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第03武:ゴーゴー結婚

天文2年(1533年)

今日は晴信の結婚式である。

本来は結納とか別の言い方があったんだが、

今一つピンと来なかったので、呼称をこれに統一して貰った。

最初に「血婚死鬼」とか当て字されて慌てて訂正した。おのれ、真田幸隆いいセンスしやがって。一時期、親父の戦争好きと相俟(あいま)って、すわ外征かと隣国に臨戦態勢を整えられたのをわざわざ説明に回ってしまった。たかが、呼称一つでこの有り様かい。

いや、今はそれより信玄だ。

相手は武蔵国川越城主・上杉 朝興の娘。

扇谷上杉家とかいう由緒ある家柄で、

関東菅領とかいうやたら偉いのになれる血筋なんだと。山内上杉に負け越してるらしいけど。そういえば太田道灌の孫とか居るんだよな、ほら江戸城作った人なんだよ。

歌を詠み、戦も外交も出来るパーフェクト武将それが太田道灌。

その孫みたさに聞いてみたけど江戸城もちっこいし、何でそんな末端の話しすんの? って感じでした。好きな武将だから、隠れた逸話とか聞きたかったんだけどなー。


いかん、盛大に話しがずれた。

晴信だよ、晴信。あの無口鉄面皮君が結婚式するんだよ。

え、自分ですか?

まだですが、何か?

・・・正直に言うよ。

畜生、ちくしょーーー!!

何で嫡子の自分より早く結婚するの!?

政略結婚みたいだけど、自分だって早く嫁さん欲しいよ!!

何これ、何でこうなっちゃうの!?

しかも晴信の嫁さんがこれまた可愛いいの。

色白くてさ、細っこくて儚げなのが自分的にどストライク。

ふくよかな女性が好まれる時代だけど、

自分の感性は現代です。

ふとましくても、ロリでも愛せます。

あ、でも性的に来るかと言われればちょっとアレかも。ほら、無駄に体が筋肉になっちゃったからあんだけ細いと、肩抱いただけでポッキリいっちゃいそうでさ。

考えてみれば義妹になるのか。

性格も見た目通りおしとやかみたいだし、晴信みたいなムッツリには調度いいかもな。

何だお似合いじゃないか。

ならば、自分が晴信のために為すべき事は、兄として示すべき事は簡単だ。

よし、練習しとこう。

お、いい具合にあそこに真田いんじゃん。

おい、ちょっと付き合えよ。

あん? 親父の言うことは聞けて自分の言うことは聞けないんか?

よしよし、密談部屋教えてやるからそこで話そうぜ。

いいのですか? って、馬鹿。他の人に聞かれたら恥ずかしいじゃねえか。

言わせんなよ、馬鹿。


(わたくし)は 上杉朝興の娘でアサと申します。本日は武田晴信という殿方に輿入れするため、見たこともないお屋敷に来ています。

戦国の世の習いとはいえ、顔も見たことのない方に嫁ぐのは気が重いものでございます。

しかも、武田といえば当主の信虎様は戦狂い、嫡子の信初様も初陣で悪鬼羅刹が如き暴れ様から敵味方を恐怖に陥れた鬼の化身と言われているとか。

そんな方達の息子で弟であられる晴信様も尋常な方ではないのでしょう。

ああ、アサは今当(いままさ)に鬼の棲み家の前におりまする。厳つい城門、新しいのでしょうか芳しい檜の香りが私を迎え、城門から続く道には見たこともない花が彩りを添え、甘い香りが心を和らげ・・・ハッ、危ない危ない。

これが旅人を捕らえる鬼の誘惑かしら。

でも、本当にいい香り。

あ、あれは何の花かしら。

い、いけない私は上杉の娘として・・・

「ようこそ、上杉アサ殿」

見上げれば山のような偉丈夫が私を見下ろしていらっしゃいました。

着物の上からでも分かる隆起する筋肉。

見るもの全てを圧倒する雄大な気迫。

気品が隠れもしない優雅な身振り。

それだけなら圧倒され、萎縮してしまう存在感の真ん中に、ついついホッとしてしまうふくよかで優しげなお顔。

さぞかし、名のあるお方なのでしょう。

そんな方が私の手をとり、乗っていた輿から優しく降ろしてくださいました。

周りの方も恐縮しており、遠巻きに引き下がるのみ。その中でも虎髭の一際厳つい顔の方が苦笑しておられるのが何故か目につきました。

それから館中を案内され、風呂なる湯船にも武田の女性に説明されながら浸かり、夢心地を味わいました。

旅の疲れもあり、そのまま寝てしまい気づけば布団の中。

これから同じ名になるとはいえ、初めて訪れた他人の家で寝こけた恥ずかしさに顔から火が出るような思いでした。


次の日に身なりを整え、ご挨拶に参れば上座に座るのは昨日、遠目に苦笑していらっしゃった虎髭のお方が信虎様。

そして、その横に座るのが悪鬼と恐れられ、鬼神と畏怖される信初様。

昨日、私の手をとり優しく私を案内してくださった偉丈夫でございました。

私が三つ指をついた態勢のまま、その場で気絶したのは致し方ない事でしょう。

仕方ないでしょう、仕方ないと言ってください。ああ、思えば私の晴信様への安心感や信初様への心労はこの頃からだったのですね。


その後、一部の方しか知らないという隠し部屋に信虎様、大井の方(信虎の正室)様、信初様と向かい合いました。

お風呂の説明してくださったのが大井の方様だったんですね。はい、耐性がついて参りました。

そこから信初様が、私をビックリさせた謝罪をされ、慌てる私に更に頭を下げられて

「弟は晴信は無愛想な男だが、誠実でお家のために何でもしてしまう非情さもある。

一人では心許(こころもと)ない故、アサ殿には信玄の心を支えてやって欲しい」

と床に頭をつけんばかりに頼まれてしまいました。

鬼のような、と思えば家族をこんなにまでお想いになる。私はこの武田の一員になる喜びに胸が一杯になる気持ちでございました。

思えば他家の者である私の手をとり、館中を案内するなども弟の嫁となる私に少しでも気安くなって貰おうとなさったのでしょう。

聞けば腹心になった真田とかいう方に考えさせたとか。

苦笑から引きつった顔になる信虎様がいつ真田などを腹心にした、と聞けば

「アサ殿の心持ちを軽くする考えを聞く時に決まっとるがな」

「・・・阿呆か、貴様ーー!!」

天地が引っくり返るような親子喧嘩を始めました。

(まつりごと)を知らない女の私が言うのも何ですが、たかが弟の嫁のためだけに腹心を作るとか有り得ませんよ、信初様。

でも私のためにそこまで為されてくれた事をアサは一生忘れませぬ。

はぁ・・・武田はやはり鬼の棲み家でございました。この世のものとは思えぬ驚きとおかしみを持つ人成らざる者の棲み家でございます。

私の心の平穏は晴信様だけでございます。

晴信様、あなた様だけは人らしくあらせませらるるよう、アサは願うばかりでございます。

だから、

「兄上殿ー、治水工事上手くいきました。

偉いですよね、凄いですよね、褒めて褒めて」

「いい大人が言う事ではありません。

晴信様、自重してください」

その信初様へのラブラブっぷりだけは止めてくださいませんか?


私は真田幸隆というしがない豪族である。

武田の傘下にあるとはいえ、今一つパッとしないが活躍の場さえ与えられればのしあがれると自負している。

とはいえ、武田には古参の重臣が多く有能な者も綺羅星の如く居る。

せいぜい中堅が程度だが、人心を操る駆け引きでは山本勘助などよりも上手を取れると断言出来るだろう。

あまり派手に出世すれば妬まれ、足元を救われかねないから地道に功を積み重ねる他ない。今はまだ若いが武田の嫡子であらせられる信初様は虎が竜を生んだといえる傑物である。上手く取り入れば領地を広げる事も思いのままだが、家族は元より家臣一同、神の如く崇めているから近づくのも難しい。

今回の晴信様の縁談・・・いや結婚式だったかは初めは信初様に話が来ていたというのに

「まだ、信初には早い」

と信虎様が言い、家臣一同も(なら)い、ならば断るかと思えば

「晴信に嫁入らせばよい」

の一言に顎が外れんばかりに驚いた。

晴信様は信初様より一歳若いのに早くはないと?

周りにそれとなく聞いてみれば、

「いやー、信初様はまだまだ我等の信初様でいて欲し・・・んぅ、まだまだ次期当主として学んで欲しい事が多いでな。まだ結婚はよかろう」

とか

「嫁なんか出来たら、そっちに掛かりきりになって、我等に構ってもらえなく・・・げふん、げふん。まだ時期尚早、あれほどの器量の方なれば、じっくり正室を選ばねば」

など、要は若い事を言い訳に

『どっかの馬の骨なんぞに我等の若様を渡してなるものか!!』

と変な方向に一致団結しているらしい。

もう、武田は駄目かも分からんね。

だが、信初様を神の如く崇めたい気持ちも不本意ながら分かってしまう。

結納や嫁入り、輿入れなど様々な呼び名があったものを『結婚』と纏めて呼ぶ事を甲斐一円と周辺諸国に伝えた時、武田も周りの大名も驚愕したものである。

これは、武田が決めた事がどこまで影響があるか試す事に他ならなかったからだ。

無視すれば敵対の意思あり、と勘繰られ。

武田に倣えば武田との戦に弱腰である、と武田から強気に出られてしまう。

ただ、これだけなら全員が無視すれば良かった。

だが、わざと中堅所である私に正しい漢字を伝えず、間違った漢字が充分に他国に伝わった所で訂正の使者として御自ら順繰りに他国へと廻られたのである。

武田家の嫡子が自ら使者として、武田の決めた事を確認して周ったのである。

早さを求めるならば、適当な使者を立てればよい。信初様がゆっくりと各国を廻る間に、周辺諸国は大騒ぎで武田家への対応を話し合い、戦々恐々として信初様の来訪を待つ羽目に陥ったのだ。

そして、訪れた信初様から

「此度は手違いがあり申し訳ない」

と頭を下げられた後、おもむろに

「それで、『武田』としては結婚という呼び名に統一したいのですが当家は如何ですかな?」

と、あの武田家の上も下も蕩けさせた笑顔である。

言い替えれば

「それで、『武田』の決めた事に従うか、それとも従わないか?」

たかが、呼び方一つ。

されど、戦狂いで鳴る信虎の嫡子にして信虎が戦場で直接戦わせるのを引き留める男の言葉である。

手紙や使者なら適当に言い訳も出来ようが、本人を目の前に誤魔化せる者は結局居なかった訳である。

そして、周辺諸国が武田に倣い『結婚』という言葉を使い始めた。

たかが言葉、されど言葉。

日常で使う言葉ではないにしても、

武田の決めた事が絶対のものとして他国にも浸透する。

たかが言葉、されど言葉。

何の利益も不利益もなく、信初様は武田の名声を鳴り響かせた。

『武田、恐れるべし』

と。

表面上は頭を下げ、その裏では相手に頭を下げさせる手管は私でも敵わないやもしれぬ。

あの若さで何と底知れぬ深みを持つ方か、

と私が物思いに耽っていた正にその時

「おう、真田殿よ」

本人が来おったーー!!

内心の焦りを隠す私を嘲笑うかのように、

信初様は

「真田殿、ちょいと相談があるんだが」

「は、はあ。私めなどにですか?」

む、と信初様は眉をしかめられる。

い、いかん、機嫌を損ねられたか。

「まあ、密談部屋でゆるりと話そうではないか」

逃げ場を塞がれたーー!!

腹心にしか教えない場所にご案内されよったーー!!

断れば死。

受ければ一蓮托生。

何故か子牛が馬車に乗り、

「ドナド○ドナド~ナ~♪」

と歌っている映像を頭に浮かべながら連行される私であった。


後日、相談事が上手くいったと喜びの手紙を受け取った。

上杉家と武田家の橋渡し役を仰せつかった。

何故か、信初様の直下の部下になった。

何故こうなった、と信初様に聞いたら

「言わせんなよ、恥ずかしい」

と返された。

世の中には私如きでは深さを図れない人がいるんだなー、と深く考えない事にした。

結局、信初様に一番長く仕えたのは私だった。諦めって大事だなー、と子や孫に伝えようと思った。


「真田さん、自分の側に居ると遠い目するんだけど、何でだろう?」

「気付かない幸せってあるんじゃよ、信初」

「父上殿の言う通り」

「解せぬ」

武田家は今日も仲良しです。

真田さんが諦めた!?

謝れ、諦観から悟りに至った真田さんに謝れ!!

深読みする人ほど思考の迷宮に嵌まりやすい罠。 とはいえ、同じ事をしても立場によって回りに与える影響って違いますよね。 真田さんと信初の立場が同等なら、 また違う話になってくるんだけど・・・

真田チート一族取り込み完了。

信初は真田幸村は知ってるけど、 幸隆は知りません。義務教育万歳。

せめて歴史ゲーをやっていれば!!

格闘ゲームとかRPG位しかやってなかったようです。だから、有名所しか出ませんよっと。戦国武将好きな方は すいません。


太田道灌とかは突っ込んじゃいやん。 作者が好きなだけです。

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