第5話:元魔王の自己紹介は盛り過ぎ?イケボすぎて耳溶けるんですけどぉ!?
闇市場の怪しい老婆の前で、ついに会話が成立した凛愛とチュンペー。
チュンペーは偉そうに胸の羽を膨らませ、伝説のイケボを響かせる。
『……フン、ようやく言葉の壁が消えたか。よく聞け、バカ人間。我が名はクロウヴァルド・シルフェリウス。魔界を統べる黒翼家の当主であり、かつてはこの世界を震え上がらせた魔王その人だ。五百年前、卑劣な弟の呪いによって――』
「待って待って、ストップ! チュンペー、今のもう一回! もう一回、溜めてからの『バカ人間』って言って!!」
『……あ? 我の話を聞けと言っているのだ、このバカ人間』
「っ……!!(ビクッ)……やっば!! 今の『あ?』のトーン、ガチで天才! 脳が直接マッサージされてるみたい……っ! 雀なのに声帯だけSSRすぎて耳溶けるって〜!!」
凛愛は顔を真っ赤にし、両手で自分の頬を押さえて悶え始めた。
チュンペーの低く冷徹な「バカ人間」という響き。
それが耳を抜けるたび、凛愛の脳内にバキバキ腹筋のクールイケメンが自動生成され、彼女のM気質を激しく刺激する。
『……貴様、我の話を微塵も聞いておらんな?』
「聞こえてるよぉ! 元魔王サマでしょ? 設定盛りすぎでしょー、ラノベの読みすぎ? 爆笑なんだけどぉ!」
『……信じぬというなら、見せてやろう』
チュンペーの瞳が深紅に輝いた。
小さな体の周囲に黒い稲妻が走り、大気がビリビリと震える。
闇市場の薄暗い空気が一瞬、張り詰めた。
「っ……マジ……?」
凛愛が思わず息を呑んだ、その瞬間だった。
スカッ、と空気が抜けるような音。
雀の全身を覆っていた黒雷は霧散し、あとに残ったのは小刻みにプルプル震える小さな体だけだった。
「プッ……え?え?震えただけぇ?! カワイイ〜❤︎」
『……っ、黙れ!! 今は呪いで魔力が封じられておるだけだ!! 本来の我ならば、この程度…』
「はいはい、元魔王サマね! 設定盛り盛りのカワイイ雀ね!」
『貴様ぁ……!!』
チュンペーが怒りで羽をバサバサと広げ、凛愛の頭を嘴で突きまくる。
「いたたたっ! 分かった分かった! 元魔王!
信じる信じる! あー、もう! それより録音したい! 動画撮りたいよぉぉっ!!あぁぁ、スマホ死んでるのマジで一生の不覚……」
凛愛は恍惚とした表情から一転、真っ暗なままの愛機を見て崩れ落ちた。
「これ直んないとあたしマジで死ぬ。ログボも途切れるし、フレンドに『あのギャル引退したw』とか思われるのガチで無理……ねえ、チュンペー、これ直せるトコないの!? 魔法で充電とか、そういうチート無いの!?」
『……フン、この『板』か。我の魔力を流してもいいが、構造を知らぬ。下手に触れて壊れても文句を言うなよ?』
「え、あんた魔力ないじゃん(笑)! 運営に問い合わせできない世界だし! 確実なやつ、確実な業者教えて!!」
『くっ…おのれ!』
チュンペーは、ため息をつくが凛愛がこの板に執着しているのは事実。
これが動かねば、この女の士気はゼロのままだろう。
『……チッ、面倒なヤツだ……おい、いつまで座り込んでいる!東側の魔導区だ。あそこの工房なら、魔導具の修理や魔力変換の知識を持つ変人がいる。行くぞ、バカ人間』
「りょ!! ついて行きます、魔王(笑)サマ!」
チュンペーの罵倒を栄養にして、凛愛の足取りは驚くほど軽くなった。
目指すは、魔法の淡い光と煙突が立ち並ぶ、職人の街・魔導区。
そこで凛愛を待っていたのは、スマホの運命を変える「変人エルフ」との出会いだった。




