夢3
「ねえ、ジャスティーナ。復讐って、愚かなことなのかしら?」
「ロージィ、復讐なんて特殊な行為、一般論じゃ語れないよ」
「それはつまり、愚かではない復讐もある、ということですわね?」
「あっは、それはちょっと恣意的な誘導だね。
私に言えるとしたら、その問いの答えは、『解なし』ってことかな」
「つまり、答えのない問い、ですのね?」
「答えはある。答えがない、というのが、答え。
インチキっぽく聞こえるかもしれないけど、そこは全然違うよ、ロージィ」
「どう違うのでしょう?」
「答えのない問いなら、『これだ』という答えを、こっちで決めればいい。
例えば、神は実在するのかという問いには、答えがない。実在してもいいし、しなくてもいい。ロージィが『神は実在する』と大声で言って、たくさんの人が思わずそれに頷けば、その日からロージィは神の代理人だ」
「……危険な喩えですわね」
「『解なし』は、そんな曖昧なことを許さない。
だって、正しい答えは、あるんだ。『答えがない』っていう、唯一の答えが。ロージィや私が『こんな答えを見つけた!』と叫んだところで、『解なし』を導いた証明を覆せない限りは、狂人の妄想でしかない」
「復讐が愚かか否かは、後者のタイプに属する問いである、と?」
「私はそう思うよ。
復讐という行為を、愚かさという単位で定量化することは、できない。その2つの行為に、交点はない。解なし、だよ。
だから――」
「――だから?」
「ロージィが望むなら、たとえ全世界を敵に回そうとも、その復讐を成し遂げればいい。
『そんな愚かな復讐はすべきではない』なんて言葉は、狂人の妄想だ」
「ならば、もう一つだけ、問いを出させて頂けますかしら?」
「もし、わたくしが、復讐を望むなら。
ジャスティーナ。あなたは、わたくしの手をとってくださいます?」
わたしはロザリンデの手を取り、その白磁のような指に接吻した。
「クルシュマン伯爵の、御意のままに」
「では、参りましょう、魔術師ユスティナ。
2人で、この世界を、焼きつくしましょう」




