第18話:スマホ……え、あっさりすぎない?守ってあげたい案件なんですけど!
シェイドに教えてもらった場所、外縁区の東の路地。
廃墟になった宿屋の裏手に、人影発見。
フードを目深に被った、小柄な女性。
獣耳がぴんと立っていて、太いしっぽがゆらりと揺れている。
手の中には、あたしのスマホ。
女性はそれをひっくり返したり、画面を押したり、光にかざしたりして、不思議そうに眺めていた。
「……なんだコレ? 光る、光るだけか……押しても何も起きない、叩いても何も起きない……価値、あるか? ないか?」
独り言が聞こえる。
(光るだけとか失礼しちゃうんですけどぉ!あたしの相棒は、世界一の高性能デバイスなんですけどぉ!)
凛愛は深呼吸をして、路地の入り口から声をかけた。
「……あ、あの……!」
女性がぱっと顔を上げた。
鋭い目が、凛愛を見る。
「……なんだ、アンタ」
「そ、それ……あたしのです……! 返して、ください……!」
女性はスマホと凛愛を交互に見た。
「……アンタが持ち主?」
「はい……!」
女性は少し間を置いて。
「はい」
ぽいっと、スマホを放り投げてきた。
「えっ!?」
慌てて両手でキャッチする。
(マジ焦るんですけどぉ! 落としたらどうすんの!)
「……え、いいんですか? こんな、アッサリ?」
「いらん」
「い、いらん……?」
「コレ、噂なってたから、ウチの手下が面白そうだって盗ってきた。でもウチは即換金できるモンがいい。これ、押しても何も起きないし、光るだけだし、鑑定時間かかる、だから、いらん」
凛愛は呆気にとられながら、スマホを胸に抱えた。
(価値わかんないとか、この世界の住人、ガチで遅れてるんですけどぉ!結果オーライ!)
「……そ、そうですか……」
『……話が早くて助かった』
チュンペーが静かにつぶやく。
凛愛はスマホを確認して、傷がないことにほっとしてから、ふと思い出した。
「あっ、あの……! アンタの情報を聞くのに、銀貨2枚かかったんですけどぉ! マジ大金なんですけどぉ!」
女性が少し眉を上げた。
「……情報屋に払ったか」
「払いました! シェイドさんに! 銀貨2枚! 痛かったんだからね!」
女性は少しの間黙って、それからぼりぼりと頭をかいた。
「……すまん」
「すまんで済む話じゃ……」
「いま、カネない」
「え」
「かわりに、コレやる」
女性が懐から取り出したのは、小さな金属のプレートだった。
裏に、見慣れない紋章が彫り込まれている。
「……なんですか、これ?」
「盗賊ギルドの印だ。それ持ってりゃ、ウチの連中には二度と手を出させない」
凛愛はプレートをじっと見た。
「……これ、あれば盗まれない? ガチ?」
「ウチに関しては。他の連中は知らん」
「……それ、かなり大事なやつじゃないですか?」
「侘びだ」
凛愛はプレートを握りしめて、なんとも言えない顔をした。
「……銀貨2枚と、プレート一個が、等価なのかは全然納得してないですけどぉ……まあ、いいです。ありがとうございます」
「礼いらん……アンタ、どこの人間?」
「魔導区でバイトしてます……最近来たばかりで……凛愛っていいます」
「魔導区……エルドリンのとこか?」
「知ってるんですか?」
「たまにスラムの子にモノくれる。変人だが、悪い奴じゃない」
凛愛は少し驚いた。
「……エルドリンさん、そんなことしてたんだ。意外……」
「……アンタも変わった人間だな。外縁区に一人で来るとは」
「コレ無いとログアウト同然だし、チュンペーがいるから、大丈夫だし」
女性はチュンペーをちらりと見た。
赤いマフラーとハートのネックレス。
「……その雀、アクセサリーしている……変わってる」
「あたしが貢いだ……じゃなくて、買ってあげたんです。めちゃくちゃ似合ってるでしょ!」
チュンペーが「チチッ」と短く鳴いた。
女性は少しだけ、口の端を上げた。
「ウチはラグ……まあ、気をつけて帰れ」
それだけ言って、踵を返した。
凛愛はその背中を見送って、大きく息を吐いた。
「……思ってたより、全然怖くなかった。獣耳女子、意外とアリかも……」
『……義賊というのは本当だったようだな』
「うん……なんか、悪い人じゃなかった。ていうか、あのプレート、本当にいいのかな。大事なやつだったりしない?」
『……少なくとも、もう盗まれる事はない』
「そっか……ただいま、スマホ」
もう一度、スマホをぎゅっと抱えた。
画面が光るだけで、これほど安心するなんて。
廃墟の路地を抜けて、大通りへ向かう細道。
そこに、小さな影があった。
薄汚れた服を着た、小さな女の子が、壁際にしゃがんで膝を抱えていた。
丸くて大きな目が、凛愛を見上げた。
「……」
何も言わない…ただ、じっと見ている。
凛愛は思わず立ち止まった。
「……あの、ひとり?」
女の子は小さく、こくんと頷いた。
「……ここに住んでるの?」
また、こくん。
凛愛はしゃがんで、女の子と目を合わせた。
薄い体に汚れた手、でも、目だけが澄んでいた。
(……この子)
胸の中で、何かがじわっと動いた。
モブじゃない。
根拠なんてなかった。
でも、ゲーム脳の凛愛が、はっきりそう感じた。
重要NPC確定。
「……名前、ある?」
女の子はしばらく黙って、それからかすかな声で言った。
「……フィオ」
「フィオちゃんか……あたし、凛愛。」
フィオはまたじっと凛愛を見た。
凛愛はスクールバッグを漁って、キャンディーを一粒取り出した。
「……はい!甘いよ、食べな」
フィオの小さな手に、そっと乗せる。
フィオは少しの間、キャンディーを見つめてから、ぱあっと顔を輝かせた。
「……また会おうね」
立ち上がりかけて、凛愛はふと振り返った。
「フィオちゃん、ご飯、ちゃんと食べてる?」
フィオは少し間を置いて、首を横に振った。
凛愛の胸がぎゅっとした。
「……そっか……」
何かしてあげたかった。
今は、これ以上どうすればいいか、わからなかった。
「また来るね」
フィオがこくんと頷いた。
凛愛は歩き出した。
『……おい』
「……なに?あんな子見ちゃったらさ……ほっとけないじゃん!!チュンペーに言われなくても、わかってるし」
『……何がわかっているんだ』
「あの子、また会う!絶対また会う!重要イベント発生の予感しかしないもん」
チュンペーは何も言わなかった。
ただ、赤いマフラーをふわりと揺らして、凛愛の髪の中に潜り込んだ。
現在のステータス
• 名前: 星凛愛
• 状態: スマホ回収で安心、でもフィオちゃんのことが気になって情緒不安定
• 獲得アイテム: スマホ(無事回収)、盗賊ギルドの印(盗難防止効果あり)
• 出費: 銀貨2枚(情報料・未回収)
• 新たな出会い: 盗賊頭ラグ(獣耳サバサバ系)、孤児フィオ(守ってあげたい案件)
色々な経験を積み成長していくんです。
情に熱いヤツって良いですね。




