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第2話:初期ステ低すぎ!バグりすぎてて草も生えない?

アヴェントリアの城門をくぐった瞬間、凛愛の足が止まった。


石畳の大通りが、はるか先まで伸びている。

両脇には色とりどりの旗を掲げた店が軒を連ね、威勢のいい売り声と知らない言語が飛び交い、香辛料と革と、どこかから漂う焼き菓子の甘い匂いが混ざり合っていた。


空は青い。

でも光の色が、どこか違う。

太陽より少し白くて、影の落ち方が柔らかい。


「うわぁ〜!……ガチでRPGの街じゃんっ!解像度ヤッバ……」


行き交う人々の中に、耳の尖ったエルフ、分厚い鎧を纏った戦士、背中に巨大な剣を担いだ獣人。

凛愛が今まで画面の中でしか見たことのなかった存在が、普通に、当たり前のように歩いていた。


人混みが苦手な凛愛は本能的に壁際へ寄りながら、それでも目だけは忙しなく動いていた。


露店に並ぶ色鮮やかなポーションの小瓶、光を受けてきらめく魔石、見たこともない形の果物。

どこを切り取ってもRPGの街そのものだった。


「見て見てチュンペー! あの人、武器持ってる! ガチの冒険者じゃん! ……ってことは、まずはあそこに行くしかないよね? チュートリアルの基本中の基本、冒険者ギルド!」


『チチッ!(……ふん、まずは己の無力さを知るがよい。その細腕で何ができるというのだ)』


チュンペーが頭の上で短く鳴いた。どこか呆れたような、諦めたような鳴き方だった。


「……なんか反対してる?ま、いっか!ギルドに決まりでしょ!」


人混みを壁際でモジモジと避けながら、凛愛はギルドの看板を探した。

剣と盾が交差した紋章、石造りの、やたらと威圧感のある建物。


「……あれじゃん」


凛愛は意を決して、扉を押し開けた。

(た、たのもー…)


ギルド内は、荒くれ者たちの熱気と酒の匂いが立ち込めていた。


受付にいたのは、透き通るような肌と冷たい瞳を持ったエルフの女性だった。

凛愛の「ギャル全開」な身なりを一瞥し、無機質な声で告げる。


「新規登録ですね。あちらの魔導水晶に手を置いてください。あなたの資質を数値化します」


「あ、はい……りょ、了解です……」


言われるがまま、凛愛は震える手で水晶に触れる。

瞬間、水晶が淡く光り、スマホの画面と同期するように空中にステータスが表示された。


力:1 体力:1 素早さ:3 知力:2 魔力:0 運:10


ギルド内が一瞬、静まり返った。

受付の女性は眉一つ動かさず、ただ静かに、そして残酷な宣告を下した。


「……お引き取りください。当ギルドでは、農作業すらままならない数値の方は登録できません」


「……えっ……マ、あの……」


「力1、体力1。赤ん坊でももう少しマシな数値が出ます。ここは遊び場ではありません。死にたくなければ、二度と来ないでください」


その冷徹な一言に、周囲の冒険者たちがドッと沸いた。

「ギャハハ! 『力1』だってよ! 武器も持てねえじゃねえか!」

「おい嬢ちゃん、そのパンパンに膨らんだカバンの中身は何だ? 宝石か? 宝石商の回しもんかよ!」


一人の男が、スクールバッグからはみ出したカラフルなグミの袋を指差した。


「お、お菓子……なんですけど……」


凛愛が消え入りそうな声で答えた瞬間、ギルドを揺らすほどの爆笑が巻き起こった。


「お菓子!? ギャハハハハ! ピクニックなら場違いだぜ?」


「宝石かと思ったらただの飴玉か! 『力1』の甘党冒険者様だ!」


(……っ、うーわ……。チュートリアルで門前払いとか、マジ聞いてないんですけどぉ!! 運営、難易度設定ミスってない!?)


内心で激しく絶叫しながら、現実には声も出ない。

「……し、しつれーしましたぁ……っ」

顔を真っ赤にして、凛愛は逃げるようにギルドを飛び出した。


大通りまで走って、建物の陰で大きく肩で息をつく。

「……ひどっ!ガチでひどい。あたし、勝ち組じゃなかったの……」


肩の上で、チュンペーがどこか「見たことか」と言いたげに羽を整えた。

凛愛は半泣きになりながら、スマホのステータス画面を睨みつける。


「……見てなさいよー!絶対強くなって、あの受付の人に『ゆーしょー!』って言わせてやるんだから……!」


顔を上げた瞬間、凛愛の視線が広場の中央で止まった。

人々が行き交うその真ん中に、白い石造りの像が立っていた。

長い髪を風になびかせ、剣を天へ掲げた、一人の少女の像。


凛愛はゆっくりと歩み寄った。近づくほどに、その顔立ちが見えてくる。


「……え」


思わず足が止まった。


「……ちょっと待って。これ……あたし?」


肩の上のチュンペーが、ぴたりと動きを止めた。小さな体で、じっと像を、そして凛愛を、見比べる。


胸の奥で何かが揺れた。500年前の記憶が、一瞬だけ顔を覗かせた。


――まさか。


「ねえねぇ!チュンペー、あたしに似てない?ウケるんだけどっ!」


『…………』


答えは返ってこなかった。ただ雀は、像から目を離さないまま静かに凛愛の肩に爪を立てた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


ゴミステで門前払いを食らって、半泣きで飛び出して、それでも「絶対強くなってやる」と言える、ヤケになるでもなく、折れるでもなく、ちょっと半泣きで、でも諦めない。そういう強さが、たぶん一番しぶとい。

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