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死んだはずのモブ令嬢ですが、嫌われムーブをしても王子の好感度が下がりません  作者: 杜咲凜


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第2章 嫌われる努力を始めます


 嫌われる。

 そう、シンティアは決めた。


 ――決めた、のだが。


(……わからない)


 どうやったら、嫌われるのだろう。


(やりすぎたら投獄されない?この国、割とそういうとこあるよね?)


 人生で「どうすれば嫌われるか」を真剣に考える日が来るとは思わなかった。


 シンティアは侯爵令嬢である。

 幼少期から、礼儀作法、社交、距離感という距離感を徹底的に叩き込まれてきた。


 自然体で振る舞えば、「感じのいい令嬢」になってしまう。


(これは……かなり不利)


 まず却下したのは、露骨な無礼。


 そんなことをすれば、嫌われる前に父に呼び出される。

 そして母に微笑まれる。


(――あの静かな微笑みは、人生が詰む合図)


 それに、あまりにも露骨な失礼行為は、命の安全すら怪しい。


(嫌われたいだけで、命までは賭けてない)


 そもそも、失礼行為の線引きがよく分からない。

 悪役ムーブは、数少ない人生経験では再現不能だった。


(不器用な性分が、こんなところで牙をむくとは)


 悩みに悩んだ末、シンティアは一つの結論にたどり着いた。


 礼儀は完璧。

 言動は微妙。

 距離感は壊滅的。


(つまり、「悪気はないけど関わると疲れる婚約者候補」)


 よし。

 安全。

 確実。

 そしてじわじわ嫌われる。


 綿密なキャラ設定を練った結果、

 “なんか疲れる令嬢”としての練習を重ね、

 ついに――クラウド王太子との顔合わせの日がやってきた。


 鏡に映った自分の顔を見て、シンティアは満足そうに頷く。


 かわいい。

 うん、かわいい。

 大事なことだから、もう一回言おう。


(かわいい)


 波打つような金髪に、青い瞳。

 主人公にも負けてないんじゃ? くらいの自画自賛、今日は許されたい。


(だってこのドレス、着てみたかったんだもん!)


 鏡の前でにやにやしているシンティアを、侍女たちは温かく見守っていた。


(きっとお嬢様は今日を楽しみにしているに違いないわ)

(徹底的に磨き上げましたからね!)


 ――違う。

 目的は嫌われることだ。


 そして、いざ勝負の時。


 最初の作戦は、好意の過剰表現。


 王城の中庭で、茶会形式の顔合わせが行われた。


(う、これは……!)


 シンティアは思わず目を細めた。


(顔が、強い)


 さすが乙女ゲーム。

 クラウド王太子の顔面偏差値が高すぎる。


 現実でこんな美形を見たことがなく、

 思わず観察に入ってしまいそうになる。


(だめだめ、作戦! 作戦を思い出して!)


 意を決し、王太子に向き直る。


「王太子殿下! 本日もなんとお美しいお姿……いえ、凛々しいお姿でしょう! さすがは次期国王となられるお方!」


(言った!距離感バグった!空気読めてない!)


 これはもう、痛々しい系令嬢に見えるはず――!


(今の私は嫌われポイントを積み上げている……はず!)


 ところが。


「ありがとう。そんなふうに真っ直ぐ言われると、少し照れるな」


 クラウド王太子は困ったように笑った。


(違うーーーー!!)


 引け。

 引いてくれ。

 爽やかに受け止めるな。


 シンティアは畳みかけた。


「や、やはり婚約者となる方は、家格や責任を重く考えるべきですわよね。侯爵家として、王家を支える覚悟は十分にございますし」


(肩書き主義!

 距離感ゼロで王家語り!

 勘違いムーブここにあり!

 さぁさぁ、ドン引きからの嫌われムーブ達成か!?)


 完璧。ふっと内心酔いしれた。

 これで嫌われる。


 ……はずだった。


「君は、ずいぶん真面目なんだな」


 真面目……とは。

 美しい微笑みが眩しい。


(……は?)


 嫌われワードを投げたはずなのに、

 なぜか好感度が上がっている気がする。


(おかしい)


 方向修正が必要だ。


 次の策は――悪徳令嬢・クラウディアの活用。


 本来ならヒロインが標的になるその立場に、

 シンティアは自ら飛び込んだ。


 お茶会に招かれたクラウディアは、

 明らかに敵意を隠さず、シンティアを睨みつけてくる。


(よし、来た)


 わざと一人で行動し、わざと誤解される言動を取り、注意される。


 反論しない、そして落ち込んだふり。


(ぶりっこ作戦!

 嫌な女代表!

 どう?私の作戦は!)


 ――完璧。


 案の定、クラウディアは露骨に苛立ち始めた。


(ガッツポーズ)


 これで王太子も「面倒な女だ」と思うはず。


 その時だった。


「あなた、王子が優しいからって無礼な態度、目に余りますわよ」


「そ、そんなつもりじゃ……」


 わざとらしく目を潤ませる。


(こんなの、さすがに見抜くでしょ)


 王太子は賢い。

 この程度の演技、きっと――


「そこまでにしてもらおう」


(え………)


 王太子が、間に入ってきた。


(いや、違う!!)


 かばうように、シンティアの前に立つ王太子。


(ここ、介入イベントじゃない!!)


「いや、シンティアが驚いているではないか。こういった場に慣れていないのだろう」


 その目が、妙に優しい。


 周囲の視線が変わる。


 ――同情。

 ――庇護。

 ――健気枠。


(違う!!私はそのポジションを狙っていない!!)


 その後も、シンティアは諦めなかった。


 会話は微妙にズレさせ、空気を読まない発言をし、距離を詰めすぎる。


 ーーー結果。


「不器用だが誠実」

「裏表がない」

「王家を真剣に考えている」


(誰だそんな評価を流したのは)


 クラウディアからは完璧に嫌われている。

 なのに、王太子の好感度だけが下がらない。


(なぜ)


 気づけば、初顔合わせから数年が経っていた。

 社交界デビューが近づいている。


 自室の片隅で、シンティアは頭を抱えた。


 嫌われない。

 避けられない。

 むしろ、信頼が積み上がっている。


(おかしい、私の練り上げた作戦が!!)


 物語は始まらない。

 胃だけが痛くなる。


(このままでは、本当に選ばれてしまう)


 シンティアは焦りながら、次の策を考え始めた。


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