第14話:魔界の常識、ゼロなんですけど!? 図書館とか、あたし絶対無理なやつじゃん
バイト初日を終えた夕方。
工房を出た凛愛は、背中を大きく反らせて伸びをした。
「つっかれたぁ……! エルドリンさん、マジでマシンガントークじゃん。解説止まんないじゃん。耳がパンクして、脳みそ溶けたんだけど!」
『……これ以上バカになられても、困るぞ』
「ちょっ!!も〜❤︎……じゃない! 魔導回路の説明とか三回リピートしてたじゃん! しかも毎回ビミョーに内容アプデされてるし、ついていけないんですけどぉ!」
『……それだけ研究が深いということだ』
「フォロー優しすぎ!チュンペー、エルドリンさんのこと好きでしょ」
『……好きではない。有能だと言っているだけだ』
「同じじゃん。推しへの愛じゃん」
『オシ……?なんだそれは』
凛愛はケラケラ笑いながら、オレンジ色に染まった石畳を歩いた。
「うわぁ……きれい!夕方も、この街エモすぎ……」
『……見惚れているところ悪いが、明日の予定を確認するぞ。午前はバイト。午後は図書館だ』
凛愛の足が、ピタッと止まった。
「……図書館」
『そうだ』
「……それって、つまり、お勉強ってこと?」
『そうだ』
「…………ムリ。絶対ムリ。ログアウトしたい」
『無理ではない』
「無理じゃん! あたし、勉強とか人生で一番避けてきたやつだし! 学校の成績、ガチで底辺だったし! 知力2の意味わかってる!? チンパンジーよりバカかもしんないだよ!?」
『バカなのは、わかっている。だから鍛えに行くんだ。貴様は体を動かしてレベルが上がっただろう。頭も同じだ』
「……えぇー、それ脳筋理論じゃん……何を勉強するワケぇ?」
『まず魔界の基礎知識だ。種族、危険地帯、瘴気……何も知らないまま乗り込めば一瞬で詰む。それからスマホを触媒にした魔法の基礎理論もだ』
「……魔法?あたしが、魔法……?」
『可能性の話だ。だが知識がなければ、その可能性すらゼロだぞ』
凛愛は少し黙った。
『このスマホは今、周囲の環境魔力を吸収して動いている。だが持ち主の魔力が育てば、もっと安定する。
貴様の魔力が育てば…だが』
「がんばるっ……魔法、使いたいっ!!エフェクトとか盛り盛りにしたいし……わかった、行く!」
『……当たり前だ』
翌日の午後。
中央図書院は、王門区の一角にそびえるガチで壮大な石造りの建物だった。
「……うわぁ……なんか、RPGの図書館だぁ!本が浮いてる!雰囲気だけは良いんだけどなぁ……勉強がなぁ…ちょっと、テンション上がったけど」
『……さっきまで無理と言っていたが?』
「雰囲気はいいの! 勉強が無理なのっ!」
チュンペーが嘴で示したのは、魔界基礎知識の棚だった。分厚い本が並ぶ光景に、凛愛の顔が引きつる。
「う〜わっ……字、多っ! 図とかないの? 挿絵とかないの? ソシャゲのチュートリアルみたいに、ボイス付きで説明してくんないの!?」
『……おい、一ページ目を声に出して読め。小声でいい、その方が頭に入る』
「マ?……え〜、ヤダけど、わかったよ……」
凛愛はぼそぼそと読み始めた。
「……魔界七大種族は、それぞれ固有の魔力属性と……身体的特性を持ち……古代より魔王の……支配下に……え、支配下? 魔王って、マジで全部支配してたの?」
『……そうだ。七大種族の頂点に立ち、全体の均衡を保つ。それが魔王の役割だ』
「それ、すごくない? チュンペー、そんな大変なことしてたの?」
『……煩わしいことの方が多かった。竜族は力押し、妖精族は気まぐれ、死霊族は理屈っぽい。好き勝手言う奴らばかりだからな』
「……なんか、普通にブラック企業の社長じゃん。大変そう……」
『……とるに足らぬ些事だがな』
凛愛はくすっと笑った。
「チュンペーって、魔王だったのに苦労人だったんだね……ねえ、本当に戻りたい? 」
チュンペーは少し間を置いた。
『……戻らなければ意味がない。あの座を弟に奪われたまま終わるのは、我の……プライドが許さん』
「プライド、か…あたし、ちゃんとチュンペーを魔王に戻してあげられるかな?ゴミステだし、知力2だし……」
『……貴様はウルフに七回追いかけられても諦めなかった。今日も図書館に来た。それで十分だ』
凛愛は本から顔を上げて、肩の上のチュンペーを見た。
「……チュンペー、たまにエモいこと言うよね!ズルいわぁ……」
『エモイコト?……いつも正しいことを言っているだけだ』
二人の間に、静かな笑いが流れた。
二時間後。
「だぁぁるっ……つっかれたぁ……頭が爆発して、知力2がマイナスになった気がする……」
『……よく頑張った、及第点だ』
「え、今褒めた!? チュンペー、今あたしのこと褒めたよね!? うれしーんだけど!!」
周りの利用者がチラリと見たので、凛愛は「あ、すません……」と小声になり、そそくさと本を戻した。
帰り道、覚えたことを確認するように呟く。
「えっと……きゅうりゅー14ヨーマダ…吸血族、竜族、獣族、死霊族、妖精族、魔導族、堕天族……であってる?」
『……合っている』
「やった……! メモなくても覚えられた! 知力2、覚醒しちゃったかも!?」
凛愛は心底ほっとした顔をした。
「やっぱRPGの知識って覚え安いな〜……明日は、紙とペン、買おっかな。字、練習したいし」
『……そうだな。読む練習から始めろ。いずれ書けるようになる』
「じゃあそれまでは、全部ガチ暗記じゃん……知力2が泣いてるよぉ……」
『……泣かせておけ。いずれ上がる。……貴様を見ていれば、わかる』
凛愛は照れ隠しに、スマホをバッグにぐいっと押し込んだ。
「……帰りに市場で、あのポーションの瓶、もう一個だけ見ていい? 癒やしが必要なんですけどぉ!」
『……一個だけなら買っても良いぞ』
「やった! チュンペー、大好き!」
チュンペーはため息をついたが、その羽はどこか満足げに膨らんでいた。
現在のステータス
• 名前: 星凛愛
• 本日の収穫: 魔界七大種族の名前、魔力の基礎理論(暗記成功)
• 状態: 脳みそオーバーヒート、でも達成感でちょっとハイ
• 明日の予定: バイト → 図書館(リピ確定)、筆記用具の調達
語呂合わせで魔界七大種族を覚えた少女が、果たして魔王争奪戦に勝てるのか。
チュンペーも、まだわからない。
大嫌いな勉強、でも「いずれ上がる」と言った。
それだけは、本当のことだった。
努力は裏切らない世界です。




