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男の子育て  作者: 長門蓮
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過去の俺

今から四十七年前、俺、藤岡明義は愛知県の豊田というところで生まれた。明義という名前の由来は明るく正義感がある子に育ってほしいという至って単純な考えたものらしい。

家族は父、母、八歳上の兄、そして自分の四人家族だった。

しかし九歳の頃父が死んでしまい、そして十一歳の頃、兄が東京の大学に行ってしまってから、母の男の遊びが激しくなってきてしまい、ついには母と遊び相手の男から、殴る蹴るの暴力を受ける日々が始まってしまい、それが徐々にエスカレートしてしまった。俺は耐えきれず、母が寝た隙を見て父の親族がいる豊橋まで無我夢中に走っていった。そして父の親族の家に着き事情を話し、その結果、引き取ってもらう事になった。ようやくこれで安心できると思った。しかし、現実はそうはいかなかった。実際のところ、虐待があまりにも酷いから引き取っただけで、育てる気は一切なく、親族はすぐに俺を施設に送ってしまった。これが地獄の始まりだった。

施設に入ったものの、虐待のせいもあって、内向的な俺は、同じ施設の子に殴る蹴るの暴行に、物を隠されたり、悪口を言われたりとイジメを受けてしまった。

この時に、俺は「人間を信用出来ない」と感じ、イジメをしたやつらや、それ以外の奴も殴ったり、施設の物を破壊したりと自分が壊れ始めてきた。

そしてその行動が中学になるとエスカレートし、万引き、恐喝、窃盗、暴力事件などを繰り返しおこし、警察に度々お世話になった。

だが俺は、高校にも行かず、中学の頃と同じことを繰り返し、そして十七になったとき、チンピラに絡まれて、つい喧嘩して捕まってしまい、ついに少年院に行くことになった。少年院に入っても、誰も自分を気にかける奴はいない、誰も信用出来ないと、無気力な状態になっていて、少年院のスケジュールをただこなすだけの生活を一年送っていた。

ある日看守に、

「お前と面会したい人が来てる。」

と言われた。いったい誰なんだと、ずっと考えながら面会室の前まで来た。

恐る恐るドアを開けてみるとガラス越しにいたのは、兄だった。スーツ姿の男だった。よく見てみるとそれは、何年か会っていない兄であった。

俺はパイプ椅子に座ったが、しばらくお互い沈黙のままだった。

そして兄が

「久しぶりだな。覚えているか?」

と言った。俺は

「ああ。久しぶりだな。」

としか答えられなかった。色々と込み上げてくる思いを落ち着かせるためにそう言った。

「俺が東京に行ってからの事を全て話してくれないか。」

そして俺は今までの事を全て兄に話した。虐待されたことや、施設でイジメが原因で問題行動を起こした事など全て話した。全て話終わった途端、自然と涙がこぼれてきて泣いてしまった。兄もワンワンと泣いていた。そして数分後お互い泣き止み、だいぶ気持ちが落ち着いてきた。そして兄も東京の大学に行ってから今現在の事を話してくれた。

兄は何回か地元に帰ってきて、俺の行方を探していたが、母は「知らない」の一点張りで、ある日を境に音信不通になってしまい、また全ての親族の家に訪ねてもここでも「知らない」と言われ、俺を引き取った親族には「死んだんじゃない?」と言われる始末だったらしい。そしてとうとう兄も俺が死んだと思っていたらしい。

その後兄は、大学で教育学を学んでたこともあり、教員免許を取得し、東京の小学校で働いていた。

それから四年たった今年のある日、高校の同窓会があるということで、地元に帰ってきたのである。

そこで兄は仲良かった横山克典と久しぶりに会った。横山という男は警察官になっており、まだ俺が生きているはずと信じていて、僅かな望みを賭けて、横山に頼んだ。

そして先日、横山から電話がきて、俺が豊橋の少年院にいるという情報を掴み、今に至るというらしい。「兄貴も大変だったな。」

「お前に比べたら大したことないよ。それにほとんどの月日をお前を探すのに使ってただけだし。」

「でも何で俺なんかのために…。」

「兄弟だから当たり前だろ。」

と兄はあっさり答えた。それと同時に心に突っかかっていたものがとれた気がした。

何でこんな当たり前な事に気づかなかったんだろう。兄は年が離れてることもあり可愛がってくれてた。俺も兄を越えるような人間になろうとずっと思っていた。しかし母の虐待からそんなこと考える余裕がなくて、今に至ってしまったのか。

俺は小さい頃から友達というものもいなくて、虐待やイジメがあったときも俺はいつも「一人」だと思っていた。

けど違った。本当は、俺を誰よりも考えていてくれていて、そして心配していた人がいた。俺はその人に憧れていて、そういう人間になろうと思った人であった。一番身近にいた「兄」という存在という人物がいたということを。

「さて、そろそろ面会時間が終わりそうだから帰るな。」

ふと気づいたら、話始めて一時間になろうとしている。

「そうだな。また来てな。」

「いいや、俺はもう会わない。次会うときはここを出た時だ。それまではおさらばだな。ちゃんと真面目に過ごせよ。」

「分かったよ。相変わらず口うるさいな。」

でも内心嬉しかった。昔はよくこんなやり取りしていたから、凄く落ち着く自分がいる。

「はいはい。…じゃあまたな。」

そう言い、兄は微笑みながら部屋を出た。

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