた馬車が、ゆっくりと街路を進む。




 私にできることは、抜け殻のような顔をした彼の手を握るだけだ。




 ガラン。ガラン。




 たくさんの市民が、通り過ぎて行く馬車を見て、涙を浮かべている。

 彼女は、こんなにも多くの人々に、慕われていたのだ。




 ガラン、ガラン。




 鐘の音が、市民のすすり泣きの上を、過ぎ去っていく。




 私にできることは、抜け殻のような顔をした彼の手を、握るだけ。




          ■




 夜になって、ほとんど暴力的なくらいに強く、彼に求められた。

 いつものような幸福感も、充足感もなく、ただ苦痛だけの行為。

 遠い日の悪夢と現在進行形の痛みに挟まれ、思わず涙が滲んだ。




 すべてが終わって、彼は泣いていた。


 何度も何度も、「すまない」と、壊れたオルゴールのように繰り返していた。




 私にできることは、そんな彼の手を、握るだけ。




「俺は――自分が、もう、わからない……

 わからないんだ――

 誰一人、失いたくなんてない。

 誰一人、傷ついてほしくない」


 彼の手は、細かく震えていた。


「だのに俺は――

 俺は、あいつが死んだとき……

 最初に思ったのは――」




 私はその言葉を、聞かなかったことにする。

 聞かなかったことにしたけれど、その言葉は、私の心に、雪のように染み込んだ。




「ああ、なにもこんなときに死ななくたっていいだろうに」




          ■




 目が覚めると、彼はいなかった。


 広い家には、私だけが一人、残された。

 なぜだか、探さなくても、彼はもういないことが、分かっていた。


 そうだ。これは、夢だったんだ。


 冒険も。

 未来も。

 家族も。


 愛も。


 なにもかも、夢だったんだ。




 私は、旅支度にとりかかる。


 学院に、戻ろう。

 あそこにどんな孤独が待っていようとも、この家で一人で抱きしめる孤独よりは、ずっと、ずっと、綺麗な孤独だから。




 夢は、終わりだ。




 私の現実と、向かい合わなくては。

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