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もしかして:黒歴史

「高梨さん、起きた? 大丈夫?」


 斉藤先生はまだ若い養護教諭で、眼鏡と巨乳という二大人気属性を兼ね備えた人物ゆえに、男子に圧倒的な人気を誇る。ちょっとつっけんどんだが、なんだかんだで話しをしっかり聞いてくれて、悩み事の相談(要はコイバナの初歩から実技まで)にも根気よくつきあってくれるので、女子の間でも人気だ。


「――あ、大丈夫、です……」

 なるべく平静を保とうとするのだけれど、眉間に皺が寄るのは避けられない。

 頭が痛い。


「大丈夫そうじゃないわね」

 斉藤先生はそう言うと、耳式体温計で私の体温を、そして手首をとって脈拍を測る。先生の少し冷たくて細い指に触れられると、同性なのにちょっとドキッとして心拍数が上がるのだけれど、今日ばかりは私の心臓は既にアップビートだ。


「念の為、病院に行きましょう。

 立てそう? きついなら救急車を呼びます。遠慮せず言って」


 さすがに救急車は、大げさです、先生。

 というか、できればその、今は医者に行きたくないんですが。

 なんだか、とんでもないことを口走りそうで。


 (医者「高梨さん、どうしたのかな?」

  私 「ユスティナには、特に異常はありません」

  医者「……」

  私 「……」)


 シミュレート完了。これはまずい。


「……いえ、先生、大丈夫です。

 でも、あと30分ほど休ませてもらっていいでしょうか?」


 医者には「貧血気味だけれど、異常はない」と言われている。今日、医者に行っても、同じ診断だろう。

 医者が斉藤先生に「おそらく精神的なものです、身体的には健康そのものですね」とボソボソ説明しているのを、小耳に挟んだこともある。

 つまりは、そういうことなんだろう。

「精神的なもの」の原因には、思い当たるフシがないわけでもない。

 平凡といっても、それくらいには、私の人生、いろいろあった。


 いやーいやいや、でもそれ、そういう意味じゃない、んじゃ。


 またしても、頭痛がぶり返してくる。


 そんな私を見て斉藤先生は軽く頷くと、「先生の車で病院に行きましょう。いろいろ準備があるから、30分ほどしたら戻ります」と言って、保健室を出て行った。


 あと30分で、この妙にリアルな妄想を、なんとかしないと。



          ■



 そう思いながら、もう一度、天井の模様を目で追いかける。

 素数を数えたり、地図を4色で塗り分けたりするのは、心を落ち着かせる効果があると、ものの本には書いてあった。

 ここはひとつ、4色問題にチャレンジだ。


 ――10分経過。妄想の奔流は落ち着いた。


 けれどそのせいか、「ユスティナ」という設定は、逆に心にこびりついてしまった。あるあるー。ありますよねー。


 それ、すごく、困る。


 まあ、落ち着こう。

 この10分、落ち着こうとし続けてきたわけだけど、改めて、落ち着こう。


 自分の中に勝手に住み着いた妄想を整理すると、


(1)名前はユスティナ


(2)なにやらファンタジックな世界で、女王様に仕えていた。


(3)住んでいたのは、ノラド王国。女王様の名前はエヴェリナ。


(4)ユスティナは魔術親衛隊副隊長の席にあった。


(5)世界に滅亡の危機が迫るなか、ユスティナはエヴェリナ様の宮廷を訪れた英雄○○(←肝心なとこなのに、ここがどうも曖昧)と出会う。


(6)すったもんだ、いろいろあって(←思い出そうとしたら妄想の奔流が始まったのでストップ)、ユスティナは宮廷を辞して、英雄と一緒に世界を救う旅に出る。


(7)旅のなかで、ユスティナは英雄と結婚する。ただし第4夫人。旅の仲間は英雄以外みんな女の子で、全員が仲良く英雄の奥さん。爆発しろ、英雄。つうか何やってんだユスティナ。そんな都合のいい女でどうする。


(8)すったもんだ、いろいろあって(←思い出そうと思ったら、またしても妄想の奔流が始まったのでストップ)、さあこれから最終決戦だ! 私たちの戦いは始まったばかりだ! で、妄想打ち切り、というか終了。


(9)なおユスティナの胸は平坦(←せめて妄想の中でくらい……)


 うーん。


 これ、なんか、どこかで……


 うーーん。


 うーーーん?


 ……あ。


 思い出した! 思い出したよ!

 これ、自分が小学校の頃、ノートに書いてた「設定」だ!


 エウレカ!


 そして私は、自分自身の巨大な黒歴史を掘り当てたことに気づき、しばしベッドの上でのたうった。


続きは深夜にでも

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