第3話:勇者様、あたしに似すぎてて草……?
「……ちょっと待って。これ……あたし?」
像に近づくほどに、その顔立ちがはっきりと見えてくる。
凛とした表情で剣を構え、風にたなびく髪を後ろに束ねた少女の立像。
五百年前の魔王戦争を終結させたと謳われる、伝説の勇者『セリア』の姿だ。
「……あたしがコスプレしてポーズ決めたら、ほぼ完全一致じゃん。ガチで激似なんですけどぉ……」
肩の上のチュンペーが、ぴたりと動きを止めた。
(……! 言われてみれば「あの女」に瓜二つ……?)
確かに、似ている。
あの忘れもしない勇者セリアと、今目の前でヘラヘラとピースサインを掲げている「バカ人間」の造形が、不気味なほどに重なって見えてしまったのだ。
チュンペーの胸の奥で、500年前の記憶が揺れた。
――まさか。
「ゆーしょー! とか言ってる割に、あたし、モブどころか村人A以下のスペックだし……あっ! もしかしてこの像、未来のあたし?! 転生ボーナスで後からこうなる感じ!? ……って、うーわ、カメラ機能まで無くなってんじゃん! 映え写真撮れないとかマジ終わってるんですけどぉ!!」
絶叫してスマホを振り回す凛愛。
チュンペーは、一瞬でも「あの勇者」を幻視した自分に呆れ果て、冷静に首を振った。
『チチッ……(……いや、気のせいだな。あんな崇高な女が、こんな騒がしいバカのわけがない)』
「はぁ……つかれた。昨日夜更かしして、転生して、ギルドで笑われて……あたし今日どんだけダメージ受けてんの……」
噴水の縁にへたり込み、凛愛はスクールバッグを膝に抱えてうなだれた。
目の下にうっすらクマが滲んでいる。
ゲーム夜更かしの疲れが、まだ抜けていないところに、ギルドで爆笑されたのが追い打ちをかけた結果、メンタルは既にHP1桁だった。
「……あ、そだ。ギルドはダメだったけど、この金貨があれば宿屋くらい泊まれるよね。とりあえず横になりたい……マジで横になりたい……」
チュンペーが頭をこつんと突く。
「いたぁい……分かった分かった。動く。動きますよ……」
重い体を引きずるように立ち上がり、凛愛はスクールバッグを肩にかけ直した。
「よーし、まずは宿屋! セーブポイント確保してから考えよ!」
その瞬間だった。
チュンペーが凛愛の髪の毛を、ぐいっと力強く引っ張った。
それも宿屋とは真逆の方向へ。
「!….いたたたっ! 宿屋そっち?」
『チチチッ!(うるさい!宿屋は後だ、まず動け)』
チュンペーは返事の代わりに、もう一度ぐいっ!容赦がない。
「わ、分かった! 分かりましたぁ! 引っ張り方がドSすぎるんですけどぉ?」
抵抗も虚しく、凛愛は引きずられるように歩き出した。
チュンペーが向かわせようとしているのは、大通りから外れた薄暗い路地の奥。
城壁に近い、どこか怪しい雰囲気が漂う方角だった。
「……え、なに、あっち、雰囲気ヤバくない? ちょっ、待って待って、ヤバい宿連れてく気ぃ……?!」
『チチッ!(黙ってついてこい、バカ人間)』
こつん。
「痛いってっ……りょ」
勇者像はただ静かに、渋々歩き出す二人の背中を見送っていた。
勇者像の前で「激似じゃん」とピースサインを決めていた少女が、五百年後に何をもたらすのか――それをまだ、誰も知らない。
チュンペーでさえも。




