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死んだはずのモブ令嬢ですが、嫌われムーブをしても王子の好感度が下がりません  作者: 杜咲凜


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第5章 ただひとつ気がかりなこと

 学園生活は、拍子抜けするほど平穏に始まった。


 ヒロイン・マリーとの出会いも、劇的でも運命的でもない。

 図書室で本を取り落とした彼女に、シンティアが声をかけただけだった。


「大丈夫? その本、重そうね」

「は、はい……ありがとうございます」


 三言ほど言葉を交わした、それだけ。

 けれど不思議と、最初から距離が近かった。


 クラウディアも自然に輪に入り、いつの間にか三人で行動するのが当たり前になる。


「シンティアって、本当に変なところで肝が据わってるわよね」

「褒めてる?」

「ええ。たぶん」


 立場も、生まれも、背負っているものも違う。

 それなのに、笑うタイミングだけは驚くほど一致する。


 乙女ゲームが始まったはずの学園生活は、シンティアの知っているそれとは、まるで違っていた。


 誰も排除されない。

 誰も孤立しない。


 事件らしい事件は、すべて「起こる前」に消えていく。


 危険察知の感覚は相変わらず曖昧だったが、守るべき人が増えたことだけは、はっきりしていた。

 だが、シンティアにとって重荷でもなく、大切なものを守れるならそれもうれしいことだ。

 

 ――問題は、王太子だった。


 学園に入ってからというもの、彼の距離感が明らかにおかしい。


「今日の昼、時間はあるか?」

「……また、ですか?」


 一緒に食事をするのは、もはや日常。

 視察という名目で街に出れば、当然のように隣を歩いている。


 しかも選ぶ店が、妙に庶民的だ。


「ここ、前から気になっていた」

「王太子殿下が、ですか?」

「殿下はやめてくれ。ここではただのクラウドだ」


 そう言って笑う彼に、シンティアは言葉を失う。


(……普通に、楽しいのが問題なのよ)


 前世がごく普通の庶民だったこの感覚は、むしろ懐かしい。

 けれど、それを「親しみ」として受け取られるのは話が違う。


 嫌われムーブは、完全に機能しなくなっていた。

 むしろ、何をしても好意として処理されている気がする。


(これはもう、努力不足とかじゃないわね……)


 決定的だったのは、卒業パーティーの話が出たときだ。


「その日に、君に贈りたいものがある」


 何でもないことのように言う、その声。


「……贈り物、ですか?」

「ああ。君に似合うものだ」


 ――ドレス。


 言葉にされなくても、意味は嫌というほど分かる。


 それは、表立ったカップル宣言。

 結婚前提の関係。

 そして卒業後は、王妃教育。


 楽しいはずの学園生活の終わりが、シンティアにとっては「選択の期限」になりつつあった。


 クラウド王太子は、時間を見つけてはまたシンティアを連れ出す。

 たぶん、庶民的できさくなところに案内するのは、シンティアが好きだとわかってのことだと思う。

 そして王太子もそういった時間や空間が好きで、平たく言えば、シンティアと王太子の好みは一致していたのだ。

 

「少し歩こう」

「……はい」


 断る理由が見つからないまま、並んで歩く。


 笑っている時間が長くなるほど、逃げ道は、確実に狭くなっていく。


(物語は、もう終わっているはずなのに)


 悪役も、ヒロインも、イベントも。

 全部、乗り越えたはずなのに。


(――どうして、ここからが一番、怖いの)


 物語が終わった、その先に。

 彼がいる。


 それが、何よりの誤算だった。

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