第13話:ただいまスマホ! え、バイトって言った?
三日目の朝。
木漏れ日亭を出た凛愛は、魔導区へ向かう石畳の道を早足で歩いていた。
「ねえチュンペー、今日って絶対スマホ返ってくるよね? ちゃんと返ってくるよね? あの変人エルフ、勝手に分解とかしてないよね? マジ不安すぎて吐きそうなんだけどぉ……」
『……分解はしないと言っていたが』
「『言っていた』ってことは、分解したい欲求と戦ってたってことじゃん! ヤバくない!? 依存とか言われても別にイイし! あたしにとってスマホは相棒……てか、もはや臓器の一部なワケッ!」
チュンペーは何も言わなかった。ただ、凛愛の髪の中で少しだけ羽を動かした。
「なに?引いてんの?無視?無視なの?ねぇ〜?」
ロールス魔導工房の扉を開けると、またしてもガラクタの山がお出迎えだった。
「……ぁ、ぉはようございます……。エルドリンさん、いますかぁ……?」
凛愛が消え入るような声で呼びかけると、工房の奥からガッシャーンと何かが崩れる音がして、銀髪のエルフが転がり出てきた。
「おお! 来たか来たか! ちょうどよかった! 吾輩、今しがた大発見をしたのだよ!!」
「え、あ、はい……あの、あたしのスマホ……」
「それどころではないのだよ! 聞きたまえ! この魔導器は内部の術式が自己進化するんだよ! 持ち主の行動に応じて勝手に書き換わる! 革命だ! 吾輩、三日間一睡もしておらん! やったね! 吾輩!!」
「……え、あの……ど、ゆコトですか?」
「つまり、持ち主の経験に応じて機能が増えていく可能性があるということだよ!」
エルドリンが工房中を飛び回りながら叫ぶのを見て、凛愛は引きつった笑顔でチュンペーに囁いた。
(……ねえ、この人、大丈夫? 完全にキマってない?)
『……大丈夫ではないが、言っていることは本当だ』
(それが一番怖いんですけどぉ……)
ひとしきり叫び終わったエルドリンが、ようやくスマホを取り出した。
「ほら、返してやろう。ただし!」
「ただし?」
「吾輩はもっとこれを調べたい! そのためには持ち主であるお嬢さんが近くにいてくれると都合がいい。吾輩の工房で働いてみないか!? バイトというやつだよ! 給料は銀貨三枚、いや、腕次第では五枚も出そう!」
凛愛はしばらく固まった。
「……バイト。え、あたしが? 接客とかムリゲーなんですけど……」
『悪くない。お前には資金が必要だ。それにエルドリンがいればスマホの改良も期待できる』
チュンペーの助言に、凛愛は小声で反論する。
(でも、あの人怖くない!? 目が完全にイッちゃってるじゃん! 毎日あのテンションに付き合うとか、陰キャへの拷問なんですけどぉ!)
『……慣れろ。お前は昨日、ウルフに七回追いかけられても諦めなかった。エルドリン一人くらい乗り越えられる、やれ』
「やれ………❤︎うん、やるぅ……」
「エルドリンさん、やります。バイト、受けます」
「本当か!? やったね! 吾輩!! では早速、この魔導器を起動して――」
「あ、ちょっと待ってください! まず返して! スマホ!」
ぽいっと渡されたスマホを、凛愛は両手でキャッチした。
「……ただいまぁ、あたしの相棒。マジ会いたかった……」
電源ボタンを押すと、画面が淡く光った。三日ぶりの起動。画面に文字が浮かび上がる。
【ステータス更新】
名前:星凛愛
レベル:1 → 2
力:1→2
体力:1→2
素早さ:3→4
知力:2
魔力:0
運:10
新スキル解放:【逃走の心得】
逃げれば逃げるほど研ぎ澄まされる。発動時、素早さが一時的に上昇する。
「てか、マジでアプリが無い……あ、え?」
凛愛は画面を二度見した。
「うわっ……レベル上がってる! ?スキルまで……って、逃走の心得!? あたしの初スキル、逃げるやつなのぉ!? ウケるんですけど!」
『……ふん』
「ちょっとチュンペー! 逃げれば逃げるほど速くなるとか、あたしのために作られたスキルじゃん! 逃げるのが修行になるとか、あたし最強ルート確定じゃん! ゆーしょー!!」
エルドリンが目を輝かせながら割り込んできた。
「ホォー! 逃走の心得だと……これは面白い! 理論上は無限に速くなれる可能性がある! お嬢さん、将来的には音速を超えるかもしれんぞ!!」
「音速!? やばっ!! あたし、逃げ続けたらマッハで動けるギャルになれるの!? 誰もあたしに触れられないじゃん、マジ無敵!」
エルドリンは興奮で飛び跳ね、凛愛は画面を握りしめてはしゃぎ、チュンペーだけが静かにその成長を噛みしめていた。
(……この程度で浮かれおって、しかし、悪くない)
現在のステータス
名前:星凛愛
レベル:2
力:2
体力:2
素早さ:4
知力:2
魔力:0
運:10
• スキル: 【逃走の心得】(逃げるほど加速する)
• 新たな身分: ロールス魔導工房、バイト初日




