第三話『沈黙の案内人と、隠された真実』
昇降機は静かに、しかし恐ろしい速度で地下深くへと降下し続けている。
第二話での衝撃的な真実暴露――巫女システムの悪用――を受け、一行は重い沈黙に包まれていた。
リンネアは顔を覆ったまま、時折小さくすすり泣いている。ガルムは拳を握りしめ、怒りを必死に押し殺していた。アリルは小さな体を震わせ続けている。
俺だけが冷静に状況を分析していた。このまま黙っていても始まらない。
「おい、サトー。さっきの話もそうだが、お前ら(竜人族)のことについても聞かせてもらいたい。この世界で『神』と呼ばれている竜人族の正体は、いったい何なんだ?」
サトーは俺を見つめ、事務的に答えた。
『そうした詳細な事項については、審判室にて竜人族のかたから直接ご説明いただけます。私の役割は皆様を安全に案内することのみです』
(また同じ答えか)
俺は探りを入れてみた。
「権限? お前はただの案内人じゃないんだろう?」
サトーは慇懃無礼な口調で答える。
『いえ、私は審判室までの案内人です。それ以上でも、それ以下でもございません』
「じゃあ、魔素だの竜人族だのについても教えられないってわけか」
俺の苛立ちが表に出始めた。
サトーは丁寧だが冷淡に答える。
『そうした重要な事項については、審判室にて竜人族のかたから直接ご説明いただけます。私の役割は、皆様を安全に審判室までお連れすることのみです』
その機械的な対応に、俺は確信を抱いた。
(……完全にマニュアルどおりの対応だな。こいつは本当にただの案内係か)
***
サトーの機械的な対応に、一行はさらに重い沈黙に包まれた。
リンネアが不安そうにつぶやく。
「審判室で……すべてが分かるのでしょうか」
ガルムも警戒心をあらわにする。
「なんだか嫌な予感がする。なぜ、こんな小出しにするんだ」
俺はサトーを鋭く観察しながら思考を巡らせた。
(こいつの態度……ただの案内係にしては妙に用心深い。まるで、俺たちに何かを隠しているみたいだ。そして、この降下時間の長さ……いったいどこまで深く潜っているんだ?)
アリルは昇降機の速さと異様な雰囲気に震え続けている。この小さな体に、これ以上の負担をかけるわけにはいかない。
だが、このまま何も知らされずに「審判室」とやらに連れて行かれるのも気に食わない。
***
俺はさらに追及することにした。
「で、肝心の『竜人族』の正体は何なんだ?」
サトーは機械的に答える。
『竜人族に関する詳細情報も、審判室にて竜人族のかたから直接お聞きください。私からお伝えできるのは、皆様が間もなく直接お会いできるということのみです』
俺の苛立ちが募る。
「何から何まで『審判室で』か。お前、本当に何も知らないのか、それとも隠してるのか?」
サトーは無表情で答える。
『私は案内人です。案内以外の役割は担っておりません』
その答えに、俺は確信を深めた。
(……こいつ、絶対に何か知ってる。だが、頑として口を割ろうとしない。まるで厳格なプログラムに従ってるみたいだ)
***
リンネアとガルムは、サトーの機械的な対応に不安を募らせていた。
リンネアが不安そうに言う。
「なぜ……なぜこんなに隠すのでしょうか。私たちが知ってはいけないことなのでしょうか……」
ガルムも苛立ちを見せる。
「代弁士の審判を受けに来たのに、肝心なことは何も教えてくれないじゃないか」
アリルは大人たちの緊張した雰囲気に震えていた。
俺はサトーを鋭く見据えた。
「おい、サトー。お前の態度はおかしいぞ。まるで俺たちを危険人物扱いしてるみたいじゃないか。それとも、俺たちが知ったらまずい秘密でもあるのか?」
サトーは変わらず機械的に答える。
『皆様を危険人物として扱っているわけではございません。ただし、重要な情報については、適切な権限を持つ竜人族から直接お聞きいただくのが適切と判断しております』
その杓子定規な対応に、俺の怒りが爆発しそうになった。
「適切だと? お前らに勝手に判断される筋合いはねえ。……いいだろう。竜人族とやらに会わせろ。今度こそ、すべて吐かせてやる」
サトーは無表情で答える。
『承知いたしました。間もなく、それが可能になります』
***
そのとき、昇降機が深い音を立てて減速し始めた。
『地下百二十階に到達します。間もなく最終目的地「審判室」に到着いたします』
昇降機の扉が開くと、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
俺の目に映ったのは、巨大なクリスタルのようなサーバー群と、それを取り囲む無数の光る配線、そして天井まで届く巨大なモニター群だった。
だが、リンネアやガルムには、それらは「神秘的な水晶の洞窟」「光る蔦」「天空に浮かぶ光の板」のように見えているはずだ。
俺は苦々しく思った。
(やっぱりな……こいつらが俺たちを見下すわけだ。この技術格差を見ろよ)
サトーが一行を促す。
『こちらが審判室です。竜人族のかたが皆様をお待ちしています。……皆様が知りたがっている「真実」について、直接ご説明いただけるでしょう』
サトーは相変わらず無表情で、機械的に立っている。だが、翔一は、その無機質な態度の中に何か得体の知れないものを感じていた。
(……こいつ、本当に何も感じてないのか? それとも、俺たちのことを観察してるだけなのか?)
俺は歯を食いしばりながらつぶやいた。
「上等だ。今度こそ、すべて吐かせてやる」
怒りを静かに燃やす俺を先頭に、不安を抱えるリンネアたち、そして震えるアリルが、ついに真の竜人族との対峙の場へと足を踏み入れる。
第七章 第三話 完




