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勝者の法 ~文字が読めない俺が、現代刑法とハッタリだけで異種族を完全論破する話~  作者: 田邑 或
第七章『神との契約更新、あるいは泥にまみれた代弁士』
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第四話『神との対峙と、初日の審問』

 昇降機から出た俺たちの目の前に、想像を絶する光景が広がっていた。


 ここは半円形の部屋だった。だが、そこには椅子も机も、何もない。ただ、半円の壁一面が巨大な窓ガラスになっている。

 その窓の外には、俺たちがいる場所よりはるかに下――二十メイルは下だろう――に巨大な空間が広がっていた。


 俺の目に映ったのは、途方もないスケールのデータセンターだった。

 無数のクリスタルのようなサーバー群が規則正しく配置され、それらをつなぐ配線が通信により光を高速点滅させている。まるで無数の星が瞬いているようだった。サーバールームの壁一面には、巨大なモニター画面群が貼り付けられ、数え切れないほどの情報が流れ続けている。


 (これは……巨大なデータセンターだ。俺のいた世界をはるかに超えたレベルの)


 だが、リンネアとガルムにはまったく違う光景に見えているはずだ。

「なんて……神秘的な水晶の洞窟でしょう……」

 リンネアが息を呑んでつぶやく。

「光る蔦が生きているように脈動してる……」

 ガルムも畏怖の念を込めて見下ろしている。

「天空に浮かぶ光の板……神の座にふさわしい光景だ」


 アリルは圧倒的な光景に震え、俺の服の裾を強く握りしめていた。

 この光景を、高い場所から見下ろす形の審判室。まるで劇場のボックス席のような構造だ。


 サトーが俺たちを部屋の中央へ案内しながら説明した。

『審判室へようこそ。こちらでお待ちください。間もなく竜人族のかたがお見えになります』


          ***


 突然、窓ガラスの向こうのサーバー群が一斉に強烈な光を放ち始めた。

 審判室内の床に、巨大な円形のホログラム投影装置が音もなく浮き上がる。

 その装置から、天井まで届くほどの巨大な竜の姿が立体映像として現れた。半透明で、光の粒子が威厳をもって揺らめいている。


 リンネアとガルムは息を呑んだ。

「竜人族……ついに……!」

 二人は畏怖して膝をつく。アリルも震えながら頭を下げた。


 だが、俺だけは立ったまま、冷静に分析していた。


 (なるほどな……ホログラム技術の究極形態か。威厳だけは一流だが、所詮は立体映像だ)


 巨大な竜のホログラムが、重低音の威厳ある声で語りかけてきた。

『田中翔一。代弁士審問を開始する』


          ***


 いよいよ始まったか。俺は姿勢を正した。

「よろしく頼む」


 AIが審問を開始する。表面上は通常の代弁士審問のようだが、どことなく質問が個人的な内容に偏っている気がした。

『まず基本的事項から確認する。君の詳しい出身地について聞かせよ』


 俺は正直に答えることにした。

「俺は別の世界から来た。そこで弁護士をやってて……」


 AIが初めて反応を見せた。

『……別世界? どのような「別世界」か、詳しく説明せよ』


 (別世界転移は珍しいことじゃないのか?)


 疑問に思いながらも、俺は説明を続けた。現代日本の法制度、社会構造、そして俺がここにたどり着いた経緯について。


 AIがさらに追及してくる。

『君の種族における法律についての知識を述べよ』

『代弁士を志望する理由は何か?』

『その「別世界」から、なぜこの世界へ?』


 (ずいぶんと詳しく聞いてくるな。代弁士審問ってのはこんなに根掘り葉掘りするもんなのか?)


 違和感を覚えながらも、俺は質問に答えていく。刑法、民法、憲法の概要。弁護士としての経験。そして、なぜ代弁士になりたいのか。


 AIは俺の回答を注意深く分析しているようだった。

 実際、その巨大な瞳(ホログラムの目)は、俺を一瞬たりとも見逃すまいとするかのように見つめ続けている。


          ***


 そして今度は、付添人たちにも俺について質問を始めた。

『リンネア・カエレスティス。君は田中翔一と共に旅をしてきた。彼の人物像について聞かせよ』


 リンネアは戸惑いながらも答える。

「翔一は……とても聡明で、法的な知識に長けており、どんな困難な状況でも冷静に判断を下すかたです」


『ガルム・ウル・バドス。君から見た田中翔一の行動パターンや思考の特徴は何か』


 ガルムも律儀に答えた。

「あいつは頭の回転が速くて、どんな状況でも冷静だ。それに、弱い者を見捨てない。信頼できる男だよ」


 (……俺について根掘り葉掘り聞いてやがる。代弁士審問って、こんなに細かく人物像を調べるもんなのか?)


 俺の違和感は募るばかりだった。


          ***


 数時間が経過したころ、AIが宣告した。

『本日の審問時間が上限に達した。審問を一時中断し、明朝再開する』


 俺は驚いて声を上げた。

「おい、待てよ。『三日三晩、寝ずに審問を受ける』んじゃなかったのか?」


 AIは機械的に答える。

『それは旧い慣例での話だ。現在の審問では、被審査者の知的効率を最適化するため、適切な休息と栄養補給を推奨している。効率的な審問には、良好なコンディションが不可欠である』


 リンネアが呆然とした。

「休息……食事……?」

 彼女の中で、神聖な代弁士審問のイメージが崩れていく。


 AIが続けた。

『サトーが宿舎へご案内する。明朝、審問を再開する予定だ』


          ***


 サトーが一行に向かって告げる。

『審問は明朝再開となります。宿舎へご案内いたします。お食事とお休みの準備が整っております』


 (宿舎だと? 食事? まるでホテルのサービスじゃねえか。一体何を考えてるんだ、こいつらは)


 俺は困惑した。


 リンネアも混乱している。

「宿舎……でも、ここは神の聖域では……?」

 ガルムが苦笑いした。

「三日三晩不眠の審問なんて、結局伝説だったってことか」


 巨大な竜のホログラムが最後に告げた。

『明日の審問では、より深い議論を行う予定だ。田中翔一、君の法的論理と代弁士の適性について、徹底的に検証させてもらおう』


 その言葉に、俺は不敵に笑った。


 (……上等だ。今夜はしっかり作戦を練ってやる)


 俺は決意を固めた。


 サトーに案内され、一行は宿舎へと向かった。

 初日の審問は、予想とはまったく異なる形で幕を閉じた。


(第七章 第四話 完)

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