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もしかして:打ち上げ

13:30 誤字脱字や表現重複修正レベル以上の修正を後半部分に行っています。すみません。

 エマちゃんカド番脱出おめでとうパーティは、寮食が閉まる夜9時でお開きになったけれど、テンションMAXどころかゲージを振りきっちゃった勉強会メンバー(寮生)は、「ならば部屋で続きだ」とばかりに、なぜか私の部屋になだれ込んできた。


 おーい。


 いや、いいけど。


 いまさら私の公然の秘密的なオタ趣味のこと、知らない人もいないし。


 ……で、それはいいんですが、梓先輩までなんでいるんですかね?


 いや、いいんですが。


 コンビニで買ってきたお菓子を食べて、ジュースを飲んで、喋って喋って(一部は黙々と私のコレクションを読んで)、それでも11時ともなると、だんだん自室に引き上げる人も増えてきた。


 まだ残っているのは、当然のエマちゃんと梓先輩。そしてなぜか、寮生ではないのに鴫原さん、そして永末さん。君ら何でここにいるのよ。あと梓先輩。あなた朝練あるでしょうに。清里さんは「朝練がありますから」って帰っちゃったよ?


 いや、いいんですけど。


 話の中心になっているのは、もっぱらエマちゃん。日本のここがすごい、あそこが素敵、ここに憧れた、でもこれは期待と違った、スシは旨いけどやっぱりタコは無理、みたいなトークは、聞いていて飽きない。

 あとは、うん、一心不乱に黒○ス愛を語るトークとかも、少なくとも私と鴫原さんは、飽きない。


 飽きないのだけれど、それでも飽きるのが梓先輩のいいところ。


 いや良くない。そこは良くないですぞ。


 案の定、文化系オタトークに飽きてきた梓先輩は、話題を自分の土俵に持ってきた。

「ねえねえ、そろそろいい時間だしさ。

 ここらでイッパツ、女子らしい話しようよ!」


 女子らしい女子は不穏なジェスチャーしながらイッパツとか言いません。


「まずは手始めに、初恋の相手の発表会だな!

 のろけは禁止、NGワードは『いません』!

 はい、じゃあ、まずは永末さんから行ってみよう!」


 うおー。なんじゃそれー。

 しかもこのネタ振られたら話したくて仕方ない人から真っ先に振るか! なんという百戦錬磨!


 案の定、永末さんは堂々と「御木本会長が好きです! 初恋です! 現在進行形です!」と、立ち上がってまで宣言。あまりの堂々っぷりに、みんな「おー」(拍手)みたいな感じになる。

「だって、素敵じゃないですか、御木本会長! 決めるときにはビシッと決めるし、それでいて、ちゃんとみんなの意見も聞くし、一般生徒のこともほんとよく考えてるし、あ、それでこの前、私のどうでもいいような仕事、褒めてくれたんですよ、ほんとこんなところまで見てるんだって」

「はいはーい、のろけ禁止ね。

 そっかー、永末さんは御木本会長と現在進行形かー。

 脈のほどは、どうなの?」

「むむ、なかなか手ごわいですけど、年内には必ず落とします!」


 すげー自信だ。しかも落としますときた。最近の中学生は怖いよ……。


「頑張れ! 梓姉さん、超応援しちゃうぞ!

 よし、じゃあ次、鴫原さん行ってみよう!」


 わたしですかー? と、ようやくコミックスから視線を上げた鴫原さん。

 そういえば、鴫原さんのこっち側の話、聞いたことないなあ。


「そうですねー。初めて……初めて……えーっと。

 あー、思い出しましたー。土井先生でしたねー」


 ……鴫原さん。それは。

 咄嗟に分からなかったらしい梓先輩、俄然興味が沸いたと言わんばかりに身を乗り出す。つうか私と鴫原さん以外、「土井先生」が誰かわかってねーだろ。


「お、鴫原さんの初恋は、先生相手だったの?

 それとも現在進行系なのかな? 歳の差カップル、いいじゃない!」


「そうですねー、今はちょっと冷めちゃったところがありますー。

 あんなに夢中だったのになーって、思うんですけどねー。

 あ、でも最近、またちょっと再燃しつつありますー」

「そうかそうか、そういうの、あるよね! 鴫原さん、意外とやり手じゃん!

 よし、次は言い出しっぺのあたしだ! あたしの初恋、あーんど、初体験の相手は、当時の生徒会長でした!

 って、これはもう、みんなのほうが詳しいね!

 じゃあ次行こう。遙ちゃん、どうぞ!」


 鴫原さんの初恋物語を最後まで誤解したまま、梓先輩はハイテンポで話を続け、ついに私に着弾。


 一瞬、答えに詰まる。


 鴫原さんみたいな答えに逃げ……いや、鴫原さんのあれは逃げじゃなくてガチだ。あれを逃げと言うのは、かつてあのジャンルで壁を取った伝説の絵師シギーに失礼というもの。


 ままよ。言葉に詰まれば詰まるほど、窮地が深まるだけだ。

 それにこのノリなら、ネタでした、で流せる。みんなも、自分も。


「私の初恋は、星野先輩でした」


 おおっ、と場がどよめく。


「いや、正直その、見ててバレバレだったと思うんですけどね。

 どうでした?」


「そうだねえ、普通に見てて、こりゃあ惚れてるなって思ってたよ!

 つうか今でも惚れてると思ってたけど!

 まあいいや、静香は難易度高すぎるからね! しかもぶっちゃけヤンデレ系だから、初心者にはオススメできない!」


 ……待った! 待ったあ!

 梓先輩、お風呂では「応援する」とか言ってましたよね!? 言ってましたよね!? 頼むからネタで流させてくださいよ!


「まあ、星野先輩、nice boat系の方でしたの!?」


 エマちゃん、あんたはその日本語、じゃない、英語を、どこで知った。


「よくわかんないけど、初心者は手をださないほうがいいよ! 怪我するよ!

 じゃあオーラス、エマちゃんいってみよう!」


 エマちゃんは、人差し指を顎にあてて、思案げに首を傾げる。


「そうですわね……パパン、という答えではお許しいただけないでしょうし」

「それは限りなく反則だね! 上手い逃げだと思うけど!」


 エマちゃん、自分から退路を塞ぐなんて、あんた実はマゾか。


「でしたら――ああ、やはりあの方ですわね。

 初恋と申し上げて間違いないですし、今でも恋してますわ。

 わたくしが日本に留学したのは、もちろん日本文化を愛すればこそです。

 ただ、どうやらその方が日本にいらっしゃるらしい――しかも、この宮森学園の関係者らしいと知ったからというのも、留学の理由ですわよ」


 またしても、場がどよめく。私もびっくりだ。

 何その超ロマンチックっぽい話。謎の日本人に恋して、それが誰かも分からないけれど、宮森にいるっぽいから、留学先をここにした、ってことだよね?

 すごい。それはすごい。いろんな意味ですごい。


「おおおっと、ここで超特大のネタが来たね!

 エマちゃんの意中の人って、誰だか分かったの?」


「残念ながら、関係者『らしい』という範囲を越えませんの。

 それに、生徒だったとしたら、その方はもう卒業されているはずですわ」


「すごいね。ロマンだね! 何年前に卒業したのかとか、分かりそう?」


「そうですわね――生徒でしたら、だいたい、2年か、3年か……そのくらいだと思いますわ」


「へえ! だったらあたしとか静香とか、意外と知ってる人かもだよ!

 どんな人なのか、詳しく教えてもらっていい? あたしも執行部長いし、静香は執行部の生き字引だから、その人が生徒でも先生でも、執行部と何か関係あれば、特定できるかもだ!」


 確かに。その可能性は、十分にある。

 なにしろ、海外にまでその噂が届くような人物なのだ。

 学校でも、ある程度まで傑出した人物だったと考えたほうがいい。


「実は、わたくし最初は、星野先輩こそが、初恋の方かと疑っておりましたの。

 ですがこの前、意を決してお話を伺ったら、人違いだったんですのよ」


 おおう。実はエマちゃん、隠れライバルだったんか。

 ん、でもそれ、ひっかかるぞ。


「ねえ、エマちゃん、なんで人違いって確信できたんです?

 だって、エマちゃんはその人が誰なのか、わかんないんでしょ?」


「お、さすが遙ちゃん。そりゃあエマちゃんが恋のライバルだったら、しんどい相手だよね! 特に胸のサイズとかさ!」


「はいはーい胸の話題はNGワード! 部屋主の権限で今、決めました!」


「あはは、ごめんごめん。でさ、エマちゃん、なんで静香は違うってわかったの?」


「そうですわね……もしかしたら、数学好きな遙さんなら聞いたことがあるかもしれませんが、『イリス』というお名前に、心当たりはございませんこと?」



          ■



 呼吸が、止まりそうになった。

 いや、数秒、止まっていたと思う。


 なぜ。なぜ、ここで、イリスが。


 私は、内心の激しい動揺を押し隠しながら、静かに、長く、息を吐く。

 落ち着け。こっちの世界には、「ユスティナの方程式」がある。

 だから、「イリス」がいても、不思議はない。

 ただ単に、私の予想が、的中したというだけ。

 それが良い方に転ぶのか、悪い方に転ぶのか、まだ決まってはいない。


「――そうですね、イリスと言われても……栗本薫の小説でしか、知りません。

 でも、それじゃないですよね?」


「あら、そんな登場人物が出てくる小説がございましたの?

 後で読んでみることに致しますわ」


「登場人物というか、神様というか、ファンタジー世界なんですけど、その世界での『月』のことだったと思います。微妙に違うかも。

 あと確か、渾名として『イリス』を名乗っていた人もいたと思います。だいぶうろ覚えですが。

 とにかく長い話なんです。その上、作者が途中で亡くなられて、最近ようやく、ペリー・ローダンみたいな形で続編が決まってと、いろいろあったんです」


「ペリー・ローダン並に長いんですの? それですとさすがに……」

「いえ、ローダンよりは全然短いです。単独著者では世界最長ですが。

 もう130巻は越えているはずです」


「十分、長いですわね……いいですわ、夏休みの課題にいたします。

 電子化はされているのでしょうか? 日本の小説、なぜか電子化が遅くはございません?」

「グイン・サーガは、完全に電子化されていると――思います。ちょっと待ってくださいね」


 PCをスリープから起こして、Amazonを検索。大丈夫、最新刊まで全部Kindle版がある。

「電子化されてました」


「よかったですわ。

 130冊も文庫を持ち歩いてバカンスだなんて、悪夢ですもの」

「お値段、相当なものになりますけどね。

 セール中のKindle版でも、1冊400円くらいはしますよ?」


「気にしませんわ。むしろ、もしそこに『イリス』が誰か特定できるヒントがあるなら、安いものですわよ」


 また、呼吸が止まりそうになる。落ち着け。

 400円を約130冊、エマちゃんでなくても暗算で52000円という数字が即座に出てくる。大人の金銭感覚から言えばさほどではないかもしれないが、「それでも安いものだ」というほど、「イリス」の正体に価値がある、ということだ。


 頼むから、これで「初恋の相手を特定するために5万円なんて、安いものですわ!」とかいう流れにしてくれないかなー。


 ……ならないよなー。


「星野先輩は、『イリス』という名前に心当たりはない、と仰られましたの。

 そういえば星野先輩も、『グイン・サーガ』というタイトルを挙げていらっしゃいましたわね。

 これはいよいよもって、読まないわけには参りませんわ」


「そのナントカ佐賀はいいからさ。

 そもそも『イリス』っての、何なの?」


 さすが梓先輩、核心にズバリと切り込む。ちなみに佐賀県関係ないです。


「イリスと申しますのは、ハンドルネームですわ。

 I-r-i-sで、イリス。インターネットにございます、とある数学者のためのメーリングリストに、そのようなハンドルで投稿されている方がいらっしゃるのです。

 あれこそが、エレガントと言うべき論考ですわ! エレガントという言葉は、イリス様のためにあるようなものです。幼い頃のわたくしは、その美しさ、完璧さに、あてられてしまいました。恋、と言って、まったく差し支えございません。

 しかもイリス様の才能の、その多方面に渡る有り様と言ったら! 普通の数学者では、あれだけの領域を、あの深さで探求なぞ、一生かかっても不可能です。

 天才――そうですわね、ダ・ヴィンチ以降途絶えた、万能の天才という称号こそが、イリス様には相応しいと思いますわ」


 核心が、来た。「イリス」は、こちら側でも、万能の天才なのだ。

 私は、歯を食いしばって、動悸を堪える。


「へえ。数学の、なんとか栗鼠? それって、誰でも使えるの?」


「いいえ。非常にクローズドな、能力を認められた数学者のみが投稿できるリストですわ。

 イリス様はとても慎重な方で、IPもほぼ偽装されていたのですけれど、ごく数回、ご自身の痕跡を残されていますの。

 最初の痕跡は、MITのランゲージ・ラボ。ただし、もうだいぶ前になります。

 それから決定的な痕跡が、日本語でのメールの誤投稿ですわ。

 イリス様名義で日本の携帯電話から発信されたもので、『学園祭ステージイベントに呼ぶゲストのギャラ関係、宮森学長と詰める必要あり』という一文が投稿されて、これは何の暗号だと話題になりましたの。

 後ほど、イリス様本人から『風邪で体調を崩していたため、私信を誤配した、削除を求む』という投稿があって、それで有耶無耶になりましたが。

 ですがこれは間違いなく、イリス様が日本人で、宮森学園に関わっている証拠だと、わたくしは確信しておりますわ。しかもその方は、何らかの形でMITランゲージ・ラボと関係をお持ちです」


「ふうん――なんだか、ひっかかるっていうか……ううん、それって――」


 梓先輩が、えらく思案顔だ。

 いやでも梓先輩、さっきから「ナントカ佐賀」とか「なんとか栗鼠」とか、妙にズレた「なんとか」が多いんですが、それでこの情報から誰か特定できるんですかね……?


「ねえ、エマちゃん。静香に、今の話、した?」


 思案げなまま、梓先輩。


「いいえ。星野先輩には、『イリス』というハンドルネームに、お心当たりはございませんか、とだけ」


「そっかー。じゃあ、静香は何も言えないわなー」


 途端に、部屋が驚愕の空気に包まれた。


「梓先輩、イリス様を、ご存知ですの!?」

「え、梓先輩、思い当たる人がいるんですか!?」

 思わずみんなが合唱。


「いるっていうかね。まあ、静香に確認したほうがいいとは思うよ。

 でも、ほぼ、間違いない。それ、あたしらの恩人の、大先輩だわ。

 うん、確かエムなんちゃらっていう大学の人とつきあってたし。そういえば先輩が風邪引いてた年の学園祭、ステージイベントで初めてタレント呼んだ年だし。

 そのなんちゃら栗鼠の、私信の本来の送り先、たぶん、静香だよ。あの日の先輩、風邪でフラッフラで、アドレス間違いまくったメールをめっちゃ出しまくってさあ。あたしのとこまで、恋人宛の色っぽいメールが来たもん」


 全員、絶句。


 絞りだすように、エマちゃんが質問。


「そ、その、先輩の、お名前は?」


「有原先輩。フルネームは有原幸子。『あるなし』の『ある』に、『はらっぱ』のはらで有原。『さいわい』に、『こども』の幸子。

 あたしら執行部員、全員にとっての大先輩だよ。

 とにかく、本当にものすごい先輩だね。あたしが知ってる限り、この世で一番すごい人。あの人にできなきゃ、誰にもできない。無理。そんな人。でもって、あたしにとっても、静香にとっても、公私ともに足向けて寝れない人。

 ま、なんのかんので、お茶目な人でもあったけどね」


 エマちゃんは、目を大きく見開いて、感動に震えている。

 永末さんは、そんなすごい人がいたんだと、大いに感心。

 私は、「イリス」が自分から遠くないところにいることに、衝撃を隠せなかった。


 だから鴫原さんが、黙々と読み込んでいたコミックスを脇に置いて、のんびりとした口調で質問したときも、すぐにはその意味が理解できなかった。


「残念です――いえ、残念、と申し上げてしまって、よろしいんでしょうか?」


 梓先輩は、一瞬「しまった」という表情を見せた。


 数秒後、私もようやく思考回路がつながる。

 そうだ。梓先輩は「お茶目な人でもあった」と、言った。

 過去形。


 有原先輩を評するとき、梓先輩はずっと現在形で話してきた。「すごい先輩だよ」「一番すごい人」「足向けて寝れない人」――つまり有原先輩が卒業生だという理由で「すごい人だった」とは、言っていない。

 だのに、最後だけ、過去形。

 普通なら「お茶目な人でもあるんだけどね」、と結ぶはずだ。


 梓先輩は、仕方ないという顔で、語り始めた。


「やっぱ特進クラスの子と話すときは、普段以上に注意が必要だね。さもなきゃ、もっとハイテンションで、勢いで流しちゃうんだった。まったく、油断できないなあ。

 あのね。これは、秘密ってわけじゃないんだけど、すごくデリケートな話なんだ。だから、この部屋の外には、なるべく出さないで。

 特にエマちゃん、そのなんとか栗鼠っていうやつで、世界に情報をばら撒いたりは、絶対にしないで。詳しいことはまだ言えないけど、最悪、人が死ぬかもしれない。

 いい? 話せるときがきたら、全部話すから」


 エマちゃんは、緊張した面持ちで、頷く。


「有原先輩は、卒業した後も、学園の仕事に関わってた。

 でも去年の暮れ、街角で暴漢に襲われて、刺されたんだ。

 今でも意識不明のまま、中央病院に入院してる。面会謝絶だよ」


 全員、何も言えなかった。


「有原先輩が刺された日、あたしら――あたしと静香は、久しぶりに先輩と街で遊ぶ予定だったんだ。

 あたしと、静香が、予定を組んだんだよ。

 あたしらの身の丈にあわせて、スイパラとか予約してさ。

 それで、『先輩、お仕事が忙しすぎて、最近は全然休みが取れてないじゃないですか、このままじゃ体に悪いです』って、説得して。

 有原先輩、笑いながら、わざわざ日程を開けてくれた」


 梓先輩の拳が、ぎゅっと、握られた。


「――それが、このザマだよ」


 それは梓先輩のせいでも、星野先輩のせいでもありません――喉元まで言葉が出かかったけれど、私には、言えなかった。

 それは、誰もが、痛いほど分かっていること。

 分かっていたって、どうしようもなくこみ上げるから、悔いは、悔いなのだ。


「よし、以上! これで、この話は、おしまい!

 あはは、湿っぽくなっちゃったね!

 よし、じゃあ次だ! エマちゃん、バストアップの秘訣は何かな!

 部屋主さんのために、一肌脱いであげよう!」


「明るい未来のために、私もそこのところ詳しく聞きたいです!」


「梓先輩、永末さんも、胸の話はNGワードです!」


「永末さんは素質あるから大丈夫だと思うのー」


「あら、わたくしは普通に生活してるだけですわよ。

 きっと、遙さんがあまり食べないからですわ」


 それを契機に、私たちはガールズトークに戻った。


 この明るくて頼もしい先輩が抱える、抱えようのない痛みを、ほんのすこしでも紛らわせられれば。


 そう願いながら、私達は馬鹿話を続けた。

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