第4話:中身は超絶イケボ!? チュンペーに「バカ人間」って呼ばれるの、ガチで優勝なんですけどぉ❤︎
「……うーわ、ガチで雰囲気ヤバすぎて、メンタル削れるんですけどぉ……?」
チュンペーに髪を引っ張られ、凛愛がたどり着いたのは、城壁に近い薄暗い路地――闇市場だった。
不気味に発光する液体や、呪いのアイテムのような骨が並ぶ通りに、凛愛はビビりながら肩をすくめる。
「ねえチュンペー……ここ、絶対初心者エリアじゃないよね? 闇ギルドとかあるトコ? あたしみたいなゴミステ来たら一瞬で詰む場所じゃん!」
凛愛が、貧弱なステータスを確認しようとした。
「えっ…あっ!」
手に持っていた唯一の希望が、プツンと消えた。
電源ボタンを押すが画面には何も表示されない。
「……嘘……待って……やだやだやだ!! 落ちた! 落ちちゃったんですけどぉ!!」
凛愛は道端にへたり込み、狂ったようにスマホを振り回し電源ボタンを連打する。
だが、相棒のスマホは二度と光を灯さない。
「終わった……ステータスも見れない、ログボも取れない……あたしの人生、ここでサービス終了……オワタ……」
絶望のあまり、凛愛はスクールバッグを抱きしめてポロポロと涙をこぼした。
そんな彼女の横で、チュンペーが素早く動く。
怪しげな品が並ぶ、露店の棚に置かれていた古びた羊皮紙――獣語理解の巻物を器用に足先で掴むと、老婆の目の前へとバサリと運んだ。
さらに、凛愛のスクールバッグのチャックをこじ開け、お菓子を撒き散らし、そこから金貨を一枚、口に咥えて差し出したのだ。
泣きながらも半目になった凛愛が、ぼんやりとそれを見ていた。
(………ちょ、お菓子……)
「……ほうっ!なんとも賢い鳥じゃ」
老婆はしわがれた声でそう言い、金貨をつまみ上げてしげしげと眺めた。
「これはね、飼い主とペットだけ、会話ができる様になる代物さ……聞いちゃいない様だがね」
それからニヤリと口の端を上げ、巻物を凛愛の目の前でパッと広げる。
「雀とは、珍しい組み合わせじゃ……代金は頂いたよ、ちゃんとね……フッヒッヒ」
瞬間、青い魔法の光が溢れ出し、凛愛とチュンペーを包み込む。
「あぁ〜ん!オワタぁぁ……あわぁ!? なに、眩しっ……!?」
眩しさに目を閉じた凛愛。
その耳に、それまでは鳴き声にしか聞こえなかった音が、雷に打たれたような衝撃と共に響き渡った。
『――おい。聞こえるか、このバカ人間』
「…………はっ!?!? え、待って、誰!? 今……誰が喋った!? 耳溶けるんですけどぉ!?」
凛愛は跳ね起き、周囲をキョロキョロと見渡す。
脳内ではすでに、黒髪ロングで切れ長の目をした、腹筋バキバキの超絶クールイケメンが自動再生されていた。
「イケメンおる!? どこ!? 姿隠して助けてくれる系勇者様!? どこですかぁー!」
凛愛は即座に目を閉じ、恍惚とした表情を浮かべる。
『……目の前だ、バカ人間。貴様の頭の上にいる、この我が喋っているのだ』
凛愛が目を開けると、そこには相変わらずの、マスコットのように丸い雀――チュンペーが、偉そうに羽を整えていた。
「え……えぇぇぇぇ!? チュンペー!? 今の?チュンペーの声なの!? 雀なのに……!!」
『チッ!ようやく通じたか、我だ。我が魔界の深淵なる魔王、クロウヴァルド……』
「やーーーーーばーーーーーい!! ギャップ、エグいってぇえ!!」
凛愛は叫びながら、チュンペーを両手で包み込むように優しく持ち上げた。
見た目はただのスズメなのに、声はガチで抱かれたい系イケボ。
「待って、最高!ギャップ萌え限界突破なんですけど! チュンペー、キミぃ〜最高じゃん❤︎」
『お、おいっ、離せ! 貴様、不敬だぞ!』
「はいストップ! チュンペー、ちょっと黙って! あたし、今から目閉じるから。頭ん中でイケメン再生するから……はい、もう一回バカ人間って呼んで? 早く! お願い!」
『貴様……』
「いいから早く! はい、目閉じた! セリフ、カモン!」
『…………勝手にしろ! この……バカ人間』
脳内でイケメンが自分を見下し、極上の低音で罵ってくれる。凛愛は「ふぉぉぉ……❤︎」と奇声を発しながら身悶えた。
「ゆーしょー……! ガチで優勝なんですけど! 言葉通じるようになって、あたしの異世界生活、完全勝利フラグ立ちまくりなんですけどぉぉおぉ!!」
『……前言撤回だ。言葉が通じない時の方が、まだ平和だったかもしれん』
チュンペーは遠い目をした。
イケボで「バカ人間」と罵倒された快感に、凛愛のドM気質が、今この瞬間に完全に目覚めた。
かくして「バカ人間」という言葉は、この世界で最も甘い罵倒になりました。
五百年前、同じ言葉で勇者の隙を生んだ魔王は、今や雀の姿で途方に暮れている。
歴史は繰り返すのか、それとも――。
チュンペーはまだ、知らない。
第5話お楽しみに!




