第01武:バースデー戦国時代
幼名などはめんど・・・
混乱するので一番有名でピンときやすい名称で統一しています。
主人公は実在しない人物と名前です。
性格や考察は独自解釈が多分に含まれます。 以上、納得頂けたら本文へどうぞ。
おぎゃあ、と泣いた自分の声に驚いた。
生まれた時から記憶がある奴とか居るらしいが、自分は何と前世の記憶まであった。
前はゲームと漫画と小説の好きなライトオタク。
特別な知識は無いが、義務教育万歳。
自分を抱え上げた虎髭のめっちゃ悪人顔のおっさんに言われた言葉にションベンするより先に頭痛を感じた。
「よう、生まれた。貴様の名は武田信初。
武田信虎の初子ぞ!!」
雷鳴のようなどら声。
ニマニマ笑う顔すら犯罪寸前の戦国時代全体を見ても屈指の生命力と武力を併せ持つ究極生命体が親父になった。
同時に
(自分の人生終わるの早そうだなー)
と達観した目をしてしまった。
「おわ、キモい目をする赤児だな」
「あなた、ちょっとお話ししましょうか」
お袋さんに親父が耳を引っ張られる。
イテテ、と首を捻られながらも自分を優しく抱き締める親父にちょっと感動しながら
(武田信玄の兄貴とか無理ゲーだわ)
ショックに人生初のふて寝をするのだった。
さて、五才である。
病気やら戦やら飢饉やら死亡フラグに事欠かない戦国時代に生まれながら、スクスクと育っています。
「にーちゃ・・・?」
「おおう、たーちゃん(後の武田信玄:幼名・太郎)どうしたよ」
「しっこ・・・」
「そこら辺でしろよ」
「ん・・・」
「この場でするか、弟よ。そして、自分の足にかかってるんだが」
「匂いつけ、犬がしてた」
「犬かお前は」
「ん・・・」
尻尾があったらブンブン振ってそうな無口ショタが自分の弟、戦国時代の巨頭、武田信玄である。
後に親父を追放したり、息子を殺したりする非情さは当然、欠片も見えない。
ただ、天性のモノの片鱗は隠すべくもない。
生まれて親父を見た瞬間、遠い目をした自分で耐性ができたのか、信玄の生まれた時から全てを見通すような目を見ても
「貴様もかい・・・」
と親父は生温い顔をしたとか。
いや、見てないんよ。
自分が生まれたのが1520(永正17)年、
信玄が生まれたのが1521(天永元)年。
その差1年弱、年子だよ。
親父ハッスルし過ぎだろ。
ちなみにお袋を妻に迎えたのが1517(永正14)年。
1519(永正16)年の長女・シノブがいるから、
長女、自分、更に信玄まで即効仕込んだのか。
流石に呆れたお袋にお預けくらって、
意気消沈していた親父には同情しかけたが、
他の側室とイチャイチャしやがるのを見て、
「リア充、爆発しろ」
とハイハイしながら思った。
爆発に巻き込まれても生きてそうだが。
晩年に信玄に追放される不名誉で、
悪名高い感じだが、日本各地で没落する名家の守護大名に生まれた癖して、戦巧者で甲斐を統一した政治力まである。
何このチートと思ったよ。
普通、名家つったら資金力はあっても武将がヘボだったり当主が暗愚だったりするのに、
戦場を駆け回る武断派でその武力を持ってごり押し外交までしやがる。
アメ○カさんもビックリの強気外交だよ。
そんな親父が
「アババー、信繁ー」
「キャッ、キャッ」
とか変顔で二番目の弟を喜ばせているのを見ると、やはり人の子かと思う。
いや、自分とか信玄が生まれた時から赤ん坊らしくない大人しいというより、可愛いげがない子供だったのが悪いんだけどね。
初めは喜ぶ演技しようとしたが、マジ恐いんだよね親父の顔。
夜中に覗き込まれてた瞬間、枯れ果てるまで泣いた、マジ泣きだった。
恥ずかしい位に泣いた翌朝、お詫びの意味も込めて
「とーちゃ・・・」
と初めて喋ってみた。
部屋の隅で落ち込んでだ親父がスローモーションで振り返って喜色満面の笑顔を浮かべたのは一生忘れない。
うん、やっぱり恐かったんだ、顔が。
信玄は泣き叫びこそしないが、感情の起伏が余り無いせいかやはり子供らしくない。
というか研究者の目をしてるんだよ、こやつ。
目に入るものをまず、観察して考えて予想を立ててから触ったり調べたりする。
玩具を与えたりしても万事がそんな感じだから、戦国時代の人らしく猛烈果敢で感情の起伏が激しい親父には実の息子かと疑われてたりした。本来なら。
先に生まれた自分が丁度、親父と信玄の中間だったんだよね。
普段は落ち着いてるけど、物珍しいものを見るとつい年相応な興味で飛び付いてしまう。
それから、じっくり観察したり調べたりするから、親父も信玄の慎重っぷりに意味を見出だす事が出来た。
信玄が感情を出さないだけで、目はキラキラさせてたり不機嫌に口を尖らせる些細な変化も判るようになっている。
家族仲は本来の歴史より良くなってると思うが、史実通りなら信玄は親父に疎まれて信繁に家督を継がせようとするはず。
そんで信玄が1541年(21歳)位で親父を追放。
あれ、長男だから自分が追放する事になるのか?
愕然とする自分に信玄が
「にーちゃ・・・?」
と袖を引っ張る。未来の戦国時代最強とも言える大名になるとは予想も出来ない華奢な腕と心配気に見上げる曇りない瞳。
この一つ違いの弟に武田という巨大な重しを全て預ければ、間違いなく全てが上手くいく。だが、こいつは自分の弟だ。
最初は
「出家でもするか、武田家からの仕送りで生活は困らなそうだし」
なんて思っていたが、やはり家族には情が涌く。死んでもいい、とは言えないが何時でも何処でも着いてくるこの弟が誇れる兄になってもいいんじゃないだろうか。
戦国時代最高とまで言われる傑物が誇れる兄・・・ハードル高ぇなぁ。
1533年(天文2年)
武田家が今川攻めを行い、自分は初陣をしております。国境の万沢で合戦してる訳ですが、あれだ、親父の血を引いてるのを実感した。
戦が始まるまでひたすらビビってたんですが、目の前でワー、と敵味方が入り乱れた瞬間頭のなかが真っ赤になって、気付いたら親父に殴られてました。
本陣から前線に一騎駆け。
よくもまあ、狙い撃ちにされなかったもんだ。親父に習って兜替わりに烏帽子を被ってるから地味だが、鎧はその分、金をかけて白い板地をふんだんに使ったイメージはファンタジーであるスケールメイル(鱗鎧)。
ガシャガシャ言って動き憎いが、下手な弓矢も刀も弾いてしまう上に白いからひたすら目立つ。
嫡男だし、前線で斬り合うなんて予想してなかったらしい。白備えが赤く染まって赤備えになったわいな、と親父が笑っていたが、
顔はひきつっていたし、周りの重臣もドン引きである。
これ以降、自分の乗る馬単には屈強な口取り(馬の手綱を引いて牽引する付き人)が二人もつき必ず重臣が添うようになってしまった。
もうしないよー、と言ったが、皆から泣いて頼まれた。戦でも決して本陣から出るなとか言われるし、誇れる兄になる(笑)とか決意したのになー・・・
帰ったら信玄弄ってうさを晴らそう。
最近、生意気になったんだよあいつ。
ついこの前まで
「にーちゃ、にーちゃ」
とか後ろに着いてきたのに
「兄上殿」
とか言うんだもの。
ああ、あの無口ショタな可愛いい信玄が懐かしいなー。
つい妄想が爆裂して書きました。
かなり、駆け足な連載になると思うので、
短い付き合いになると思いますが、
よろしくお願いいたします。