俺のせい
家の中。
俺は、座り俯く。
ガチャリ、と家のドアが開く。
「……あっれー?将棋やってないの?私に勝てるようになるまで、練習するんじゃなかった?
………もしかして帰ってくるまでずっとその態勢?
もう、どうしたのよ!気にしすぎだって!」
栂野さんは俺の肩を叩く。
しかし、俺はそれに返事をすることができない。
俺のせいでたくさんの人達が………
「うーん、そっかぁ。美味しいケーキ買ってきたんだけどなぁ。あげようと思ってたんだけどなー、そんなに元気ないんじゃ、食べられなさそうよねー?」
栂野さんは横目で俺を見てくる。
それでも反応のない俺に、栂野さんはソファーの
横に座って後ろから体を抱きしめられた。
「大丈夫よ。よく頑張ったわね。」
「…………………」
「どうして、自分のせいだと思ったの?」
「…………俺のせいで。」
「うん。」
「俺のせいでたくさんの人が死んだ。」
「私も沢山の人を守れないどころか、私自身が守らなきゃいけないあなたにまで戦わせてしまったわ。責められるなら、まず私が責められるべきよ。」
「違う。違うんです!俺は………」
「………そうねぇ、もしあなたじゃない他の誰かにその神様、ていうのが取り憑いたとして、急に戦場に人の為を思って向かうなんてこと、できると思う?」
「…………………」
「あなたはやれることを全てやった。そして、あなたはただ不幸な出来事に巻き込まれてしまっただけの、普通の子どもよ。悪いことなんて、何にもないわ。」
「……………でも、俺がもう少し早く出ていれば。」
「私が隠れてなさいって言ったんだから、それじゃ私のせいよ。ひびきくん、私が悪いっていうの?」
「い、いやそういうわけじゃ。」
「大丈夫よ!安心なさい!オールオッケー!」
栂野さんは、再びぎゅっと体を抱きしめてくれた。
「怖かったわね。よく頑張ったわ。」
すると、俺は自然と涙が流れて、止まらなくなった。
暗い空間。
某策を企てた者達は、唸り声を上げながら、
次の策を思案していた。
『ぬぅ、まさかあれがやられるとは。』
『導きの力が想定よりも遥かに大きい。非常にまずい事態だ。』
『かくなる上は、契約者を送り込むか。』
『いや、それはリスクが高過ぎるのでは?』
『そうです。万が一捕えられれば、目も当てられません。』
『………秘策を用意してある。』
『秘策とは?』
『既に手は打った。後は、機を待つだけだ。』
病室で眠る、1人の高校生。
その首筋には、ひとつの紋様が浮かぶ。
「栂野さーん!野菜切れましたー!」
「よろしい!じゃあ、フライパンに入れといて!」
「はーい!」
俺は栂野さんのおかげですっかり立ち直ることができ、今は一緒に調理をしている。
ピーマンともやし、それに豚バラロースを入れて、
青椒肉絲だ。家でもよく母さんが作ってくれてて、馴染みの料理だった。
「よし!できた!召し上がれ!」
「よっしゃあー!頂きまーす!」
俺は年頃の高校生でもあるので、
ガツガツと頬張る。
それを栂野さんは嬉しそうに眺めていた。
「栂野さんって、いつからここに?」
「えっ?そうねぇ、二十年くらい前からかしら?」
「に、二十年っ!?」
「そうよ。意外だった?」
あまりにも若く見えるので、それほど長くないのか、と思っていたけど、そういえばエレベーターで会った人『長官』って言ってたような………。
「私、こう見えて結構偉いのよ。」
イェーイとピースをするその格好はあまりにも
若々しく、驚かざるを得なかった。
「口、ついてるわ。」
栂野さんはハンカチで俺の方を拭う。
「本当によく頑張ってる。」
そう言い柔らかな笑みを浮かべる栂野さんは、
何だか母さんみたいで不思議な感じがした。
次の日の昼
ピンポーンと、インターホンが鳴る。
「すいませーん。」
聞いたことがある声だ。
「ごめーん、手が空いてないから出てくれなーい?」
「はーい。わかりました。」
玄関のドアを開けるとそこには、以前エレベーターで出会った栂野さんの次、二番目に出会った人がいた。
「あら、ひびきくん。久しぶり。」
「お久しぶりです。」
制服の名札を見ると、森野と書いてあった。
「あぁ、名前まだ言ってなかったね。私の名前は、森野ひな。よろしくね。」
「森野さん、よろしくお願いします。」
「えぇ、よろしく。」
森野さんは笑みを浮かべた。
そして、ふと思い出したようにポケットからある物を取り出す。
「これ、ひびきくんのパスキー。色んなところで必要になるから、なくて困ってたでしょ?」
「あぁ、いや、まぁ。」
それほど外出していないので、正直必要な機会はあまりなかった。けれど、まぁ困ることがあるといけないので、たすかった。
「ありがとうございます。」
「いいえ、どういたしまして。」
「あ、ちょっとひなちゃん!」
栂野さんがリビングから顔を出す。
「ちょっと、この子気晴らしに遊びに連れて行ってあげてくれないかな?」
「えぇ!?わ、私がですか?」
「お願い!どうか、よろしくお願いします!」
栂野さんは手を合わせて頭を下げる。
森野さんは何故か少し頬を赤くしながら、了承する。
「分かりました。ひびきくん、せっかくですから施設の案内も兼ねて、遊びに行きましょう。」
「わ、分かりました。」
俺は、森野さんに後ろからついていく。
綺麗な滝と虹の見える巨大エレベーターを乗りながら、まだ行ったことのない道のエリアに少し心が踊る。一体どんな場所があるんだろう?
「この場所はね、日々厳しい訓練や仕事がある一方できちっとリフレッシュできるように、色々あるのよ。」
とても長いエスカレーターを登った先には、幻想的な光景が広がっていた。
「うわぁ。」
思わず驚嘆に値するその光景は、山ほどあろうかと言う巨大な水槽の中に浮かぶ、あまりにも巨大な鯨の姿。そして、それに連なる生態系の数々と、空から差す光に照らされるは遺跡を模したオブジェクト。そして、聞こえてくる神秘的な鯨の鳴き声にはどこか恐ろしさすら覚えた。
「すごいでしょ。私も初めて見た時、声が出なかったもの。」
「はい……本当に。」
しばらく見惚れてしまった。
「それじゃあ、先に進みましょうか?」
「は、はい。」
俺は言われるがままに進む。
「ここが、カラオケでしょ?それで、ここがゲームセンター。あっ!ここは卓球とかフットサル、様々なスポーツのできる施設ね。それから、えーっと………」
森野さんは振り返って俺の方を見る。
「何かやったみたいもの、ある?」
「えーっと………」
正直たくさんありすぎて、どれと言われても困ってしまうのだが、やってみたいものと言えば……
「卓球……とか。」
「おっ!いいわね!やりましょう!」
すごく跳ねて喜んでくれた森野さんをみて、ホッとした。俺たちは施設に入ると、中ではフットサルやバッティングセンター、それからバスケにそして卓球をするところが目に入り、みんな汗を流して運動をしているようだった。
「さぁ、やりましょうか。」
施設の費用は、森野さんが払ってくださったようです俺は頭を下げる。そして、ラケットを渡してもらってお互い配置につき、いざ、始めようと身構えたとき森野さんのフォームが明らかに素人のそれとは異なっていた。
「いくよ………!」
「は、はい!」
「そーれ!」
始まる。
放たれたサーブを何とか打ち返す。
しかし、少し甘く入ったようで……。
「もらったぁ!!!」
鋭いスマッシュが台の端を駆ける。
「よし。私のポイントね。」
森野さん、目が座ってる!本気だ!!
そうとなれば、俺もやらなければならない。
俺は負けず嫌いだ。たとえどんな勝負でも、
決して最後まで諦めない!!!
11ー0
俺は地面に項垂れる。
森野さんはキャピキャピ喜んでいる。
て、手加減できない人だ!!!
「もう一度、お願いします!!!」
「フフフッ、かかってきなさい。」
12セット、1点も取れずパーフェクト完全敗北。
それが俺が死力を尽くした結果だった。
「まだまだね。」
「師匠、またお願いします。」
汗を大量に流しながら、俺は頭を下げ、お互い熱い握手をする。いつの間にか森野さんの呼び方が師匠になっていた。
その後も色んなところに立ち寄って、本当に体に重くのしかかっていた疲れが一気に吹っ飛んだような気がした。とても楽しかった。
「あら?おかえりなさい。」
帰ると、栂野さんが出迎えてくれた。
「えぇ、ただいま。」
「それじゃあ、ひびきくん。待ってるわよ。」
「えぇ、師匠。また、よろしくお願いします。」
「し、師匠………?」
栂野さんはポカンとした様子で、俺たちを見ていた。




