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Sky  作者: ヤマト
1/5

化物



「うぉーい!瀬都ー!」


学校の帰り道、1人で帰っていた瀬都ひなせに声を掛けるのは、同級生同クラスの桃田ひびき。


「ひびき。補習じゃなかったの?」


「抜けてきた!」


シシッと、白い歯を満面に出して、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「怒られるよ。」



「大丈夫だってー!俺推薦決まってるし!」


補習を受けるほどの落第を取ってなお、推薦で彼を取りたい大学は山ほどあった。それほどに彼が頭抜けた才能を持っていたからだ。


「運動神経いいだけじゃ、将来偉い人に騙されちゃうよー。」


「関係ねぇよ!この世で1番俺が偉いから、俺は誰の指図も受けねー。」


桃田ひびきは空を見上げる。

雲一つない晴れ空。将来に悩みなど何一つない。

自分は何でも乗り越えられると信じている。

何故なら、今までもそうだったし、これからもそうしていくつもりだからだ。


「少なくとも、僕はひびきが心配だよ。悩みがあったら、すぐに相談するんだ。君は抱え込むからね。」


「俺のことは俺が解決するからそれでいーんだよ。」


「そう言う問題じゃない。いつか、限界がくる。色んな意味で。」


「来ねーよ。心配しすぎだって。」


その時だった。

急に辺りが暗くなったと思ったら、瀬戸ひなせが倒れていた。口から血を流している。


「はっ?」


ズッ、と


鈍い音とともに己の体が吹っ飛ぶ。

コンクリートに数回叩きつけられて、呼吸ができない状態で、俺は顔を上げて前を見る。


そこにいたのは、黒い四角形の箱。箱からは黒い腕が這いずり出て、何かを掴もうとしている。あまりにも不気味で恐ろしいそれはどう考えたって、この地球上に存在するはずのない化け物だった。


「くっ……かはっ!?」


俺は無理やり立ち上がる。

そして、腹を抑えながら、目の前の化け物を睨み、頭をフル回転させる。


(考えろ。どうする。俺1人なら逃げりゃいいが、あの化け物の足元にはまだひなせがいる。)



考える間も無く、ゾロゾロと不気味な手が伸び、今にもひなせを掴まえようとしていた。


「やめろ!!」


俺は無我夢中に走り、その手に掴みかかる。手は、信じられない力で俺を振り払った。俺は数メートル飛ばされて、木に衝突し、再び息ができなくなる。


(ひなせ…………)


俺は薄れゆく意識の中、神に願った。

どうかひなせだけは、助けてください、と。

ひなせは、俺の命の恩人だ。そして、かけがえのない友人。絶対に渡さない。


『力が欲しいか』


突如、体の奥から波打ち、聞こえゆく声。

心臓が止まりそうなほど、汗が滴り目は揺れ動く。

本能が言っている。こいつに答えちゃいけない。


しかし、もう黒い手はひなせに迫る寸前。

躊躇している余裕はない。


「力を、くれ。」


そう言った瞬間、蒼い奔流が迸り、体には不思議な力が溢れた。そして、これから言うべき言葉も。


『burst』


その言葉と共に、黒い腕は破裂する。

耳を劈くような甲高い悲鳴が、辺りに響き渡る。


「うるさいな。」


俺は立ち上がる。

もはや、痛みなど感じない。


『raise』


俺が指を上にあげると、化け物は空高く打ち上がる。


Fenrir(フェンリル)


俺がそう言うと、背後に黒い影が出現し、その中から巨大な狼の化物が現れ、箱を喰らい尽くした。


俺は口から滴る血を手で拭った。

背後に息遣いを感じる。間違いなく、俺はとんでもない相手と契約を交わした。

『Fenrir』

魔の獣。神を喰らい、縛られた幻獣。

今日から俺は、巻き込まれる。

未曾有の騒乱に。













「………ってことがあったんだけどよ。」


「ひびき。いよいよだね。これあげるよ。」


ひなせは自分が服用しているカプセルを渡した。


「いらねーよ!何が起こったって、最初のあの黒いので何となく想像つくだろ!」


「悪いけど、僕それ見てないんだよね。急に頭にガッときたと思ったら、そっから真っ白。」


「だぁー!!話進まねー!!!」


本当のことだってのに!!

俺は、とんでもねーことに巻き込まれてしまったのかもしれない。代わりに、親友も救えたし、俺の命も助かった。だから、まぁ、感謝してる。それはそれとして、非現実的な事象が、いまだに受け入れられないでいる。自分の頭ん中でパンクしそうで、すぐにでも誰かに打ち明けたくて………でも、こんなん誰が信じてくれんだよ。


「信じるよ。」


俺はハッと、ひなせのほうを向く。


「ひびきの言うことだからね。まぁ、間違ってたってひびきは天然だから、何か勘違いでしょ。」


俺は思わず肘で突いた。


「なんだよ。」


「さすが俺の親友。まじで。」


腕を肩に回して、引き寄せる。


「うわっ、あついよ。」


「あはははっ。帰りアイス買って帰ろーぜ!」


「あぁ、いいけど。」














小暗く地下に広大に広がる空間。

培養液の満たされたガラスの円柱に浮かぶ脳が、無数にそこにはあった。彼らは話し始める。


『予言の阻止に失敗しました。』


『むぅ。何としてでも阻止しなければならんかった。』


『このままではラグナロクの再来となる。』


『始まる。始まってしまう。世界の崩壊が。』


『各なる上は手段を選ばず、あの兵器を利用するしかありません。』


『いや、しかしあれは……やむを得ないか。』


『至急、配備せよ。多少の犠牲も厭わん。』


『世界救済の為だ。悪く思うなよ、若者よ。』

























「あー、あちぃ。」


「タダでさえ夏でバカ暑いのに、くっつくからだろぉ。」


「アイス食べ切る前に溶けるわ。」


ひびきは、打撲痕、あの黒い箱に打ち付けられて黒くなった箇所を見つめる。


「なんだ?どうかしたのか?」


「いやさ、あの化け物にしばかれた所黒くなってっから、病院一回見に行っといた方がいいんじゃねぇかなって。」


「あぁ、確かに。少し痛むね。」


ひなせがおでこの黒ずんだ部分を触る。


「でも、大丈夫だよ。すぐ治まる。」


「俺は行っといた方がいいと思うぜ。頭打って、何ともないのに次の日目覚めることなく、何てこと聞いたことあるからな。」


「うーん、わかった。じゃあ、病院予約してみるよ。」


「うし!一安心!」


コンビニの手すりから、腰を上げて、携帯で予約を取ろうとしたその時、視界の端に何かが映った。視線を上に移す。


「はっ?」


「どうした?ひなせ………って、はぁ!?」


上空には数十を超える黒い箱が明らかにこちらに向かって、飛んできている。


「ひなせ!下がれ!!」


ひなせは下がろうとするが、地面に黒ずんだ空間が生じ、そこから腕が生えて彼を引きずり込もうとする。


「ひなせっ!!」


足を掴まれた彼は、体を捻りながら腕を掴み、黒い淵から引き摺り出しその正体を地面に叩きつけた。


「何度も同じのにやられるのは、癪なんでね。」


その正体は、ひとつ目の羽の生えた悪魔?

不気味な笑い声を浮かべ、牙を尖らせる。


『raise』


叩きつけられ、手を離した化け物を空へ打ち上げる。


「仲間割れしとけ!!」


そのまま化け物を空中の集団にぶつける。

すると、黒い悪魔は瞬く間に黒い箱から出てきた黒い腕に引きちぎられ、箱の中にその残骸が引き込まれる。そして、グシャグシャという生々しい音とともに血が滴った。


「こいつらは何なんだよ!?」


「おい!ひびき!お前、こいつら何とかなりそうか!?」


「あぁ!任せろ!」


「なら、僕は囮になる!その隙にこいつらまとめてやってくれ!」


「おう!わかった!無茶すんなよ!」


自然と分かる。与えられた力が、その意味が。


辺りにいる人達が気づいて、悲鳴を上げる。

ひなせが人のいない方に誘導する。


「いけそうか!?」


「おう!」


ひなせに引きつけられた化け物どもは、完全にごっちゃになってまとまってる!


『blast』!



黒い化物が爆ぜる。

ひなせは爆風を手を前に掲げて、防ぐ。


「おい!熱いぞ!もうちょっと何とかならないのか!?」


「これで限界だ!今はな!」


だが、慣れてきた。

この感じなら、この爆発を繋げて、一掃できる!


『blast』!!!


ひなせに向かって連なった化け物たちの列に沿うように、爆撃を走らせる。化け物たちは爆ぜて、消滅した。


「やり〜!!」


「やれやれ。あー、皆さん。ショーをご覧くださり、有難うございました!以上なります!それでは!」


ひなせが、周囲の人々を綺麗にまとめ、俺の手を引っ張ってその場を去る。


「お、おい!どこ行くんだ?」


「通報されるでしょ。あんな派手にやれば。トンズラこくんだよー。」


「そっか。確かにそうだな。」


何か俺も、妙に違和感なくやってるからそんな感じてなかったけど、他の知らねぇ人達からすれば、明らかに異常だもんな。


「ひびき、ストップ。」


ひなせが、俺の手を引っ張って、引き止める。


「うわっ!?何だよ!?」


ひなせは目の前を指差す。


「あれ、ヤバそうだよ。」


目の前に見えるのは、明らかに異質。

空気が変わる。黒い羽、人の体、貴族が身に付けるようなシルクの黒と白の布に覆われた体躯。


まるで神様に出会ったような、そんな感覚。


『ーーーーー』


瞬間、ひなせの胸が光に貫かれる。


「ひなせっ!!!!」


俺が、怒りで相手の方に振り向いた時には、強烈な破裂音とともに顔前は血に染まり、強烈な痛みと共に、目の前が真っ暗になり、俺の意識は遠くへ沈んだ。



























「うぅん………あっ?」


俺は重くなった瞼をひらく。


「いててて………。」


体の痛みに耐えて、体を起こした。

見渡すとそこは、まるで終末世界の映画で見たような地下施設にある一室。薄緑の鉄壁(てつかべ)に床は丁寧に床暖房だ。


「あったけぇ。」


ここが何処か分からないが、ひとまず助かったようだ。しかし、俺はすぐに友人であるひなせの姿が見えないことに気づく。あいつは重症なはず。


「ひなせっ!」


俺が声を出すと、それに反応するように扉が開いた。


「あら、お目覚めのようね。」


そこにいたのは、金髪ロングのハーフっぽい女性。軍服のような格好に、葉巻を口にしている。しかし、


「うっ……ケホケホッ!な、慣れないことはやるもんじゃないわね。」


どうも慣れていなかったようで、咳き込んで、後ろを向く。しばらく咳き込んだ後、コホンッ、とひと息つけて俺を見た。


「あ、あの、ここは………」


「いらっしゃい、ひびきくん。ここは、国の防衛軍事施設。あなたの身柄は我々が保護しました。」















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