表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第04武:コンプレックス家族経営

大変お待たせして申し訳ありませんでした。

第01~03武の武田信玄(晴信)に関する呼称を改変致しました。感想でのご意見感謝。

ああ、そういえば晴信が三条さんから嫁貰ってたね。もう、どうでもいいや。

自分は仕事に生きます。親父も晴信も爆発しろ、マジで。

最近は親父の名代になる事が多くて忙しいんです。素敵な出逢いが欲しいなぁ。

自分の初陣の頃から周辺の豪族さん達が挨拶によく来るんだよね。まあ、ニコニコしてれば終わるんだけど時間が取られてめんどいから勘弁、勘弁。

親父だけに挨拶すればいいのに自分も同席するから退屈極まりない。

とは言え、素直にめんどいとか言ったら親父の刀が降って来るからなー。

うん、拳骨じゃないんだ。殺しに来てるよね、親父。晴信が親父を追い出した気持ちがよく分かる。

まあ、なまくら刀だからハリセンみたいな感じ? 頭も筋肉な体に負けずダイヤモンドヘッドだから刀の方が砕けちゃうしね。でも、ちょっと居眠りしかけただけで突っ込むのは止めてくれないかな、親父。流石に痛いから笑顔を保つのが難しいんだ。ほら、また挨拶に来た人がドン引きだよ。

そういえば真田さんも最初はこんな感じだったよね。最近は諦めた目をしてる。懐かしきかな、あの日々。


私は真田幸隆という一豪族であります。

え、知ってる? 何の事やら分かりませんね。

今日は武田家に挨拶に参りました。

というのも、嫡男の武田信初が初陣してより武田家は飛ぶ鳥を落とす勢い。

周辺諸国はこぞって挨拶をしに武田へと足を向けている。

というのも当主の武田信虎が戦狂いから一転、外交派に転換したからである。精強な武田軍は健在なまま、周辺の豪族を次々と取り込み、しかも不満や恨みは出ていないと言う。

私は甲斐ではなく信濃に領地を持ちますが、その手練手管のほどが気になり周辺に知られぬよう密かに武田家へと接触を取ることにした。

たかが一豪族にわざわざ会ってくれるか賭けのようなものだったが、何とか会談の機会を設ける事が出来た。周りに知られればいざという時に武田に寝返ると取られかねない危険な橋を渡り、対面した信虎様は成る程、戦の危険さを人間に凝縮させたような人物であった。

常に体から醸し出す覇気は周りを緊張させ、恐怖に体を強張らせる事だろう。

しかし、この人物には徳や仁が見えない。

人を惹き付け、この人のためならば命も惜しくないと思わせる器がない。

言うなれば抜き身の刀。

人という水を切って捨て、最後には錆びて朽ち、後には何も残らない戦のためだけにある人物だろう。

横に座る信初様は、さて、どうだろうか。

先程から人好きのする笑顔をしているだけだ。底知れぬといえばそうだが、只の阿呆という可能性も・・・

あれ? 信虎様、何故に刀を抜かれて・・・

しまった、何か不手際があったか。

考えろ、私。情報を整理して用意していた28の対策を、って信初様に降り下ろしおったーー!!

しかも、刀の方が砕けおったー!!

居眠りするな? いやいやそんな問題じゃ・・・信初様も、すまんな真田殿って・・・いやーー!?近づいて来たーー!!

頭を下げないで!!

刀を砕く頭を下げないで、お願いいたします。

そんな感じで私は武田の傘下に加わりました。北条とか今川とか上杉とかいるけど、知ったこっちゃなかった。今そこにある危機というものを私は知った。

汲めども尽きぬ器という言葉があるが、

どんだけ注いでも砕けぬ器という言葉を作るべきだと思う。

だって、信初様、ずっと笑顔なんだもん。

あれを見たら命をかけたくなる。

状況から恐怖を感じた笑顔だが、それでもずっと見ていたくなる仏のような笑顔。

あの方が天下人になるのを見てみたくなってしまうような、本当に底抜けにお人好しな笑顔だったのだから。


儂は武田信虎。

甲斐守護武田家の当主である。

息子である信初は次期当主として、幼い頃から武芸や兵法、史書などを読ませて来たがどうもこの戦国の世に似つかわしくないように思える。

体は呆れる程デカくなり、単純な力比べならば儂でも敵わぬだろう。

事実、初陣では当たるを幸いに敵を撫で斬りにして体を紅に染め抜く猛勇を示した。

だが、興奮が過ぎて敵が潰走したのにも気付かないようでは一兵士のように斬り合いをさせるのには向かないだろう。

普段は儂の子か疑いたくなる位に落ち着いた奴だが、感情が(たかぶ)ると途端に儂の血が濃くなる。

その感情の激しさが家臣への労りに繋がるのだから悪い事ではない。戦働きが優秀なものはいくらでもいるから、信初がわざわざ前線に出る必要もないしな。

とは言え、儂が戦を繰り返して領土を拡げてそれを分け与える事で保ってきた家臣との主従関係を、信初はあの人たらしな笑顔と労いの言葉だけで儂以上に深く強くしてしまうのは気にくわんが。

威厳が足りん、と叱ればしかめっ面をして威厳を出そうとして話しかける時は結局同じ顔。普段のしかめっ面との落差でますます人たらしになってしもうた。

豪族との挨拶時に見せしめとして、気が緩むのを見計らって、刀の峰を返して折檻してみれば刀が砕けて豪族共が逆に恐れる始末。

戦では今まで頑強に抵抗していた奴等が、

信初を同席させた対面ですぐに武田の傘下に入る事を誓う。

儂の戦にかけた人生は何だったのか。

そんな虚しさを胸に抱え、

信初と腹を割って話せば

「戦は嫌いですが、やらねばならぬなら容赦はしませぬよ」

とカラリと笑う信初。

戦は儂の人生。

なれど、信初は儂の人生を受け止めきって笑ってみせた。ああ、儂はまだまだ小さい世界にいたのだな。

確かに戦は必要だった。

だが、それ以外を求めたか。

否、目を見開かず戦に溺れたのが儂じゃ。

息子に気付かされるとは儂も老いたものよ。

戦に生きるのは儂の人生。

変わらぬそれを儂の息子に預けるのも、

悪くないかも知れぬのぅ。


久しぶりに親父と二人きりで酒を酌み交わしました。味噌だけを肴に言葉少なにお互いに杯を満たしあい、黙々と飲む。

やべ、格好よくね。映画のワンシーンみたいじゃね?

知らずにテンション上がる内面とは別に、

外側はポーカーフェイス。COOLだ、かつてないほどにCOOLだ、自分。

日本津々浦々の女性の方々、ここにイケメンがいますよー。惚れてもいいですよー。

でも、現実は非情なり。

来るのは掘られたい(誤字にあらず)とかぬかす野郎ばかり。美人でなくてもいい、癒し系の可愛らしい奥さんが欲しいです。

酒の勢いに任せてそこら辺の妄想新婚話しちゃった。親父相手に何してるんだろ、自分。

「壁は白塗り、犬がいて、草が青々と生え、彼方まで一望遠里(いちぼうえんり)。太陽は絵画の如く輝き、世は全て事も無し」

素面(しらふ)になった時、

何ポエムってんの自分ーー!?

ってなった。酒の勢いって恐いね。

え、戦はどうすんのかって?

「戦は嫌いですが、やるならば(晴信が)容赦しませぬよ」

うん、親父の血を引いてるだけあって我が弟は苛烈な戦振りですから。

自分がバーサーカーなら晴信は冷徹な策士って感じ。降服しない相手にはもうお前、ちょっと可哀想だろ。もう止めて、止めたげてよぉー!!

相手の抵抗する精神力はもうゼロよ!!

って感じ。止めた方がいいんだけど、何か鬼気迫るっていうか反対したら自分が容赦無く弾劾されそうで、見てるだけなんですけどね。ヘタレな兄ちゃんでゴメンね、たーちゃん(晴信の幼名)。自分の不甲斐なさにいつも自己嫌悪してる内に晴信が全部片付けちゃうしね。もう、晴信だけでいいんじゃね?

嫁さん二人もいるしね。

しっかり者の上杉アサちゃんと、

おしとやかな三条キミちゃん。

羨ま爆発しろ。

嘘、兄ちゃんは仕事頑張ります。だから、トイレ行こうとした自分を睨まないで、恐いねん。泣きそうになっちゃう。

無口ショタな晴信が懐かしいです。


最近、兄上殿の視線が痛い。

理由は火を見るより明らかだ。

「晴信様・・・?」

暗い顔の私を気遣う三条公頼が娘・キミを貰ったからだ。

上杉が娘・アサだけならば政略結婚で誤魔化す事も出来たが、三条の娘を側室とした段で父上殿の目論見は白日の元に晒された。

嫡男である信初兄上殿と次男である晴信こと私を争わせ、互いの勢力を削らせ、双方が消耗した所で父上殿が仲裁し、自らの派閥に取り込む気なのだろう。

自らお家騒動を起こすなど正気とは思えないが、戦国の世の習いは親が子の器量を妬み、恐れ、自らの地位を守るため子殺しすら躊躇わない事を教えてくれる。

信初兄上は気付いていらっしゃるのだろうか。

・・・気付いていらっしゃるのだろうな。

戦では常に泰然と床机(しょうぎ:古代から明治までメチャ長い間愛用された簡易型の椅子。メガヒットどころかテラヒット商品、多分)に座っていらっしゃるが、戦の差配(さしはい:指揮を取る事)を取る私を然り気無く見ておられる。

もし、私が不甲斐ない差配を取れば、前の戦の如く、その身を自ら前線に投じてしまう。

兄上が前線に立てば誰も彼もが我を失い、兄上の居る場所を本陣にすべく弓を千千(ちぢ)に放ち、狂乱したように敵を斬る。膠着(こうちゃく)していた戦は嘘のように終わり、兄上は何かに耐えるように立っているだけだった。

兄上はただ居るだけで百の言葉よりも、千の手配よりも雄弁に自らの居るべき場所を示される。

兄上の居る場所が本陣になれば、お付きの小姓がをそっと床机を差し出し、兄上はまた床机の上の人となる。その泰然自若とした姿は誰もが見惚れ、誰もが将とは、主とはかくあるべし、と教えられる見姿だ。

私にはそんな真似は出来ない。

あらゆる事を常に頭に置き、目は(せわ)しなく戦場を駆け回り、耳は雑多な情報を選り分け、手は常に()かしく動き回る。

私は兄上を動かないようにあらゆる不測に備え、あらゆる手段を講じ、あらゆる機会を逃さず捉えて初めて兄上と同じ場所に立てる。

兄上が動けば全て事足りる。

兄上が語れが全てが解決する。

それでは駄目だ。私が私の器量を示し、

「武田に晴信あり」

と言われるようにならなければならない。

兄上は偉大だ、素晴らしい方だ。

だが、たった一人の人間だ。

武田という、何万もの人々を全て背負う事は出来ない。だが、兄上は必要とあればやってのけてしまうに違いない。

ふくよかな顔を鬼の如く引き締め、寡黙な口中で歯を食い縛り、優しげな目を鋭く光らせ、武田を率い、支える守護神になるだろう。

兄上は武田の全てを背負い、神格化され、武田のための存在になってしまう。

それでは駄目だ。

兄上は人間だ。

気難しい子供だった弟の手を引き、戦狂いだった父に家族への興味を引かせた、優しくて頼り甲斐しか見せてくれない兄だ。

私が苛烈な戦をすればするほど、悲しげな目をする兄だ。私が施す策は非情だが、味方の損害は少なくなる。

兄上が動けば華々しいが、味方も敵も被害が甚大になる。前線から本陣になった場所で床机に腰掛けた兄は戦が終わった後も長々と座り、目を(つぶ)る。自らが動く事で死んだ者を(いた)むように。

あんな表情を兄にさせていいのか。

否、絶対に否!!

私には兄上が動かなくて済む器量がある。

兄上が武田の全てを背負う事を許さぬ気概がある。

例え、父上殿が恐れようとも構うものか。

例え、兄上殿と骨肉相喰(こつにくあいは)む後継争いになっても構うものか。

私は、武田晴信は武田に輝く星になって見せる。見る者全ての目を()く巨星になってやる。

・・・例え、兄上と道が別たれたとしても私は兄上にだけは全てを背負わせるような事はしない。


「たーちゃんは将来何になりたい?」

「えっとね、えとね。信初にーちゃのお嫁さん」

「・・・性別とか血の繋がりとか、やたら障害物が多い夢だなー。もうちょい難易度下げようぜ」

「うー・・・じゃあ、にーちゃとずっと一緒。ずっと、ずーっと一緒に居たい!!」

「兄離れしようなー。でも、そうなるといいな、たーちゃん」

「うん、にーちゃ大好き!!」

「おおう、眩しいぜマイブラザー。ショタに萌えるお姉様達の気持ちが判る気が・・・落ち着けー、落ち着け自分。ノーマルを維持するんだ」


・・・やたら懐かしい夢を見た。

晴信は小さい頃は本当に素直で可愛いショタだった。自分の前限定というのもポイント高かったなー。普段は無愛想で他人を透かし見るような子供だったし。

自分も人の事言えないか。

さて、天気もいいし、朝イチの弓鳴らしでもして目を覚ましますか。

「の、信初殿ーー!!」

何だ真田幸隆さんが珍しく取り乱している。

ゆっきー、ちょっと落ち着けよ。

「は、晴信様が、信虎様を追放されましたぞー!!」

・・・どゆこと?

歴史は史実を刻むのか、緊迫の次回へGO!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ