第20話 : 必然の召喚(ログイン)――あたしが勇者とか、マジで人生無理ゲーすぎる!
グラディアスが消えた後の静寂の中、しばらく誰も口を開かなかった。
エルドリンが眼鏡を押し上げて、森の空気を確かめるように深く息を吸った。
「……吾輩、一つ聞いてもいいかい」
「……はい」
「なぜ七大貴族が、こんな場所に来たんだ。理由があるはずだろう?」
凛愛はアルメリアの腕の中で、しばらく黙っていた。
チュンペーが髪の中でじっとしている。
「……話します」
ぽつり、と言った。
⸻
チュンペーの正体が、元魔王クロウヴァルド・シルフェリウスだということ。
魔界七大貴族を従えて魔王争奪戦に勝利すれば、チュンペーの呪いが解ける。
その代わりに、自分を元の世界に帰してもらうという契約を結んだこと。
アザエルが「人間を連れてきてトップに立たせてみろ」と挑戦してきたこと。
だから、グラディアスが来た。
特別枠として召喚された人間を、自分の目で確かめに来たのだということ。
話し終えると、森が静かだった。
エルドリンは腕を組んで、難しい顔をしていた。
アルメリアは何も言わなかった。
ただ、凛愛の肩に置いた手を、ゆっくりと動かしていた。
「……そうか」
エルドリンがぽつりと言った。
「魔界の王が……そんなことに、なっていたとは!驚きだね!ビックリだね!吾輩」
「知ってたんですか?チュンペーのコト」
「まぁ〜名前だけはね。五百年前、魔界を統べていた魔王だ。ある時突然、歴史から消えた……吾輩も詳しくは知らなかったがねぇ」
エルドリンはチュンペーをじっと見た。
チュンペーは髪の中で動かなかった。
『……余計なことを』
少しだけ気まずそうに、短くそれだけ言った。
いつも能天気な凛愛も、軽口すぎたかも、とバツが悪そうにした。
そこへ、アルメリアがぽつりと漏らした。
「……キミがこの世界に召喚されたのは必然かもね」
凛愛は顔を上げた。
アルメリアの瞳が、深く、どこか哀しい光を宿していた。
「リア。さっきグラディアスが言おうとしたこと……私も、薄々感じていたんだ」
「……え?」
「キミは、かつてこの世界を救った『勇者セリア』に、驚くほど似ている。見た目だけじゃない、魂の波長の様なものまで似ている…」
「え、勇者……? あたしが? 冗談キツすぎなんですけどぉ……! てか、セリアに会った事あるんですか?」
「冗談じゃないよ……千年以上も生きてたら、それなりにね?」
アルメリアは静かに、でもはっきりと言った。
「……今すぐ答えは出なくていい。でも、いつかちゃんと確かめる必要がある。君がこの時代に呼ばれたのが、偶然なのかどうか」
「……クロウヴァルドが最も運命の強い魂を召喚した、とすれば」
エルドリンが眼鏡を押し上げながら続けた。
「……それが勇者の生まれ変わりだったとしても、吾輩は驚かないね。やったね、運命!!」
「やったね!じゃないんですよ……」
凛愛は力なく突っ込んだ。
でも、胸の中がざわざわしていた。
勇者セリアの生まれ変わり……自分が。
「……今は、考えすぎないようにします」
「うん、それでいいわ」
アルメリアが微笑んだ。
「それより、明日の朝にはバッグの無限収納化の加工が完成する。取りに来て」
「あ……でしたね、ありがとうございます!」
「それと」
エルドリンが怪しげな工具を取り出しながら割り込んできた。
「君の付け爪にも、魔力を増幅・安定させる特殊な魔導加工を施しておこう! 魔力0を補って余りある、超高効率の触媒にしてあげるからねぇ! やったね! 吾輩!!」
「え、ネイルに魔導加工!? ちょっ、マジですか?」
「そぉだよぉ!強化するんだよ! やったね!」
「やったね!じゃないよ!」
アルメリアがエルドリンをぴしゃりと制した。
「……リアの付け爪は繊細な装備だから、丁寧にやること、わかってる?」
「もちろんだとも! 吾輩に任せなさい!!」
スマホ、ネイル、バッグ。
凛愛のギャル装備が、次々と魔導兵装に変わっていく。
「……チュンペー、明日からマジで頑張るから!」
髪の中から、赤いマフラーを揺らしてチュンペーが顔を出した。
『フン、勇者の再来か…まさかな』
「でしょ!? あたしが勇者とか、絶対ないじゃん!」
『……だが』
チュンペーは少し間を置いた。
『……貴様が、ただのバカ人間ではないことは、我も認めざるを得ないようだな』
「それって褒めてる?」
『……明日から気は抜けんぞ』
「おっけ、受けて立つし! 最強の成り上がり、見せてやるんだから!」
凛愛は夜空を見上げて、ぎゅっと拳を握った。




